Day1‐9

 魚の群れに投げ込まれたエサのように、わらわらと周りに小さい子達が集まってくる。

 佐伯はその中でポツリひとりぼっちの女の子を見つけた。

「小雪さん」

 先程の女性が振り向く。

「あの子、名前なんじゃ?」

「ああ。涼香ちゃんね、少しシャイなのよ」

「シャイ?」

「恥ずかしがりやってこと。男の子もあまり好きじゃないみたい」

 ふうん、と笑って、佐伯は近づく。涼香は驚いてその場で固まっていた。

「お前、アイがないんじゃの。僕がアイを教えてあげよう」

 そう言って堂々と涼香に向かい、先程の自分が聞いたばかりの話を教え始める。

 小雪さん、と呼ばれた女性も笑いながらそれを見ていた。

「……じゃけん、アイは大切なんじゃ。わかるか?」

 その言葉に涼香は全くわからないとでも言うように、視線を逸らす。

「……生意気なやつじゃ」

 佐伯はいきなり涼香を抱き上げた。小雪が慌てて近寄る。

「貴弘く」

「アイはのう、暖かいじゃろ?

 これが家族じゃ。これが一番大切なんじゃ」

 もがく涼香を抱き締めながら、佐伯は囁き続けた。

「僕が涼香の家族になっちゃるけえ。もう一人じゃないで」

 もちろんまだ赤ん坊だった涼香はその事など覚えていない。

 しかし、今の涼香にとって佐伯は家族以上の大切な存在になっていた。

 憧れと尊敬と、そして言葉で表せない好意。

 それが"愛"だとは、彼女は知らない。

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