Day1‐8
佐伯と二人が初めて会ったのは20年前。
二人ともまだ生まれたてで、それこそハイハイができるようになった頃だった
「可愛いのう。お餅みたいじゃ」
佐伯ですらまだ10歳の子供だった。
「この子は涼香ちゃんって言うのよ。こっちが伸一くんね。それからこの子があみちゃん、潤くん、葵ちゃんで……」
側にいた女の人が一人一人指差しながら教えていく。
「沢山いるから覚えられん!」
「でも皆もこれから、貴弘くんがしてもらったみたいに沢山のことを勉強しなくちゃいけないの。
貴弘くんも大きいお兄さんたちが教えてくれたでしょ? だから、あなたも」
「でも外の世界ではベンキョウなんてしなくて良いって兄ちゃんが言ってたで」
「貴弘くん」
「兄ちゃんは外の世界に出るんじゃと。ベンキョウしなくても良い世界なんじゃと。
皆そっちの方が楽しいんじゃないかのう」
「……あのね、貴弘くん」
彼女は呟いた。とても、悲しそうに。
「私たちの世界は確かにとても貧しくて、便利でもなくて、外の世界の方が良いって思うかもしれないよね。
だけどね。
外の世界には"愛"が無いの」
「アイ?」
「誰かを好きになったり、誰かに好かれたり。家族を大切にしたり、家族に大切にされたり。
そういうのを人は"愛"って呼ぶのよ」
「外に行くと、皆、家族がおらんの?」
「家族はいるわ。でもそれが存在するだけ。家族、という言葉の意味が違うのよ。ちょっと難しいかな?」
「……うーん」
佐伯が首をかしげる。
「ようわからんけど、みんな寂しそうじゃけえ」
じゃあこっちのがええのう、と呟いて佐伯は子ども達のいる部屋へと足を踏み入れた。
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