Day1‐7
ガコンと体が上下に揺れた後、ゆっくりと地面が上がっていく。いや、自分達が下がっていくエレベーターに乗っているだけなのだけれど。
今の涼香にはそんな風に感じられた。
「置いていかないで! 私をここから連れ出して!」
そう叫びそうになって、拳を握りしめる。爪の刺さるその痛みが、否応なしに自分がそこに存在していることを実感させた。
「しゃーないけ、安心しんさい」
伸一が呟く。
「……なにが」
涼香は何を言っているのかわからない、とでも言いたげに身動ぎする。
「……狭いんじゃけ、動かんといて」
伸一が何故か上を向きながら、彼女の体から少し離れた。
「……何考えちゃってんの、馬鹿じゃん」
「男じゃけん、許してや」
「やだやだ、気持ち悪い」
また上下に体が浮いて、扉が開く。伸一から逃げるように、するりと足を踏み出した。
「やあ、二人とも。今日がその日じゃったの」
熊のように体の大きな男が歩み寄ってくる。
「佐伯さん」
「お久しぶりです」
「涼香も伸一も、よう来てくれたわ」
最近の若者はよく逃げるから、と右手を拭いながら笑いかけてくる。ハンカチが少し赤みが帯びるのを二人とも見て見ぬふりをした。
「俺らもやっと二十歳になりましたよ、佐伯さん」
「最初に会うたときは、こーんなに小さかったのにのう」
佐伯が手を腰の辺りまで下げる。しかし体が大きいせいで、あまり小さくならない。二人は声をあげて笑った。
「俺らが佐伯さんに初めてあったのは、まだ目も見えてない時ですよ。
それじゃあ、百十センチは身長ありますわ」
「がはははは。よう言うようになったわい」
下げていた手を伸一の頭の上に勢いよくのせる。そしてぐりぐりと撫でた。
「ちょ、佐伯さん、身長縮みますから」
「顔が良い分、身長くらい小さい方が女も寄ってきやすいじゃろ」
「佐伯さん。伸一の顔が良いなんて冗談、笑えませんよ」
「お前も言うようになったのう」
佐伯は空いた方の手で涼香の頭もぐりぐりと撫でる。
こうされるのも佐伯さんのことも、彼女は大好きだった。
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