Day1‐6

 舗装もされていないアスファルトを踏みしめる。

 曲がりくねった細道は人間の血管のようで、正しい方向へ進まないと命取りになる。

 万が一、逆流しようものなら、もっとも重要な部分は止まってしまう。

 この猫の"存在しない"細道も、"オリヅル"には欠かせない血管の一部なのだ。

「この道をこんな気持ちで見るのも、今日で最後かの」

 伸一が笑った。その表情は見えない。

「……また見られるよ、すぐにでも」

「次見るとき、俺たちは俺たちじゃない」

「どういうこと」

「"オリヅル"に賛同した時点で、俺たちはこの世界には必要のない異端になるわけじゃ。

 こんな風に何も怖がらず、歩くなんてできんくなる。俺たちは俺たちとして、自由に生きられんくなるじゃろ」

 そう言って振り返る。

 その目を見て、目を逸らした。

「……私たちが間違っているわけじゃないのに」

「みんなそう思っとるよ。俺たちも。

 外の世界の住人たちも」

「外の人たちは間違ってる。だって」

 だって。

 私の父親を殺したのは、やつらなのよ。

 涼香は言葉を飲み込む。彼の前で親の話は禁句だった。

「……気を使わず、言いたいこと言うたらええよ」

 引き戸に手をかけながら伸一が呟く。

「忘れられるようになるまで言ったらええよ」

 勢いよく扉を開いて、中に入る。

「涼ちゃん、おいで」

 人一人がやっと入れる空間に身を寄せ会う。

 凄く嫌なはずなのに、何故だか心が落ち着いた。

「私たちの運命が待ってる」

 涼香は思い切り微笑んで、扉を後ろ手に閉めた。

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