Day1‐5

 何百年も前に、猫の細道として親しまれていた裏道を抜ける。

 姿は見れないが、昔は猫で溢れていたらしい。今はAIが"不要なモノ"として処理してしまった。

 処理、というのが殺すことなのか、どこか別のところへ送ることなのか。どちらかはわからない。

 だけど、"不要なモノ"である私たちは常に狙われている。そして"処理"されないように抗い続けているのだ。だからきっと。

 抗う術の無かった猫たちは、もうこの世にはいないのだろうと思う。

「……いつみても」

 伸一が呟く。

「いつみても、ここからの景色は綺麗じゃのう」

 どこが、と涼香は思った。

 昔はさぞかし綺麗だったに違いない。しかし今、視界に映るのは荒れ果てた民家の海と永遠に続く海原だけ。

「伸一は本当、他の人とずれてるよね」

「そんなことなかろ。人間がいかにちっぽけでつまらない生き物か。

 俺たちがどれだけちっぽけで世界を知らないのか。この景色を見たらすぐに気づけるんじゃ」

「仕方ないじゃない。外にでられないんだから」

「そうじゃけど」

「伸一は外に出たらいい」

 ぽつり呟く。

「……決めたんじゃな」

 伸一はまっすぐと遠くを見つめたまま、涼香に尋ねた。

「私は」

「俺は、俺はな、涼ちゃん」

「うるさい。黙って聞いて」

「……」

「私はここに残る。父の仇を打つ。他の人みんながあれは事故だと言ったとしても。

 私にとっては、父が死んだことがまず事件なの。もやもやしたまま、死にたくない。

 私は忘れたくなんか、ないの」

「……自分が決めたことじゃ」

 伸一がゆっくりと振り返り、涼香を見つめる。

 その目をしっかりと見つめ返した。

 しかし、遠くから眺める海のように全く底が見えない。

「俺はお前について行くよ」

 そして、その目は涼香を少し責めているようだった。

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