Day1‐3

「世界は残酷じゃのう」

 伸一が呟いて、涼香は静かに頷いた。

「なして、俺らは世間様から冷たい目で見られにゃいかんのんじゃろな。

 色んな考え方があって色んな人がいる。それが"世界"ってもん"地球"ってもんじゃろうに」

「……急に真面目になって、どうしたの」

「いや、ここら辺で真面目なことゆうとかんとね。俺もちゃんと考えてるって証明できんじゃろ」

「ふぅん」

 涼香は指先でグラスの水滴を拭う。それから机に文字を書いた。そしてそれをすぐに消す。

「何?俺のこと好きって書いたん?」

「それはないから安心して」

「ぶち酷いわぁ。連れない女じゃのう」

「釣りたいなら、もっと頑張ったらいいじゃない」

「どう頑張ったって意味なかろうに」

「そうなんじゃけど」

「お待たせしました。こっちがクリームパスタね。それでこっちがリゾット」

「おー! うまそうじゃのう」

 店員が料理を運んでくる。ここはヒロシマ唯一の料理店だ。自家栽培の限られた食材で作るため、基本的には何かの記念日にしか開いていない。

 匂いにつられて伸一が手を伸ばす。涼香も手を伸ばした。

「……あ」

 袖に触れたグラスが斜めに倒れていく。中身が溢れ落ちる寸前に伸一が受け止めた。

「……ありがと」

「どういたしまして」

「あら、伸一君。いつから運動神経良くなったの? いつも何もないところで転ぶのに」

「もしかしたら倒れるかともって思っただけじゃき、普通じゃ。運動神経も普通!」

「そうかしらねえ」

「実咲さんも酷い女じゃのう」

 うふふ、と笑いながら彼女が立ち去る。伸一がショボくれた顔をしていた。

「女の人、酷い女なんて言うなんて、伸一も酷い男」

 涼香は何か面白くなくて呟く。

「俺は酷くもなんともないで。涼ちゃんに一途じゃけん」

「なに言ってんだか」

 ストローをくるくると回す。

「さ、さ。食べよ」

 伸一が笑ってリゾットを差し出した。

「……今日はパスタがいいもん」

「それは想定外じゃ」

 涼香はツンと横を向いた。

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