The sole meaning of life is to serve humanity

レフ・トルストイ/小説家

Day1‐1

 この国は小さくてつまらない。

 だけれど、他の国は大きくてもっとつまらない。

 それが口癖だった。

「涼ちゃん?」

 伸一が、ぼうっとした目で涼香を見つめている。

「はぶててる?」

 彼女は首を振って咥えていたスプーンを置いた。

「ちょっと考え事」

「ちょっとどころじゃないけぇね」

「……ごめんて」

 私は伸一が嫌い。それも口癖だった。何回も何回も言うのに、なぜかついてくる。言葉が理解できないペットみたいだな、といつも彼女は思っていた。

「もう俺らも20じゃけん。考えることもよーけあるわな。難しいよな」

 そのくせ、時折涼香の頭の中を覗き込んでくる。

「俺は涼ちゃんが出ていくならついていくし、出ていかないなら側にいるけぇね、安心しんさい」

「いや、居なくていいよ。合わせることない」

「でも俺は涼ちゃん守らないかんし」

「そういうのが"たいぎい"って言うの!」

「連れん女じゃのぅ」

「しかも弱いくせに、何言っちゃってんの」

「それを言われたら何も言えんわぁ」

 つまらない会話。

 グラスを涙みたいに水が滑り落ちる。なんて。

 馬鹿みたいと彼女は薄笑いを浮かべた。

「20歳に、なりたくなかったのぅ」

 伸一がポツリと呟いた。

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