惚気話

 聞いてくれよ!恋人と気が合わないんだ。いや、気が合わないんではないんだよ。気が合わないのならきっと恋人にはなっていないだろうから、たぶん気は合っているんだろう。うん。言っている意味がよく分からないという顔をしているね。とにかく、二つに一つを選ぶときは必ずバラバラになるし、映画を観ようと言って持ち寄った映画のジャンルは正反対だ。そして、相手が持ってきた映画を観るときは大概いつの間にか寝ている。結局、眠る恋人を肩やらソファーやらにもたせ掛けて一人で観るか、テレビの電源を落として一緒に寝てしまう。意味が無いじゃないかって?確かに、たまに溜息が出そうになるけれど、もう癖になっているのが分かっているので何も言えないんだ。それに、起きていようと頑張ってもあえなく舟をこぎだす恋人の様子を見るのは楽しいし。

 それはそれとして、問題は朝食だ。毎日交代で朝食を作りあうんだけれど、わたしは和食派で恋人は洋食派なんだ。え?話は分かった?頼む、そのうんざりした顔はそのままでいいから聞いてくれ。自分の習慣と違うことをするのというのは何となくむずむずするものだろう?それで、わたしと恋人は一日おきにそのむずむずを味わっているわけなんだけれど、その日はなんだか朝食に洋食が食べたくてしかたなかったんだ。その日は恋人が朝食を作る番だったから、これはしめたと思ったよ。なんていったって恋人が作るオムレツは絶品だからね。ああ、なんだかあのオムレツが恋しくなってきたよ。とろみがついた野菜が、こう、甘くてふんわりとした卵に包まれていて……。ん?脱線してる?そうだった。わたしは朝食を楽しみにしながら身支度を整えてリビングにいそいそと足を運んだわけだ。そうしたら、テーブルには何が並んでいたと思う?……正解!和食だったんだよ!なんて気が合わないんだろう!タイミングの問題?そうとも言うね。でも、わたしのために恋人がいつも作らない和食を作ってくれたと思うと嬉しくてね。美味しく胃におさめてしまった。それだけの話だよ。聞いてくれてありがとう。

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