劣等と紅茶
テニアは両手を下ろすと、うんざりと返す。
「ちびでしょう。アジア系か、たまたまそういうサイズか。……何かえらく片言と言うか、ぎこちない喋り方でしたから、外人と取るのが妥当かと。ちっともファンタジーじゃない、ゴリラ系魔法でしたけれど。あほみたいにぶっ壊して。……あの身体能力の強化に分かるように、既に存在する事柄に対して干渉する。
「その虫にディスられたのが許すマジと」
「許すまじですよねそう表すなら。馬鹿なんですか」
「励まそうと思って……」
「要りません」
そのようなつもりだった態度では全く無いし、寧ろふざけていると一目で分かる。
そもそも何故あのおっさん
「じゃあ、肉体を強化する魔法っていうのは、
「まあ生物学的に働きかけて、筋肉量を増やすとかって訳ではないんですけどね。魔法で外的に補助をしているというだけで。あのふざけた建物破壊パンチも、魔力を纏った魔法の拳という事になり、故にあんなちびでモヤシな体格にも拘らず、あのような威力を出せたという訳です。
……表現が刺々しい。
眉をハの字にしながらも、そこには触れないブラスコ。
「ふうん。じゃあ、あの蛇のおばけみたいなのはどうなんの?」
昨日帰宅しながら、影の特徴について聞いていたテニアは、自身は見落としていた、蛇のようなあの生物についての意見を述べる。
「ああ、あれはやっぱり、
「じゃあ契約相手に蛇みたいな尻尾生やしたりするのは、
テニアはブラスコを見ると、足を止めた。
ブラスコも立ち止まる。
「……魔法を、その元である魔力を、他の生物に直接流し込むのは、それに死ねと言っているようなものです」
何故そんな事を訊くのかと、テニアは無表情に固まった。
「だから魔法という、外的な形を取るのです。血の味を頼りにして、それを伝って魔力を契約相手に纏わせるんです。剣や鎧を与えるように。そもそも悪魔と人間とは、相容れないものですから。血で仮初の絆を結んで、同調した振りをして。魔力を受け入れられるのは悪魔だけ。その基本を無視して注げば、その生き物は変質してしまいます。毒か、過栄養となって、蝕んだ挙句殺してしまう」
「そんな風に見えた瞬間があったからさ。あの黒い子が使った魔法」
ブラスコは言うと歩き出す。
「……黒いって、あのちびですか?」
テニアは続いた。
「そ。ほんの一瞬だけどね。黒い子の足元からじゃなくて、腰からにゅっと蛇みたいな尻尾が」
「それ、は……」
テニアはブラスコの言葉を反芻すると、考え込むように口元を手で覆う。
然し、もしそうであれば。
「ご主人」
口元に手を当てたまま、テニアは低くなった声で呼ぶ。
ブラスコはそれに、一瞥で応じた。
テニアはそれに気付いているのか、俯いた視点のまま続ける。
「……もしかするとこの依頼、一万ドルでは、割に合わない内容となるかもしれません」
前から、黒いセダンが近付いて来た。
速度を落とすと、ゆっくりと二人の前に停車する。
「おはようございます。ブラスコさん。テニアさん」
助手席の窓から顔を出したのは、グレブだった。
「おーグレちゃん」
ブラスコは、ひょいと片手を挙げて挨拶する。
「丁度お迎えに上がろうと思っていたんです。ボスの所まで、お送りしますよ」
「あぁすみませんグレブさん。その前に、煙草屋さんに寄って貰ってもいいですか? 買いに行こうとしてた所で……」
テニアは申し訳無さそうに言った。
まだ吸っているのかと、非喫煙者のグレブは一瞬困った笑みを浮かべたが、それでも穏やかな笑みを返す。
「銘柄は? ものによっては店を選ばないと、置いていない事がありますので」
「アークロイヤルで」
ブラスコがドアを開けた後部席に、テニアは滑り込みながら言った。
「甘いの好きなんですよ」
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