確執

「……もし、ガスパールファミリーの誰かによる差し金としたら、可能性があるのは若い衆の方だ。クスリだ臓器売買だ、そんな儲け方は許せねえって、ファミリーへの反発を始めた連中だな。臓器売買の真偽はまだ不明だが、内部抗争は本当らしい。今はそんな噂を立てられちまう程、覇気の無えボスは信用出来ねえってわけえのが荒れてるだけだが、その先の目的は組織からの独立なのか、新たなボスを立ち上げる為の反乱か。今のガスパールファミリーは、綺麗じゃねえだろう? ボスの力が疑われてんのさ。ボス側に付いてる幹部達は、真相の究明が先だと宥めようとはしているが、正直クスリの方の話は、もう何年も前から出回ってる。誰も面と向かって問いはしねえが、南のコンカロッサファミリーも、東のユマークファミリーも、ずっと警戒はしてきた。そもそもガスパールファミリーは、アルヴァジーレの武器事情を担う火薬庫だからな。何が起きるか分からねえ。内部抗争は徐々に知れ渡って来てはいるが、今回出て来た臓器売買は極秘のネタだ。恐らくガスパールファミリーが、漏れねえよう圧力をかけてる。事実を知ってるのはファミリー内の人間だけで、一部の優れた情報屋が、何とかそういう話があるとだけは、掴んでる状態だ。今回俺達勢澄会せいちょうかいは、その情報屋から得ているが……。ああいうデカいネタを扱う情報屋は、その辺のチンピラや便利屋に易々と売らねえ。口が堅く、格のある相手とだけ取り引きをするから、そこからその黒い魔法使いに、漏れたとも考えにくい」


 テニアが口を開く。


「つまりあの魔法使いは、ガスパールファミリーの若手により雇われ、彼らの独立か、組織の乗っ取りを助ける為に現れたと?」

「にしてもその魔法使いの動きが派手過ぎると思うが。 邪魔くせえ虫を払いてえ気持ちは分かるが、あれじゃあガスパールファミリーは今何も出来ませんって言ってるようなもんになっちまう。新勢力に住み着かれ、エデン内で発砲まで許しちまったとなりゃあ、幹部達に魔法使いとグルだと、嗅ぎ付けられる恐れが出るからな」

「当然ガスパールファミリーは、あの魔法使いについてノーコメントですよね?」


 雪村は胸の前で両手を組むと、くねくねと身をよじっておどけてみせた。


「だぁってそんな事ぉ、ギャング殺しで食ってる勢澄会になんて言えないしぃ。あくまで北区エデンの堅気の方から、トニス・ダウアについて調査を頼まれただけで、ガスパールファミリー直々にこちらのゴタゴタ何とかしてくれなんて、貸し作る上に面子丸潰れな事言う訳無いしぃ」

「見栄がお好きな生き物で。相変わらずなんですね、ガスパールファミリーさん」


 テニアは頬杖をつく。


 かつてアルヴァジーレを支配するギャングは、三大・・組織と呼ばれていた。


 それはガスパール、コンカロッサ、ユマークの、三つのファミリーからなり、当時最大勢力を誇っていたのは、ガスパールファミリーだった。


 その勢いは北部と西部、アルヴァジーレの内側の円、ギャングの巣窟である危険域『ダニエル』の半分を支配し、残りの半分をコンカロッサとユマークで二分していた程で、当時アルヴァジーレの武器輸入全てを担っていた力もあり、やがてガスパールファミリーが、この街の全てを得るだろうと言われていた。そこに雪村率いる、当時新勢力であった勢澄会が外部から現れ、ガスパールファミリーから西部を奪い取って今に至る。もう二十年以上も昔の話であるが、その因縁から、ガスパールファミリーの勢澄会への感情は、お世辞にもいいとは言えない。

 縄張り争いなどギャングに付き物。ガスパールもコンカロッサもユマークも、かつてはほんの弱小組織から始まっている。アルヴァジーレの全てを支配したギャングも未だいない。そうして移り変わっていく中でこそ、この街は成り立つ。

 それでも未だ、ガスパールファミリーが勢澄会に恨みを持ち続けるのは、当時ボスであったドグロス・ガスパールを、雪村が殺したからだろう。

 現ボスであるザック・ガスパールは、ドグロスの息子だ。


 小さい。


 テニアは内心吐き捨てる。


 ギャングのくせに誰が死んだだ殺されただ……。そういう世界に頭までどっぷり浸かり、ましてその頂点に手が届きかけた男だ。五体満足で死ねるというのが奇跡というもの。

 まあギャングとはそういうものか。世間から弾き出された分並の人間より、仲間や家族を重んじる。故に、その中で決めたルールを、何よりも厳重に。それしか彼らという人間達の、道標になるものは無いのだから。そもそもまともに生きればよいというものを。まあ縁もあるだろう。悪魔と言えど、運命には抗えない。


 ギャングの起こす厄介事で、飯を食う勢澄会。トニス・ダウアの調査から拾い上げたのは、ガスパールファミリーの内部抗争と、臓器売買の噂。そして突如現れた、正体不明の魔法使いと、それによるガスパールファミリーの壊滅宣言。

 この先の勢澄会の目的は、ガスパールファミリーからの口止め料か。助太刀で稼ぐ仕事のチャンスか。あるいはアルヴァジーレの武器事情を担う、そのパイプか。

 かつて勢澄会がガスパールファミリーから西区を奪った際、ガスパールファミリーによる独占状態だった武器輸入は、かなり自由なものとなった。然し有力なルートはまだガスパールファミリーの手にあり、依然最も良質な武器を保有しているのも彼らである。


「これを機に、今度こそガスパールファミリーを潰すおつもりで?」

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