珍銃使いは黒を撃つ
死体の胸から、
「ああレバーがありませんね。まあここに転がってる全員ですが。夕飯にでもされたんじゃないですか」
テニアは興味無さそうに、シャツを手離すと身体を起こした。
「いやいや……」
流石に笑顔が引き
テニアは変わらず、涼しい顔で返した。
「いえ、今のは結構マジに言ったんですが。我々悪魔からしたら人間様って、普通に食糧ですし」
「つまりー……。この犯人もそういう事?」
「そう考えるのが最も無難かと。カニバリズム、なんて言葉もありますが……。まあ今なら、ガスパールファミリーの臓器売買の線とも考えられますか。余りにワイルドな採集方法ですけれど」
「まあでも、裏社会に頼るって時点で消費者は、そこまで状態のいいものは望んでないしね。高望みだし」
「何としてでも欲しいって層ですからね。法に背いてでも」
「つまり俺達はツイてるって事だ」
ブラスコはニヤリと笑い、テニアは面倒そうな顔をする。
「残念ですがこちらの皆さんには、暫くぶっ倒れといて貰わないとならなくなりましたが。通報して犯人扱いされたくもないですし……」
「う、うわああああああ!?」
若い男の悲鳴と銃声が、毛細血管のように広がる路地裏へと木霊した。
ブラスコとテニアは、素早く顔を見合わせる。
距離は近い。
先に走り出したブラスコに、テニアも続いた。
ゴミを蹴散らし、何度も角を曲がり、息が詰まるような緊張を孕んだ気配に気付くとブラスコは、幾らか開けた行き止まりで立ち止まる。
広がっていた光景に肩を落とすと、眉をハの字にして息を吐いた。
どうやら先の悲鳴は、断末魔になってしまったのだ。
どっと膝を着いたチンピラ風の男は、腹から
右手には拳銃。発砲も虚しく、辺りに倒れる三人の仲間のように、お陀仏になったらしい。
血の海に立つのは、たった一つの黒い影。
今倒れた男を足下に、ブラスコに背を向けて立っていた。全身黒い、光沢の無い服に身を包んでいる。
そのシルエットは、ヒップホップ系と言えばいいのだろうか。大きめのパーカーに、幅の広いズボン、頭は大きめのフードにすっぽり覆われ、髪型すら窺えない。細く小柄で、大人とは思えにくい体格をしていた。
では、子供がやってのけたと言うのか。
武器を持っているようにも見えないあの小さな影が、この男達を殺したと。
「どおーもこんばんはァ」
脳天気なブラスコの呼びかけに、僅かに影は
ほんの少し、頬をブラスコに向けるような姿勢で、びたりと止まった。
「喧嘩? ハッハァ。災難だったねえ。実はこの辺りについてちょーっと調べてて、お兄さんに話聞かせてくれないかな?」
然し影は、それ以上は動かなければ、言葉も返さない。
構わずブラスコは、軽薄な笑みで続ける。
「最近この辺り物騒でね。外から入ってきたっていう、新手のギャングで乱れてて。それでえらーいギャングの人に頼まれて調べてるんだけれど、何か知らないかな? 例えば……。怪しいクスリを売ってた人を見たとか、そこでお亡くなりになってる人達は何かとか」
影は、軽くブラスコへ向けていた頬を、死体と壁しかない正面へ戻す。
片足を上げた。
そうブラスコが思った時には、すぐに地面に下ろしている。足下に倒れる、男の腹を突き破って。
まるでゼリーの塊でも踏み抜いたような気軽さに、ブラスコは目を丸くした。
「無闇な力の行使は迫害の元なんですが?」
ブラスコの後ろで様子を窺っていたテニアは、痺れを切らし腕を組むと前に出る。
「何ダラダラやってんですか」
隣に立つブラスコをキッと睨み上げると、頬を
「いやん」と満更でも無いような苦笑を浮かべるあほを一瞥すると手を離し、腕を組み直しながら影を見る。
「営業妨害です直ちにご遠慮を。ちょっと訊きたい事があるんで、答えて貰えると嬉しいんですが」
「まあまあテニっちゃん。そうカリカリした言い方は……」
「我々はアルヴァジーレの西を担う四大組織が
挑発すれば何かしら喋るだろうと、イライラと言っていたテニアは気付く。
丁度影が向いている建物の屋上から、辺りに転がるチンピラ達の仲間らしき身形をした男が現れたのを。
その膝立ちになって、こちらを見下ろしている男が構えているのは、ドイツ生まれの
何でまた、そんな実用性の薄い
疑念がテニアの頭を駆けると同時に、 影へ男は発砲した。
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