第六章
語り草
悪魔と契約する人間には、人間からもある程度のルールを設けられる。
例えば、魔法で人を惑わさない。魔法で人を殺さない。兎に角、魔法で周囲に危害を加えない。
決して珍しくは無い存在になって来た魔法使いであるが、依然世には大きな脅威として捉えられている。もし、良心の無い者が悪魔に目を付けられたら。
悪魔に目を付けられるのだ。歓迎されない性質の人間ばかりが選ばれるのではないかと思われがちだが、悪魔は賢い。誰しも破滅を連れてくるような者と、わざわざ関わろうとはしないだろう。
然しここなりのルールがあり、魔法使いや魔女は、銃などの武器は持ってならないと決められている。
その身を守る道具として許されるのは、契約した悪魔から貸し与えられた魔法だけ。既に大きな力を有しているのだ。持ち過ぎるのは街のバランスを崩す。悪魔も退治されるようになったこのご時世、魔法使いも自由気ままとはいかない。
北区ダニエルには、西区ダニエルとの境界付近に教会がある。
五百人が眠る墓地を担ってもいるのだが、教会が廃墟と化した今、花を供えに来る者はいない。
先代、ドグロス・ガスパールが支配していた頃から廃墟だったらしく、人が埋まっているので下手に片付ける事も出来ないと、放置されて今に至る。
ゴシック様式の美しい作りなのだが、勿体無い。整備すれば観光にでも使えそうだというのに。
その教会の入り口に背を向けて立ちながら、テニアは後ろに
「珍しいですね。雪村様にイエス以外の返事だなんて」
「んー?」
隣で煙草を吹かしているブラスコは返す。
「昼の話です。雪村様と、この依頼について話していた際」
テニアは
五百の墓地を擁する庭の中に、それぞれのファミリーが足として使った車が、教会を守るバリケードのように停まっている。運転手を残されたままエンジンを吹かし続けており、車のライトが警備の目を助けていた。
墓地となっている庭には、各組織から百人。敷地の外にも、ぐるりと塀を取り囲むように百人ずつ用意され、鼠一匹も通さない厳戒態勢を敷いていた。
教会の内部では、五人の側近が付いた両組織のボス、雪村とザック・ガスパールが、情報交換を行っている。
美しい建築の足元に、抗争かのようにギャングがわんさか二百人もとはとテニアは思ったが、これが意外にも合っていて壮観だ。
誰しも一度は、見た事があるのではないだろうか。勢澄会、ガスパールファミリーが装備しているのは、7.62mmカラシニコフ自動小銃。通称、
連射速度は毎分六百発、1947年に、ソビエト連邦から生まれた自動小銃だ。悪環境に強く、弾詰まりが起き辛い、シンプルな構造が特徴である。水田の泥水に隠しても問題無く作動したなど、強靭さを語るエピソードは尽きず、その頑丈さと扱いやすさ、コストパフォーマンスで、世界で最も多く使われた軍用銃としての記録も持つ。
ライセンス品、コピー品が多く普及している世の中だが、彼らが所持しているあれは本物だろうか。
見分けようと思う程には関心が無いテニアは、ぼんやりと視線を流しながら続けた。
「……数あるアルヴァジーレの語り草でも鉄板と言えば、かつて新勢力と呼ばれていた勢澄会と、当時最大勢力であった、ガスパールファミリーの抗争でしょうか。若かりし頃の勢澄会。雪村様と、当時あの方の右腕であった、ブラスコ・グロッシュの二枚看板であったからこそ、あのガスパールファミリーから、西区を奪い取れたと。街を歩けば未だ、昨日のように語られます。尤も右腕の方はその抗争中に死んだのか、最近まで行方不明扱いになっていましたが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます