第1話 神から高校生への願い事

「来たか」


 俺はつい、そう呟いてしまう。


今朝から何となく気配は感じていたが......このタイミングで来るのであれば、こいつがあのミノタウロスの黒幕だな


 確信した。 


 思わず頬が緩んでしまう。


「だ、誰だ!」


 明らかに動揺している池上が声を張り上げる。


『いや~そこのヤマセ君だよね? キミ、間一髪だったね! 私が気まぐれで投げた槍がミノタウロスに当たってなかったらキミは殺されてたよ~!』


「ふ......」


気まぐれで投げたとかもうちょいマシなウソつけよ


 と、依然として姿を現さない人物に対して、俺はそう笑いながら心中で悪態をつく。


「え......」


 その人物の言葉に、山瀬はまだ状況が飲み込めないようで、首を傾げる。


 それは皆も同じようで、困惑した表情を浮かべていた。


『では諸君、本題に入るよ』


「......!」


 池上は自分の言葉を無視した謎の人物に怒りを覚えたようだ。


「あなたは一体誰なんだ! 隠れてないで出てこい!」


『もー煩い子だね! 本題に入れないじゃないか......ふん、まあ確かに失礼かもね』


 そう聞こえた瞬間、俺がずっと凝視していた天井のところに、膨大な光と共にそれは現れた。


「「「っ......!?」」」


『これで満足かな?』


「......!」


 ───現れたのは、白いスーツに身を包んだ、金髪の美青年だった。


『なんだよ~......キミが隠れてないで出てこいって言ったからこうして出てきてるじゃないか。反応とかしてほしいね』


 金髪の言葉に、池上はハッとした。


「あ、あぁ......満足だ」


『じゃあ本題だけど、何故突然そこで死んでる牛君が現れたのか、分かる人居るかな~?』


「「「......」」」


 そう聞かれ、皆は教室内に分かっている人が居るか辺りを見渡し始める。


「......」


いや、普通に居ないだろ


 周りで探している皆を滑稽に思いながら、金髪の次の言葉を待つ。


 金髪はその光景にため息をした後、口を開いた。


『ま、居ないか......』


 金髪はそう言いながら、チラりと俺の事を一瞥する。


「......」


あー俺は知らん。知らんぞー


 チラりと見てくる金髪の事を睨み付けると、金髪は面白そうに笑みを浮かべて俺から視線を逸らし、話を再開させた。


『じゃ、状況が飲み込めない迷える羊達に今から何が起こって、これから何が起こるのかさらっと説明するけど、ちゃんと聞いておいた方がいいよー。だって───』


 金髪はそこで言葉を切った後、不敵な笑顔を浮かべながらこう宣言した。






『───死んじゃうからね』



「「「!?」」」



 俺以外、金髪の言葉に驚愕し、耳を疑った。





= = = = = =





『あれ? もしかして驚かせちゃった? ごめんね!』


 能天気な調子で喋っているが、言葉を聞く限り、その調子で喋れる内容ではないだろう。


「おい待てよ! し、死ぬって......というか何で俺達なんだ!?」


 そう声を張り上げたのは、田沼(たぬま) 健一(けんいち)だった。


 187センチの体格でサッカー部ではセンターバックを任されている。


 しかし、普段からこいつは皆から厄介者として扱われていた。


 何故なら、遅刻常習犯、気まぐれで早退、これだけならまだ良いものの、授業中にスマホゲーム、校

門前でのかつ上げ行為、放課後に数々の喧嘩......等々。


 とにかく、こいつのせいで学校へのクレームが多発し、また二年A組のイメージもこいつのせいで悪くなっているからだった。


 一言で言い表せば、根っからの不良である。


 そんな田沼だが、今回の発言には皆も共感できた。


 いつもは面白くないところで笑ったり、方向性が180度違う発言をしたりして白けてたが、今回は珍しく田沼の発言の方向性が0度、真っ直ぐだ。全くどうしたのだろう。いきなり成長するとかもしかしてポ○モンなんだろうか。


『うーんと......キミは確か、タヌマ君だったね。そうだねぇ~......何故キミ達なのか......か』


 考える素振りを見せるが、あの嘲笑うかのような表情を見れば既に答えを持っているのが丸分かりである。


なるほど......こういう奴だったか


 ぶっちゃけて言うと、俺はこういう奴は嫌いではない。


 正義正義と言ってる偽善者より、ひねくれ者は寧ろ信頼できるに値する。 


『気まぐれ......かな?』


「は!? 何ふざけたこといってんの!」


「ふざけんな!」


 金髪の無責任な言葉にクラスの誰かが怒号を上げた。


 しかしその怒号に対しても、金髪は怯むことなく、寧ろおどけた風に嘲笑う。


『おっと、怒らないでくれよ。別にこれだけが理由って言ったわけじゃないだろう?』


「は?」


『もう一つの理由はキミ達にはある力が秘められてるからなんだよ』


「「「......?」」」


「秘められた......力?」


 クラスが疑問に思う中、池上が首を傾げる。


『そう。じゃ早速解放しちゃおっか~』


 そう言った瞬間、金髪が指を鳴らすと、ポケットが突然、何か物入ってきたのか重みが増した。


『今キミ達のポケットの中には僕が言ったキミ達の秘められた力を解放する道具が入ってると思うよ』


 おずおずと、皆は言われた通りに重みが増した方のポケットを確認すると、そこには何の変哲の無い銀の指輪が入っていた。


これは......


 俺は迷わずその指輪をはめると、これまでの体とは比べ物になら無いほどの全能感に満たされていき、膨大な力が体の底から沸き上がってきた。


この感触......久し振りだな。何でも出来る気がする


 感触を確かめるように拳を広げたり、閉じたりしていると金髪が指輪を嵌めるように皆を促した。


『その指輪を嵌めると、今自分の中にある力を最大限に引き出してくれるよ』


 既に嵌めてしまった俺は別として、一人、また一人と皆は半信半疑で指輪を嵌め始めた。


 ───すると


「な、なんだこれ......少しだけ体が軽くなった気がする」


「......さ、さっきよりか何だか力が入るような」


 教室内にその似たような言葉が上がり始める。


 口々にその指輪の効果を実感しているようだった。


『今はまだ少しだけ力が出ているような気がしてるかもだけど、ある事をすれば次第に強くなって行って、全能感に浸ることができると思うよ』


「え......あ、そうか」 


やはり俺だけみたいだな。今全能感に浸る事が出来ているのは......


 教室の端でそう呟いていると、池上が金髪にある質問をした。


「ある事をする......? どういう事だ?」


 池上からの質問に、金髪は突如低い声色で答える。


『それはね......魔物を倒す事だよ。そこに倒れている牛君のような魔物をね?』


「なに!?」


『これからここの学校の生徒達諸君には、ダンジョンで生活してもらうよ』


「だん、じょん?」


 そこで瞠目しながら聞き返した相澤(あいざわ) 梨沙(りさ)に、金髪は反応を面白がっている様子で笑いながらも答えた。


『ダンジョンっていうのはね、こっちで言うと迷宮と言うらしいけど、まぁ一言で言ってしまえば魔物の巣窟、だね』


「ちょっと待てよ! 俺達に戦えって言うのかよ! あんな化け物と!」


『ごめんね~。だけど、天界が決めたことだから僕の一存じゃ逆らえないんだよー......許して?』


「ふざけんなっ! 聞いておけば力やら魔物やら戦えだの......勝手な事ばかり言いやがって!」


『はぁ......』


「大体な、お前誰なんだよ! 格好つけやがって......キモちわりいんだよ! 調子乗るのもいい加減にしろ! プカプカ浮いて上から見下しながら対話して......降りてこいよ! ビビってんのかこ───『黙ってよ』......っ!?」


 先程から威勢良く反発していた田沼だったが、金髪のその極限まで声色を低くして放たれた一言で、思わず息を呑んだ。


「「「っ......」」」


 田沼だけでなく、他の皆も凍り付くような感覚に襲われ、恐怖が植え付けられた。


「......」


殺気か......これほどまでコントロールしてるのか。流石だ


 金髪の一言で数秒間静寂していた教室だったが、一旦黙った田沼を見て『うん! いい子だね』と、いつもの調子に戻ると、自然と強ばっていた皆の体がほぐされていった。


『僕が誰か言ってなかったね。僕はセラフィム。とある世界の管理をやっている神様だよ』


「え? 神様?」


 池上がそう聞き返したが、腕時計を一瞥したセラフィムは残された時間が少ないようで、説明を優先させる。


『実はね、協力を願いたいんだよ。この頃僕の世界のダンジョンから魔物が大増殖してあふれだしちゃってさ。周辺の村や街、国を荒らしに荒らし回ってるんだよ。犠牲者が多いから天界が大忙しでね。命を司ってる死神達が最初は何とかやってくれてたみたいだけど、流石に捌ききれないと激怒してきてさ......天界のトップも事態を重く見ていたから何とかするっていうことになったんだけど、基本下界には不干渉だから少数の冒険者達に強力な力を授けてダンジョンに行ってきて貰おうってなったんだけど......その強力な力を授かった冒険者達がその力も相まって周りに持ち上げられて勇者パーティーになってね、魔王討伐なんか行っちゃって......はぁ......人生うまく行かないもんだよねぇ......』


 本当に疲れきった様子で項垂れながら、溜め息を着いた後、『だから助けてちょ! このままじゃ罪の無い村人や子供が蹂躙されてしまう!』と、懇願してきた。


「「「......」」」


 否定したい気持ちはあるだろう。


 しかし、自分達が断れば、その罪の無い人たちはどうなってしまうのか。

 

 皆の心にはそれが強く突き刺さる。


 『あ、時間が......ごめんね! 強引だけど、手早く指輪について説明するね! 【能力値(ステータス)】と念じると自分の今の能力値とスキルを見ることが出来るよ! そして、武器だけど【武装化(アームド)】って強く念じると自分専用の武器が出現するよ! えっと......あ! そうだ! 防具については武器と専用の防具が一緒に出てくるから! それと......───』


 そこでセラフィムの声が途絶えた。


「お、おい!」


 池上の声も虚しく、パッと消えてしまったセラフィムには届くはずもなかった。



= = = = = =




「これから......どうなるんだよ」


「戦えって......突然言われても出来るわけ無いじゃん」


「私......死にたくない」


「......私も」


「たくっ......俺も同じだっての」


 セラフィムが消えた後、そんな言葉がばかりが教室内に蔓延していた。


 そこで、池上が座って黙考していたが不意に立ち上がり、教卓の前に立った。


「皆聞いてくれ」


 注目を集め、教室に反響していた様々な声が徐々に無くなっていった。


 池上の声が、皆のネガティブな言葉の連鎖を止めたようだ。


流石池上だ。イケメンで人望も厚い


「話を聞いたと思うけど、多分だけどもうここは学校じゃない。窓の外を見てくれ」


 皆は促されたように窓の外に視線を向けると、広がっていたのは何らいつもと変わりない風景だった。


 しかし、どうだろうか。


 窓の外を飛んでいる鳥がその場で時間が止まったかのように留まり続けている。


 飛行機雲も先に伸びる気配がしない。


 ───時間が止まったのだ。


「いや、ここは世界自体が違うかもしれない。時間が止まる自然現象なんか地球に起こり得ない事だからね」


「......じゃあ家族には」


「会えないかもしれない」


「......そんなっ」


 泣き出してしまう女子に、友達が付き添う。


「皆、戦うしかないよ。こうなった以上は」


「「「......」」」


 次々と現実を突きつける池上に、反感を買っている人も少なくないだろう。


 しかし、現実を見ておかなければ、ダンジョンに放り込まれた俺達は生き延びることなんてできやしない。


 神と名乗ったセラフィムの言葉は、誰が聞いても信憑性が高かった。


 ミノタウロスから山瀬を救った光輝く槍といい、現れた後も終始空中を浮遊してたといい、田沼を黙らせ皆を恐怖に震え上がらせた皆を襲った意味不明な気といい、全て神と名乗っても信用させるのには充分な証拠達だ。


 その証拠達があるからこそ、皆は違う世界に居ると言うあり得ない事実を受け入れるにはそう時間はかからなかった。


「もう俺達はダンジョンに放り込まれたのかもな......」


 一人の男子が消え入りそうな声でそう推測する。


 池上は認めたくないという表情を浮かべるものの、その推測を肯定する。


「......あぁ、今にも校内に魔物が彷徨いてるかもしれない」


 教室に、どんよりとした空気が流れる。


 そうなってしまうのは池上と相澤のせいだ。と、俺は思う。


 当然だろう。皆を牽引するはずの存在が落ち込めば、皆も状況が悪いと思い、同じように落ち込んでしまう。


 池上と相澤は、女子達の精神的支柱、男子達の精神的支柱として交互にその役目を被っている。


 片方が落ち込んでも、なんとかもう片方が耐えれるが、今のように両方が落ち込んでしまえばもう後の祭り、その状況が立ち直らない限り続くだけである。


「はぁ......」


 なんて不甲斐ないのだろうか。


 普段から皆を鼓舞しているのは一体誰なんだろうか。


 俺が言えた口じゃないが、お前ら二人に期待させた皆の責任を取って欲しい。


さて......どうするか


 ここで何かを起こせば、この状況から一歩踏み出せる筈だ。


さっきの山瀬と同じような......突発性溢れる行動を取れば......


 誰も逃げ出せない状況で、一人逃げ出した山瀬のような行動を。

 

今の状況は......誰も喋ることが出来ず、そして一歩も動けずにいる状況だな


 どんよりとした、所謂とても気まずい空気が流れている。


 誰もが他人を気遣い、心中を察して、邪魔しないように気遣っている。


なら......この状況下でとても言い出せない言葉を選ぶべきか


 脳の中にある言葉の引き出しを片っ端から開け続けた結果、一番無難で、そして一番空気を壊せる言葉を見つけた。


......よし



「ちょっと......いいか」


やばい、普段全然喋らないから呂律が上手く回らないっ......


「えっと............あ、守崎君だったね。どうかしたのかな?」


あ、今絶対俺の名前思い出したろ? まぁ良いけどさ


「っと............」


 俺はそこで、今にも実が出そうな表情で腹を抑えながら池上に、クラス全体にこう言った。


「と、トイレ......行っていいか? 俺もう下痢ピーしちゃう......」


「えっ......あ、う、うん。行ってきていいよ」


 俺の言葉に皆は呆気に取られたようだ。


「あ......あっりがと、う......」


 いかにも漏れそうな声でそう言った後、俺はわざとらしく漏れるのを我慢してる風に老婆と同じような歩行方を見せつけて、教室から出ていった。


「......ふぅ」


 トイレに入った瞬間、俺は老婆の歩行方からすっと背筋を伸ばして、姿勢を戻した。


 トイレは教室のすぐ前に位置しているため、俺は教室の方に俺が出ていった後の反応を聞くため、耳を傾けると───




 微かだが、笑い声が聞こえた。


 どうやら効果はあったらしく、微かな笑い声が一気に伝染し、やがて大きな笑い声に変わった。


「一先ず......これで大丈夫だろう」


 しかし、あそこまで笑うことは無いだろうと思ったが、良く考えてみれば、高校生にもなってあれほど便を我慢するなんて普通なら考えられない事だなと。


「さて......」


 確かに、俺はあの教室の雰囲気を変えるためにあの行動をしてトイレまで来たが、トイレまで来たのはもう一つの目的があったためだ。


それは


「【能力値(ステータス)】」


 ステータス確認をするためだ。




「......なるほど」


 指輪から一筋の光が出される。


 俺はその一直線に伸びる光を平面の壁に向けると、そこには俺のステータス詳細が映し出されていた。


「やっぱりな......あの時のままだ」


 俺はじっくりとその映し出されているステータス詳細を見終わると、思わずにやけてしまった。





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守崎 隆二


ジョブ・勇者


level・99


生命 ・159900


力  ・99000


耐久 ・89500


敏捷 ・87980


魔力 ・90000


スキル・【剣神/極】【魔神/極】【転移】【武術ノ心得】【魔術ノ心得】


称号 ・【ドラゴンスレイヤー】 【異世界からの来訪者】 【神々に愛されし者】 

    

    【魔王を服従せし者】 【帰還者】 【人々の希望】 【英雄】 


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