ガッコーダンジョン!~学校と異世界の迷宮が繋がってしまったようです~
水源+α
プロローグ
自己紹介をしておこう。
俺の名前は守崎(もりさき) 隆二(りゅうじ)。
高校二年生。
見た目は正直にいうと分からん。
そもそも、不細工とか普通とか自分で判断することなんて出来やしない。
というか出来る人って相当見た目に気を使ってるんじゃないか?
まぁ周りの皆が言うには至って平凡だそうだ。
成績は勉強したら平凡で勉強しなかったときは赤点。当たり前な事だがそれ即ち、特別頭が良いという訳ではなく、ごく普通な学力だ。
運動の方は自信がある。
なので体育の時間とか女子に良い姿を見せるために張り切ってしまう。
自分でいうのもなんだが、人並み以上には出来ると思っている。
背は175㎝と微妙なところだ。
得意な事はFPSゲーム。
自慢になってしまうが、キルデス比は現状3.5を維持している。
ただし、才能があるわけではなく、小6以来ずっとやって来たためだ。
才能というチートも確かに重要だが、経験というチートほど無いものはない。
所謂、古参厨である。
苦手なことは勉強と言いたいところだが、一部の人を除いて皆が言ってることだと思うし、その次に苦手なことを言いたいと思う。
それはコミュニケーションを取ることである。
人前に出ると嘘のように頭が真っ白になってしまい、体が硬直し、つい視線を逸らしてしまうのだ。
世間では俺のような人をコミュ障と呼んでいるらしい。
男子ならまだ受け答えできるものの、女子に至っては話すことすらままならない。
しかし、恋に憧れている。
話せないくせに? と思っているだろうが、一度は体験したいものだろう。
───そう、俺は上手く話せなくとも、常に女子の事を気にしているし、コミュ障を除いてみれば、どこにでも居るような思春期真っ只中の男子なのだ。
上記のように、普通も普通。
特徴は無いとは言えないが、少ない方だろう。
因みに、性欲とかこの年だから盛んである。
そんな俺が通ってる高校の名前は『市立瀬川(せがわ)総合高校』。
部活が活発であり、勉強面にもある程度充実している。
文化祭等の行事にも力を入れているため、俺の中学からは過半数の人がここを受験した。
俺は家が近かったからという不純な理由で受験したが、皆は制服が可愛いからとか部活が盛んだからとか真っ当な理由で受けていた。
まぁ俺以外にも家が近かったからっていう理由な人も多いはずである。
家庭には俺を除き、三人の家族がいる。
妹、母、父の三人である。
これも至って普通な核家族だ。
あと言うとするなら、過去に不思議な体験をしたぐらい。
───まとめると、俺、守崎 隆二はmobキャラだということだ。
まぁ普通普通言ってる奴ほど主人公だが......あ、俺は違うぞ。
では、本題に入る前に、一つ質問しておきたい。
もし、目の前で殺されそうになってる人が居たらあなたはどうする?
───俺は見守る。だな。
一言で今の状況を表すと、最悪だ。
今まさに、目の前で一人の男子が得体の知れない化け物に殺されそうになっている。
約三メートルくらいの体格と、大木のような豪腕。
その豪腕に隆起する血管の筋と鍛えすぎたかのような全身の筋肉。
そんな二つの角を生やした牛人は目の前に立っている一人の青年を睨み付けている。
張り詰めた空気と化け物から流れ込んでくるその殺気は、教室内に居る俺を含め、クラスメイト達の動きを縫い付けるには充分なものだった。
誰一人、声を発しない。
いや、発することが出来ない。
本当に怖ければ、叫び声など発することなど出来ないのだ。
殺されると分かれば、喉が嘘のように締まり、息苦しくなる。
殺されそうになっている男子の名前は池上(いけがみ) 侑李(ゆうり)。
クラス内では抜群のルックスと運動神経、頭脳を兼ね備えている完璧超人である。
誰もが恐怖で竦み上がっているなかで、化け物と対面しながらも怖がってない様子をしている一人でもある。
因みに俺もその一人。あいつと同じで恐怖など感じていなかった。
何故かは追々話すとして、それより驚いたのが、やはり池上の牛人を前にしてのあの堂々たる姿だろう。
「侑李君!」
と、そこで彼の名を叫んだのが、相沢(あいざわ) 梨沙(りさ)。
例えるなら、池上の女子バージョンといえる。
容姿端麗で、現ソフトボール部の副部長で運動神経が抜群。
成績トップを常に池上を抑えて君臨し続ける頭脳の持ち主である。
人当たりの良さで学校内では頼れる先輩、頼れる後輩として名を馳せている。
そんなパーフェクトレディーが涙を流しながら池上の名前を呼んだことに、普段の光景なら男子達が胸を痛めるのだろうが、現在の光景にとなれば話は違ってくるだろう。
「大丈夫だよ。梨沙」
しかし、池上は化け物の前から退こうとしない。
多分、皆を守ろうとしてるのだろう。
皆からはその勇気溢れる行動に『勇者』に見えることだろう。
でも俺からの視点で言うと、『バカ』にしか見えない。
圧倒的な力の差。
これはどうあがいても覆すことは不可能だ。
だからこそ、その非力な力で池上は何をしようとしてるのか。
「ふ......」
おっと、笑ってしまった。いかんいかん。
「......っ!」
池上が化け物を睨み付ければ、化け物も睨み返す。
緊迫した状況下で皆は固唾を飲んでそれを見守る。
今逃げれば良いのではないか。と、思うかもしれない。
だが今逃げてしまうと、化け物の事を刺激してしまう。
その結果がどうなるのか、予想できよう。
が、その時。
「───うわぁああああっ!?」
「「「......!?」」」
突拍子にそんな情けない声を張り上げながら教室から出ていく男子が一人。
「お、おい!」
男子の誰かが、怒号を上げた。
逃げた男子は恐らく山瀬(やませ) 有(ゆう)だろう。
普段から周りの視線からビクビクしてて、どこか落ち着きがない奴だ。
虐められてるという噂が流れていたが、本当のことなんだろう。
そうじゃないとあれほど周りに神経質に気にするはずがない。
しかし、奴ほど素直なやつは居ないと見る。
何故なら誰もが動けずじまいで、化け物と睨みあっている池上をずっと見守っている状況のなか、一人で恐怖に負けて本能で逃げるという選択をしたからだ。
なにも起こらなかった現状に変化を与えた山瀬の行動には拍手を送るべきだろう。
なのだが
「あの糞デブ!」
「何やってくれてんだよっ!」
「キモオタの癖に!」
「はぁ!? 逃げるとかマジ最悪じゃん」
と、普通は山瀬がした『逃げる』が最善な選択なのだが、集団心理で山瀬が起こした行動をクラスの皆は『池上が頑張ってくれてるのに、山瀬一人だけ逃げた』という風に解釈してしまい、そんな悪態をついていた。
それに皆が怒った理由は、もう一つある。
それは化け物を刺激してしまったことだった。
「ブォッオオオオオッ......」
刹那、化け物は廊下に逃げていく山瀬を追って扉を突き破った。
「ひ......」
山瀬は前に突然扉と共に現れた化け物に足がすくみ、急ブレーキをかけ、その勢いのまま盛大に転倒する。
化け物から約二メートルの位置。
その距離は化け物にすれば、一度その豪腕を振れば容易く届くところだろう。
あぁ......死んだか
俺は哀れに思う。
皆に憎まれながら死に行く一人の命を。
だが、そんなことを慈愛溢れる神が許すはずないだろう。
「「「え......」」」
皆は呆然とした。
人が殺されそうになっているのに呆然とするのもおかしいと思うが、それは違うようだ。
では何故皆は呆然としたのだろうか。
それは
「......なにあの光」
一人の女子が見たままの感想を呟き、その感想は皆にも共有できるものだった。
───化け物がその豪腕を振るおうとした瞬間、一本の光輝く槍が牛人の心臓を貫いていたからだ。
「ブオっ!?......ブ、っ......」
貫かれた化け物は、悔やむように呻きながら、その大きな口から吐血する。
呆然とする山瀬の目の前で、牛人は力なく倒れ、生命活動を途切れさせた。
「「「............」」」
一同が呆然とする中、牛人を貫いていた光槍はぼんやりと消滅し、やがて死体だけがその場に残った。
= = = = = =
あの後、俺はクラスでの話し合いに参加していた。
話し合い、というよりは状況整理だろう。
進行は池上が務めている。
「とりあえず、何が起こったのかわかる人が居たら、手を挙げてくれるかい?」
「「「......」」」
池上の問い掛けに、誰も応えない。
当たり前だな。分かる奴いたら犯人扱いか戦犯扱いだろうから。
「そうか......じゃああの化け物がどこから来てたのか目撃した人はいるかい?」
「......えっと、それなら教室の真ん中に気付いたら居たっていうか......ねぇ?」
「うんうん! 本当に居たんだよ! その時居なかった人以外全員見たはず!」
「......? それは本当なの?」
「お、おう......なぁ?」
「マジで居たんだよ! あん時俺の直ぐ真後ろに居てさ! クソビビったわ」
「......なるほど」
そこで池上は黙考し始めた。
皆はそれぞれの憶測を話し始める。
「というかあんな動物居なかったよね?」
「ぜってー居ねえよあんな動物。二足歩行の牛なんて世界初じゃねえの?」
「だな。というか動物じゃなくてモンスターだろ。見たか? あの腕」
「見た見た。あれどんだけ筋肉ついてんだよ。一種の鎧だぞ?」
似たような話が展開されるなか、俺は教室の天井を見つめていた。
......やっぱり、違う
空気の揺らぎを感じる。
そしてそこだけ、どこか色が不自然だ。
「......」
ずっと凝視をしてると、不意に
───《やぁ! 諸君》
「「「......!」」」
教室内に、いや、学校全体に今の重々しい状況を嘲笑うかのような陽気な声が響き渡った。
誰もが見えない声主を捜し、周囲に首を振って探した。
しかし、俺はある一点を見つめ続けている。
「来たか」
そして、俺は待ちわびていたのか、ついその声が漏れてしまった。
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