第29話「お前だけのせいじゃない」

『シャァァァ!』と向かい来る大蛇達にガルシアム先生は魔法を唱える。


「【#大地の鎚__アースハンマー__#】」


ガルシアム先生は地面から大きな石の鎚を作り出し、正面の大蛇を一気に五体見事に吹き飛ばした。


「ほな、僕もいくで。」


月影は二刀をダラんと下ろし、そのまま引きずる様に走りだし、ぴょーんと大蛇の中心に飛び込んだ。そして物凄い回転で大蛇四体を一気に切り刻む。


ヴィオラが美しい舞なら、月影は荒々しい竜巻の様に見えた。


「しゃぁ!俺らもいくぞ!」


皆もまた動きだし、一気に乱戦状態と化していく。


『小癪なぁ!!!』


大蛇も負けじと次々に大蛇を生み出していく。


俺も、俺も動かなきゃ。


俺は解毒剤が効いてきたのか、身体の麻痺が無くなってきて、ゆっくりと立ち上がった。


何時迄も泣いていられない。


皆んな、ごめん。


この代償は大きいけど、今出来ることをやってやる。


俺は姿勢を低くし、覚悟を決めると一気に力が湧き上がる。


すると身体から光る透明な湯気が立ち上がった。


今は目の前の敵に専念する。そして俺は地を蹴った。


1.2.3.4.5..7‥21


バシュ!ザシュ!ザシュ!ズババババババ!!


辺りにいる大蛇を有無を言わさず斬り刻む。


姿勢を低く、そして素早く。


残り1匹。


ズシャ!!!


そして俺は主体の大蛇と向き合う形となった。


大蛇は何故か口を大きく開け、言葉を失っている。


よく見れば他の皆んなも驚愕の表情を見せていた。


なんだ?


『き、貴様は一体なんなんだ!?』


大蛇は気が動転しているのか声を上ずらし後方へと一歩退く。


俺はさらに大蛇に一歩進める。


『く、くるな!!』


さらに一歩。


『近寄るんじゃない!!た、頼む!!ほんの出来心だったんだ!も、もう人間は食わん!』


「そう言う人間をもう何人も殺してるんだろ?」


そして更に一歩踏み出す。


『ヨルナァァァァァ!!!!!』


急に大蛇は我を忘れて俺に迫りきた。


だが俺はもう油断はしない。


大蛇の横っ面を右手で自分に向けられた牙を横へと叩き落とし。流れる様に構えた左手を水晶目掛け打ち上げる。


「終わりだ。」


バシュッ!!!!!!


グロい音を響かせ、大蛇の頭が風船みたいに破裂し弾け飛んだ。


そして辺りに血飛沫を撒き散らした。


こうして俺達の戦いは終わりを告げた。


○○○



あの後、皆がガルシアム先生の指導の元、大蛇の解体を始めた。


取れる材料は、大蛇の皮、魔石、大蛇の牙(毒が入っている)だ。


だけど持てる範囲には限りがある為、残りの残骸はガルシアム先生の地魔法で大穴を開け、土に埋めた。


なんでも、生き物はそのままにしておくと、腐敗してアンデット化するらしい。


こうして俺達は一通りやる事を済ますと、村に戻る為また森を歩くのだが、俺は解体中からずっと皆と合わせる顔が無く、俯き加減で皆の後方を歩いていた。


俺はバカだ。きっと皆んな怒ってるに違いない。


そんな風に思っていると、ガルフが歩み寄ってきた。


「おいアル!」


不意に真顔で呼ばれ、俺は緊張する。


ヤバい怒られる。


「まさかだけど、「俺の所為で皆んな危険な目にあわしちゃった。」とか思ってんじゃねぇだろうな?」


「え?」


「やっぱりか。」


フゥと1つ息を吐き首すじを掻くガルフ。


「いいか、アル。アレはお前の所為でもなんでもねぇ。皆んなの油断だ。それに俺達は覚悟の上であの場に居たんだ。お前が責任を追うこた無ぇんだよ。なぁ皆んな。」


ガルフが皆を見ると、皆笑顔で頷いた。


「アルぅ~!さっきはすっごくカッコよかったよ。」


「む‥」


「ほらな」


ガルフはニコっと笑う。


ありがとう。


お前はいつも暖かいよ。


俺の中の暗い闇がガルフの一言で照らされていく様だった。



その後、この事件は村の状況もあってガルシアム先生がこの事は無かった事として報告する事となった。


だが念を押して注意は促していた。


普通ならゴールド(+)のAランクの魔物だったらしく、これをブロンズで出すのは偽りとして立派な重罪になり村に厳しい刑罰が与えられてもおかしくないからだ。


因みにガルシアム先生が居なかった時間何をしていたのかは、村人に化けた大蛇に噛まれ麻痺していたのだそうだ。


それを月影が見つけ、ガルシアム先生を引きずり直ぐに村長とベルの元に行くと、村長が急ぎ解毒剤を持ってきたと言っていた。


毒に対しての対処法はあれど戦う力がない。それに加えお金もない状況だったのだろう。


しかし解毒剤をこの村が作っていなければ俺はどうなっていたのだろうか?


解毒剤を開発していたのは幸いだったと言えるだろう。



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