第26話「暗い村」

早朝。


昨日は、なんだかんだで同じベットにイフリートと、ニアに挟まれ寝ることとなった俺。


ニアはそっと俺に寄り添って寝てくれるから良いものの、(いいかどうかは解らんが‥)イフリートの寝相の悪さはハンパ無かった。


寝ている最中に何度も顔に#踵落とし__カカトオトシ__#を食らう始末だ。


そして、早朝にまた一撃を食らわされ、悶絶し、なんだが寝付けなくなった俺は、喉の渇きを潤す為、一階のリビングに向かった。


すると、カルマ兄さんがもう既に学園に行く準備をしていて、出ようとする所だった。


「カルマ兄さんもうでるの?」


俺の声でカルマ兄さんが俺の方へと目を向ける。


「‥おう。」


なんだか、ぎこちない返答を返すカルマ兄さんに俺は首を傾ける。


「‥カルマ兄さん。この頃一緒に出るの避けてたりとか‥してないよね?」


俺は気になっている事を思いっきりブツけてみると、カルマ兄さんはフっと笑う。


「あ?そんな訳ねぇだろ。俺は朝練があるから何時も早く出るんだよ。唯それだけだ。」


そう言ってカルマ兄さんは家を出て、俺はそれを見送った。


今更言うが、カルマ兄さんは戦闘においてトップの成績を誇ってはいるが、かなりの努力家でもある。


学園でも遅くまで残って、自主練を積み重ねているし、早く帰ってきたら早く帰ってきたで、庭にあるサンドバッグを鳴らしているのだ。


俺も見習わねば。


そして俺達3人が家を出る頃、クライス兄さんもザナール港へと向かった。


さて、今日も一日頑張りますか!




〇〇〇〇



学園。



「今日はまた依頼任務だ!」


ガルシアム先生がまた詳細を説明する。


今回の依頼は、王都の東側の山へと続く門を抜け、3時間程の場所にある山中のポプラ村という場所からの依頼だ。


依頼内容は、最近、山に住み着いた低級魔族。ゴブリンの排除だった。


ゴブリンは幼児体型に緑色の身体が特徴的な魔物で、畑を荒らしたり、人を襲ったりと、なかなか厄介な生き物なのだそうだ。


「それから今日の依頼任務は俺も付いてくからな。」


こうして俺達はポプラの村へと行く事となった。


道中。



「ゴブリンかぁ。闘い甲斐がねぇなぁ。」


ガルフが溜息交じりに手を頭の後ろで組むと、ガルシアム先生がそれを注意する。


「油断対敵だぞ。いくら低級の魔物でも、少しの油断が危機に陥る事だってある。」


「お、おう。先生のいう事も一理あるな。すまねえ。」


ガルシアム先生の一言で、ガルフは自分の発言に少し反省すと、ガルシアム先生はニッコリと笑顔を見せる。


「謝ることはないさ。気を付けて、いつ何時でも気を引き締めて行動が取れれば問題ないよ。 それにゴブリンは低級とは言われているが、特性的に光物が好きで、たまに高価な宝石を付けてることがあるんだぞ。 あながち、狩り甲斐がない訳でもないぞ。」


「おぉ!そいつはなかなか良い事を聞いたぜ!楽しみだ。」


時々思うのだが、この世界の人達は皆、魔物を狩るというのが普通で、魔物を殺す事に戸惑いは無い。


戸惑えば此方側も命が危ないからだ。


だけど魔物だって生き物で、子をなし繁殖だってする。


だから、人と同じ様に、より良い生活を求めて住む地を広げるのは、ごく普通の自然の摂理では無いだろうか?


それを阻止し、魔物を殺すのは人間のエゴなのでは?


きっと、こんな話を皆にすれば笑われるかも知れない。俺だって降りかかる敵には容赦はしないつもりなのだから。


だけど、俺は魔物と言えども、其奴が助けてくれと言えば、助けてやりたいと思う。


これは優柔不断な俺の勝手な考え方だが、此れだけは曲げるつもりはない。



「おっ、あれが村か?。」


イフリートが指し示す方向には、木で塀を立て並ばせ、門の様にしていた。


そして、前につくと、門番らしき人物がでてきたので、ガルシアム先生が通行証を提示し、門をくぐる。


門をくぐると、農園が広がっていたが、所々荒らされた形跡があり、人々もそれ程裕福な暮らしはしていない様に思えた。


王都とそんなにも離れていないのに、これだけ生活が違うんだな。


村人も心なしか表情が暗く感じた。


俺がキョロキョロと辺りを見ていると、不意に40過ぎぐらいの男性が此方を見るなり駆け寄ってきた。


「ベル!ベルじゃないか!」


ん?知り合いか?


「ただいま、叔父さん。」


「帰ってくるなら帰ってくると、手紙を寄越せばいいのに。」


帰ってくる?そういえばベルは森育ちって言っていたな。


ってことはここがベルの故郷!?

っつか何故言わない?


「なんだよ、ベルの故郷なのかよ。っつか何で言わねえんだよ。水くせぇな。」


ガルフが俺の思った事を代弁する。


「べ、別に後からどうせ分かる事なんだから言う必要を感じなかっただけよ。」


「ほらほら、喋ってないで、村長の所に行くよ。」


ガルシアム先生が2人の間に入り、先を急がせた。


「それじゃ叔父さん。」


「あ、あぁ。」


ベルは叔父さんに笑顔で手を降り、その場から先に進んだ。


その瞬間、叔父さんが冴えない様な、なんとも言えない表情を見せたことに俺は疑問を感じたが、先を急いだ。


村長の家は村奥にあった。

これも、村長が住む家とは思えない古い家だ。


ガルシアム先生は家の扉をノックすると、中から白髪の老人男性が出てくる。


「こんにちは。依頼の件で良させてもらいました。」


ガルシアム先生が笑顔で挨拶すると老人は少しホッとした様な表情を浮かべる。


そんな中、ガルシアム先生の後ろから老人に向かってヒョイっと顔を出すベル。


「やっほー!ただいま。お爺ちゃん。」


やっほー?いつもツンツンしているベルからは想像もできない言葉がその老人に向けられると、老人はベルの顔を見るなり、驚いた様な表情を浮かべる。だが、直ぐに表情を変え、緩ませる。


「ベルじゃないか!おかえり。ささ、皆さんも中へどうぞ。 大したお持て成しはできませんが‥」


「ははは、お構いなく。ここで大丈夫ですよ。で、依頼の件なのですが、ゴブリンはどこに?」


「お、おぉ、そうでしたな。ゴブリンは村の奥の森に洞窟があり、其処に巣食っとります。」


「そうですか、では早速、善は急げで討伐に行ってきます。」


そう行って、ガルシアム先生は皆に呼び掛け、早速討伐に向かおうとすると、村長がそれを止める。


「ま、待ってくだされ。今ついたばかりですし、少し休憩なさってはいかがですかね。ベルとの久しぶりの再開もあります。やっぱり、お茶だけでも飲んで行ってください」


「む、そうですか?」


ガルシアム先生は立ち止まり、俺達の目を見るとフっと表情を緩める。


「わかりました。」


こうして、村長の家でお茶を呼ばれることとなった。


だけど、ガルシアム先生は村を見回ると一言いい、外へ出た為、俺達生徒だけとなった。



「ねぇ、なんだかこの村の人達、暗いねぇ。」


「ニアも気付いた?」


「それだけじゃない。変な空気も流れている。」


イフリートも何となくだが村の異様さに気づいているようだ。


「なんだ、なんだ?お前ら何コソコソ言ってんだよ。」


ガルフが話に入ってくる。


「いや、何か様子が変な気がして。」


俺は訝しむ表情を見せるが、ガルフは「そうか?」と首を傾げた。気にしすぎ?いや、皆んなにも意見を聞いてみよう。


「月影は何も感じない?」


「ん~。確かになんか変な感じするよなぁ。余所余所しいっつうか何つぅか。」


「それは私も感じる。それに、いくら小さな村といえ、女、子供が見当たらないのは変だ。」


ハーマンドも同じ意見のようだ。

確かに道中女、子供の姿が見えなかった。


「皆が同じ意見言うってことは、変なんは間違いない。ゆうこっちゃな。ガルフ以外。」


サラッと嫌味じみた事を言う月影。


「あ?月影どう言う意味だコラ?

っつかヴィオラはまだ意見言ってねぇだろ。ヴィオラはどう思ってんだ?」


皆がヴィオラに視線を向ける。


「Zz‥」


「って思っきり寝とるし!!!」


そんな会話の中、ベルが居ない事に気付く。


「ベルは?」


「ベルならさっき村長に呼ばれて奥の部屋に行きよったで。」


ベルはお爺ちゃんっ子なのかな?ここがベルの故郷なら父さんや母さんが出てきても可笑しくないのに。もしかして亡くなってる?いや、余計な詮索は不快に感じさせるかもしれないし、辞めておこう。


ガチャ。


扉を開く音が聞こえ、其方に目を向けると、ガルシアム先生が帰ってきた。


「行くぞ。」


ガルシアム先生は妙に無表情な顔で俺達の休憩の終わりを告げる。


「先生。ベルがまだ奥に」


「構わん。久しぶりの再開だ。今日ぐらいいいだろう。早く来い。」


何だ? ガルシアム先生の様子が変だ。


皆訝しむ表情を見せるがガルシアム先生が来いと言うので、渋々腰を上げ外に出て、森の奥へと向かった。


そして洞窟の前で先生が急に立ち止まる。


「先生?」


ハーマンドがガルシアム先生に近づいたその時。


『がぁぁぁぁぁあ!!!、』といきなり声を荒げだし、ガルシアム先生の口から無数の蛇がウジャウジャと顔をだし始めた。


「なっ!?」


ハーマンドはそれを見るなり一気に俺達の方へと飛びさがる。


「おーい!何じゃアレは!!?」


ガルシアム先生が見る見るうちに無数の頭を持つ大蛇へと変貌していく。


全長は恐らく10メートルはあるんではないだろうか。


「ちっ!これはまさかのまさかやけど、はめられたんとちゃうか?。」


「どう言う意味だ?」


「恐らくやけど、ゴブリンなんて最初からおらへん言うこっちゃ。最初から此奴の餌にする為に俺らに依頼してたって事や!」


「そんな!‥じゃ、じゃぁベルは?」


「そないな事は今わからんけど、この村の連中に、してやられたゆうのは間違いない。」


「おい!!喋ってる場合じゃねぇぞ!!」


「む‥。」


ヴィオラが剣を抜くと、皆も戦闘態勢に入る。


『ギャォオォォォォス!!!』


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