第12話「やるしかない」

「さぁ!行くわよ!!」


ベルの開始の合図と同時に、ベルを囲む様に、俺、ヴィオラ、ガルフの3人でトライアングル状に囲み、中間にハーマンドを置き、援護射撃を担当してもらう陣形をとった。


「来なすったぞぉ!お前ら気合い入れろよ!」


ガルフが皆に喝を飛ばす。


「む‥。」


「承知。」


「ニア!今助けるからな!!」


ツルカズラのツルが迫り来る。


ヴィオラはヒュンヒュンと鮮やかに前方のツルを切断しては切断しまくる。


その剣さばきは正に舞うかの如く剣舞だ。


「だぁー、らぁぁぁぁぁ!!」


ガルフは蹴り、蹴り、右、左、回し蹴りと次々にボォウッ!!と激しい爆音とともにツルを弾き飛ばしていく。


原理は分からないがガルフは拳や足に魔力を流す事で、インパクトの瞬間に小さな爆発を生み出し破壊する能力の持ち主のようだ。


ハーマンドは矢を三本同時に放つと、ギューン飛び出した矢は光り輝きだし、流星の如くツルを貫き撃ち落とした。


ハーマンドも矢に魔力を込めることで貫通力を増幅させる事ができるようだ。


皆、其々自分の戦い方でツルと対峙し撃破していく。


流石は学年トップクラスといった所だ。


いや、恐らくだがトップクラス関係なく、このメンバーが特別凄いのだと思う。


実力は伊達ではない。


と、いうよりも本当に皆んな10歳なの?


そんなことはさておき、俺は皆んなの様に何が得意な戦い方なんてものは無い。


只ひたすらに目の前に迫り来るツルを斬るだけだ。


だが、それにしてもツルの数が多すぎる。切っても切ってもキリがない。


どうにかできないだろうか?


そんな思考を巡らせ始めると同時に、またあの妙な雄叫びが、ツルカズラから発せられる。


『ギュゥオオオォォォ!!!!』


「やべぇぞ!!さっきのがまた来そうだ!!」


さっきのとは先程の催眠を引き起こす煙のことだろう。


「先程ベルが使った魔法石は?」


「ダメ、‥さっき1つだけしかない。って言ってた。」


「く、アレを食らったらお終いだぞ!」


「‥!!。そうだ!アル!この間の卒業生トップとの対戦で使ってた、ブォン!ってなるやつは使えないのかよ?」


ブォン?なんだ?


って、アレか!


クライス兄さんとの模擬戦時、思わず振り回したダガーから発生した真空波の事か!!


だけど‥。


「あ、あれは偶然できたやつで、今できるかって言われると、」


「大丈夫!一回できたなら次も出来るはず!!ってか、もうそれに頼るしかねぇんだよ!」


ゴチャゴチャと言い訳をしてる場合じゃないな。


ガルフの言う通り、やるしかないんだ!!


「皆んな下がって、出来なかったとしても恨むなよ。」


なんとも締まりのない一言だ。


俺はやっぱりヒーローとか、そんなのには程遠い。


「頼んだぞ!アル!」


「頼む!!」


かつてこんなにも期待された事があったろうか?


家でも学校でも俺は誰とも語らないし誰かに喋りかけてもらう事もない、視界に止まる事もない存在だ。


そう、俺は‥空気だった。


だから、期待なんてされた事も前世では一度も無い。


それを理由に何をするにもやる気にも慣れなかったし、出来たとしても何処か手を抜いていたのかもしれない。


だが今は皆が俺を見ている。


皆の期待が俺にのしかかり、喉が乾く。


だけど、俺はこの皆の期待に応えたい。


いや、答えなければ先は無い!!


『ギュゥオオオォォォ!!』


雄叫びと共に、ツルカズラから煙が立ち上がる。


俺は腰を深く落とし、大きく振りかぶる。


「いくぞぉ!!っらぁ!!!」


俺は思いのまま、全身全霊でダガーを横薙ぎに振りつけた。


ブゥオオオォォォン!!!!!!!


一気に激しい爆音とともに爆風が巻き起こり、辺りに迫り来るツルを切り裂きながら煙を巻き上げ前方全てを裂き散らす。


ガルフ、ヴィオラ、ハーマンドはその凄まじさに、驚きの表情を浮かべる。


そして、俺自身も出来てしまったことに、驚きの表情を見せる。


そのタイミングで、ベルの目が開く。


「行くわよ!!!!!【ライトニング】!!!!」


ゴゴゥ!!!と激しい稲光とともに、音を響かせ、見事ツルカズラの魔石に直撃させ魔石は粉砕される。


『キュゥオオオォォォ!!!』


そしてツルカズラは、最後の断末魔を響かせ地に崩れ落ちた。


崩れ落ちたツルカズラに、俺は急いで走り寄り、ツルカズラの口の中に手を突っ込みニアを探す。


ツルカズラの中は、ネトネトネバネバして気持ち悪かったが、今はそれどころではない。


手探りでニアらしき物を掴み、俺は一気にそれを引き出した。


ヌポォ、と言う音とともに出てきたのは全身ローションまみれの様な産まれたままのニアだった。


それに魔法で隠していたツノや羽、尻尾も露わになる事で、制御の指輪を付けていたとてサキュバス特有の【#魅惑__テンプテーション__#】がモロに発動する。


そして俺のキングダムがワーワーと騒ぎたてる。


普通なら幼女にこの様な思考を持てば前世では間違いなくアウトだろ!!


だがしかし!今は耐えろ俺のキングダム!今はその時ではない!!まだ耐えれる範囲だ!頑張れ俺!!


もう一人の自分の存在と葛藤していると、ニアが目覚め身体を起こす。


「あれぇ、アル?」


目を擦り、少し寝ぼけた口調をするが、直ぐに自分の状況を把握する。


「って、何これ!?ネトネト~!そ、そそ、それに何で私裸なのぉ!?」


慌てて隠そうとするニアだが、そんなことよりネトネトと、ネバネバが更に際立ちエロ度が急上昇。


俺は自分を制御する為、上着を脱ぎ、ニアから視線をなるべく逸らしながらニアに放り投げた。


「に、ニア!!取り敢えずコレを着てくれ。」


「ありがとう。」


ニアは迷わず俺の服を羽織り、前のボタンを閉じると、身体に付着したツルカズラの粘液でシャツが透け、しっかりと胸の輪郭を浮かばせピンク色の突起物が露わになる。


そして更に服がでかいのか、袖は長いし、丈は見えるか見えないかの際どいライン。


俺の中の何かが爆破する。


ぬおぉぉぉぉお!!!ファンタジスタ!!


って皆の前で俺は何を考えてるだぁ!!!冷静になれ!冷静になれぇ!俺ぇぇ!


目を瞑り眉間をシワを寄せ、胸を鷲掴みし制御する。


だが、もはや呼吸の乱れは限界だぁ!!


そんな矢先に救いの手を差し伸べたのは、ヴィオラだった。


ヴィオラはニアの肩に自分の着ていた服をフワッ、と被せる。


「これ、‥透けない。大丈夫?」


「あ、ありがとう。」


「ん‥。」


ヴィオラは、誇らしげな表情を浮かべ親指を立てた。


「あと、‥多分能力が発動してる。能力、‥抑えて。」


ヴィオラに言われ、ニアは自分の姿を再確認し、慌ててツノ、尻尾、翼を消し、能力を抑えた。


はぁ、はぁ、はあ。


危ない所だった。


徐々に呼吸が収まり、安堵感からか、ホッとした途端いきなりパタン、と腰を落とす俺。


俺の様を見て、ガルフが笑う。


「がはは!疲れたか?」


「ちょっとね。」


最早ニアの能力に耐える方が辛かったかも。


「けど、よく倒せたよなぁ。初めはダメかと思ったけど、お前の最後の技凄かったぜ。おかげで助かった、なぁ、ハーマンド」


「あぁ、あの一撃は凄まじかった。あれがなければ全滅だったからな。」


「ありがとう。でも、俺なんかより的確にあの魔石に魔法を落として、仕留めたベルの方が一番凄いよ。」


俺はベルに笑いかけると、ベルは少し頬を赤く染め、フイ。っと顔を向こうへと向けた。


「あ、あたりまえよ!私を誰だと思ってるのよ。」


誰でもないでしょ?ってまぁ、其処は突っ込まないでおこう。


俺は軽く微笑んだのだった。


これは後日聞いた話だが、ニアの【#魅惑__テンプテーション__#】は、人間に対してのみ効果を発揮するそうだ。




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