第11話「強敵出現!ツルカズラ」
俺達はプラネリアの森へと入った。
プラネリアの森の中は、木の根がむき出しになっていたり、苔が生えていて、滑り易くなっていたりで、歩き辛かった。
だがその点を除けば、神秘的とも言える。
森の至る所から、ホタルの様な小さくて丸い光が、フヨフヨと浮き上がっている。
これはホタルではなく、万物から生み出される生命の源で、マナというものだ。
このマナの恩恵でこの世界は成り立っていて、このマナが無くして人は、この世界で生きていくことも出来ないのだそうだ。
「おぉ‥。」
思わず俺がその景色に感嘆の声を漏らすと、ガルフが肩に手を回してきた。
「なんだアル。マナを見るのは初めてかよ?」
「うん。聞いたことはあったけど実際に見たのはね。」
「まぁ、街ん中に住んでりゃ見る事なんてねぇわな。 けど、こんなにも大量のマナが見れるのは早々にねぇんだぞ。」
「え、そうなの?」
「おうよ!自然が多い場所なら、マナを直で見ることは当たり前の様にあるけど、本当に少量なんだ。 だからこんなにも溢れてる。ってのは、この場所が神聖な証拠なんだぜ。」
「その通り。 この森は大精霊ウィンディーネが住まう森という仮説もあるくらいだからね。 あなたそんな事も知らないのね。」
「面目無い。」
ベルは相変わらず当たりが厳しい。
俺は情け無い顔をした。
「む。水の流れる音が聞こえるな。」
耳の良いハーマンドには水の音が聞こえる様だ。
「流石エルフね。確かにもう直ぐの筈よ。」
ベルの言った通り直ぐに川は見つかった。
川の流れる水にマナが映り込み、さらに幻想的な風景へと移り変わる。
「さぁ、さっさとつるぎの木を探すわよ。」
早速、皆でつるぎの木を探すと、以外と早く見つかった。
「あったぁ!あったよぉ!これじゃない?」
ニアは見つけた事に喜び飛び跳ねている。
小さいながらも揺れる双丘に関心する。
アンビリーバボー。
って、この状況下で何を考えとるんだ俺は!!
「以外と早く見つかったわ‥って!!!?」
ベルがニアの指さす物を見ると、表情が一瞬で青ざめだす。
それを見てガルフが不思議に思い、ニアの背後にある、つるぎの木に目を向けると、ガルフも驚愕するなり直ぐに声を上げる。
「ニア!!そこを離れろ!!」
「ほえっ!?」
ニアが反応する間もなく、ニアの足にツルが巻き込まれ、ニアは宙吊りに持ち上げられる。
「キャー!!」
「ニア!!」
そしてニアの背後に移るのは、人が四、五人は入りそうな大きなウツボカズラが姿を現したのだ。
『ギュォォォォォ!!!!』
雄叫びのような音と共にモクモクとした茶色の煙が飛んでくる。
「皆んな!アレを吸っちゃダメ!!」
ベルの言葉に皆が口を紡ぐ。
ベルは口を閉じながら袋から丸い玉を取り出し、地面に投げつけた。
すると、丸い玉が地面に当たると発光し初め、ボンッ!と突風を吹き出し、煙を散らせた。
「な、なんだったのだアレは!?」
「あれは‥ツルカズラの睡魔を引き起こす煙よ。たまたま1つだけ風の魔法石を持っていてよかったわ。」
「ツルカズラ?」
「別名【人食い植物】。生き物をあの無数にあるツルで捕まえ口の中に放り込む化け物よ。なんでこんな安全区に?」
「って事はやばいのか?」
「やばいどころじゃねぇぞ!ありゃぁゴールド+級の魔物だ! 来るぞアル!!」
ガルフの言葉で真上を見上げると既にツルが振り下ろされていた。 咄嗟に俺は横に飛び、その攻撃を躱す。
ボゴォ!!
俺の真後ろにあった大きな木の根がへし折れる。
あんなの当たったら一溜まりもない。
「おい!アレを見ろ!!」
ハーマンドが指さす方向へと皆が目線を向けると、其処にはさっきの煙の効果であろう、気を喪ったニアが、ウツボカズラの口の中へと放り込まれる瞬間だった。
「させるかぁ!!」
俺は急ぎ腰のダガーを抜き取って、ニアの救出に向かうが、ツルが邪魔をし、行く手を拒まれ、ニアはウツボカズラの口の中へと入れられた。
「くっ‥くそ!!どけぇぇぇ!!!」
冷静さを欠き注意力を失っていた俺は、ツルカズラのツルが足に近づいている事に気付かず掬われ地面に顔面をぶつけた。そしてそのまま宙吊りにされる。
すると何処からか矢が放たれ、俺を吊るすツルを断ち切り、俺は再び地に落ちる。
矢が放たれた方向を見ると、ハーマンドだった。
「アル!!冷静さを失えば助けれる物も助けられないぞ!」
くっ、ハーマンドの言う通りだ。
「けど!どうしたら!?ニアが食われた!!」
「落ち着け! ツルカズラの体液で溶けるのはかなり時間がかるんだ!だが、彼処から出すには魔石を潰さなきゃなんねぇー。その魔石が何処にあるかさえ分かれば!」
「ん‥。」
そこへヴィオラが、ツルカズラの根元付近にあるムラサキ色の大きな水晶を指さす。
「あそこ‥弱点‥多分。」
多分か!!けど確かに弱点っぽい!!
見るからに魔石っぽい!!
「だが、あの場に行くには先程のアルの様に、無数のツルが行く手を拒むぞ。」
ハーマンドの言う事はごもっともだ。
「魔法‥落とす。」
ヴィオラがまた的確っぽい発言をする。
「雷か!雷魔法なら真上からあの魔石にぶっ放せる!」
「だけど雷を撃てる奴なんて‥」
俺は何でも助かる見込みがあるなら縋りたい気持ちだった。
「ベル、確か魔法が得意と言っていたな? 雷系の魔法は使えるのか?」
ハーマンドが訪ねる。
「使えるには使えるけどライトニングぐらいしか‥。」
「そ、それならいけるのか! じゃぁ、ちゃっちゃとやってくれよ!」
俺のその発言にカチッ、ときたのか、俺を睨みつけるベル。
「簡単に言ってくれるわね!ライトニングは初級の魔法よ!あんなの壊せる訳ないじゃない!それにあの場所を狙うのにどれだけ難しいのか分かってるの!?貴方No. 1なんでしょ? 天才の貴方がやればいいじゃない!?」
うっ!怒らせてしまったか!
「おいおい!こんな所で仲間割れしてる場合じゃねぇだろぉがよ!来るぞ!」
ガルフが仲裁に入り、注意を促して皆の視線をツルカズラに向かせると、ツルカズラのツルの鞭が無数に俺達に飛びかかっていた。
俺はベルの前に迫り来るツルをダガーで切り落とし、ガルフは拳でツルを撃ち落とす。
ハーマンドも迫りくるツルを交わしつつ弦を弾くが、捌ききれないのも出てくる。だがそのツルをヴィオラがフォローする。
腰に下げた細身の剣で、普段では想像できぬ程の速さでスパパパ!と切り裂いていく。
俺はベルを背後にし、ベルに話しかける。
「こんな時に言うのもなんだけど、あの時の失言を怒ってるなら本当にごめん。けど、前にも言ったけど俺は本当に魔法を知らないし使えないんだ。だから‥今は、ベルだけが頼りなんだよ。」
俺の言葉にベルはフゥっと息を1つ吐き出した。
「ふん。まぁいいわ。そこまで言うならやってやるわよ!!けど、ライトニンングは一本の雷を落とす初級の魔法だから、あの大きな魔石を壊せる程の威力を放つのには膨大な魔力を充填させる時間の間が必要になるの。それに、さっきも言ったけど、あの場所に命中しないかもしれない。それでもいい!?」
どうにかやる気にはなってくれた様だ。
「あぁ。それでも構わない。外したってまた撃てばいい。当たる確率があるのなら、その間は俺が時間を稼ぐ! 俺がお前を守ってやる!!」
俺の言葉にベルは少しキョトンとした表情を作るが、直ぐにフッと表情を緩める。
「これだから天才は嫌いなのよ。聞いて皆んな!今から私は集中力を高める為、魔力を充填するわ!」
「魔力を充填!?高レベルな事が出来るのか?」
ハーマンドはその発言に驚きを見せる。
「レベルが低いなら上げるまでよ!その間シッカリと私を守りなさいよね!!」
「ったく、どっちが簡単に言ってんだか‥。」
拳をガン!ガン!、と合わせ構えるガルフ。
だがそのガルフの言葉を逃さず聞きとったベルはガルフを睨みつける。
「ガルフ、何か言った?」
「な、なにも!!」
ベルの覇気にガルフはビクっと身体を硬直させ姿勢を正した。
「よろしい!さぁ、始めるわよ!!私だから出来る究極の初級魔法よ!」
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