またインチキ臭いヤツが一人…

おい、一体どこまで行ってんだよ、あの偽森高は!


腹減ったと同時にションベンしたくなったぞ、おい!


「こら、カリ高!どこまで行ってんだ、早くこのロープをほどけっつってんだろ、おいっ!」


咄嗟にカリ高と言ったが、これは同級生で同じサッカー部の吉田謙司(よしだけんじ)がふざけて、


「カリ高センセ~っ!」ってボケをかまして、思い切りビンタを食らったのを思い出したぞ。


「おい、カリ高!」


何しに廊下に出たんだ、一体?


あ゛ぁ~ションベン漏れそうだ!


もしここでションベン漏らしたら…


オレ41才だよ?ナリは中2だけど、中身は41才なんだぞ?


そんなヤツが保健室でションベン漏らしてみろ、卒業してからもずーっとネタにされるんだぞ!


カリ高もそうだが、ジジイまでいなくなりやがった。


「おぉ~~いっ!誰でもいいから早く保健室に来い、バカヤローっ!」


…頼む誰か来て…


ションベン漏れる!




あぁ、これでオレの薔薇色の中学時代の幕開けと思ったのが甘かった。


皆から「このションベン漏らし!」とか言われるんだろうな…


卒業式でもオレだけ壇上に上がって卒業証書をもらう時もゲラゲラ笑われるんだろな…


それだけは絶っ対にイヤだ!


「ぬおぉ~っ!」


オレはありったけの力でロープを外そうとした。


ケンシロウが怒りに満ちて革ジャンを鍛え抜かれた筋肉でビリビリに破くかのように。



……ダメだ、力を入れるとションベン漏れそうだ!


他に何か方法はないものか、オレは見た目は中2、中身は41才、人呼んで山本智!


皆そう呼んでるじゃねえか!

…いや、誰もそんな事は知らない。


それよか何か脱出法は?


あ、手が動く。


そうか、手を使ってロープを外せばいいのか、何故そんな事に気がつかなかったのだ、オレは?


よし、外してみよう!


………………………無理だ。


手だけ動けても、上手くロープを外す事が出来ない…



「おぉ~~い、マジで誰もいねえのかよ!いつまで給食食ってんだ、テメーらは!」


保健室は一階の校舎の隅にある部屋だ。


いくら声を出しても届かないんだよな…


ぬおっ、膀胱が今にもダムの様に押し寄せてくるっ!


あぁ、もうここで漏らそう。そして明日から登校拒否して部屋で引きこもろう、うん。


開き直ってオレはここでションベンを漏らそうとした。



ガラッ


ん?誰か来た。カリ高だった。



「山本くん!あなたの給食無いわよ。さっきから教室であなたの分の給食あるか他の生徒に聞いたけど、あなたが食べたって言うじゃない!

ウソをつくのは止めなさい!」


「にゃんと!オレは全く食ってないぞ!牛乳少し飲んだだけで、後は手をつけてないんだぞ~っ!」


あのクソジジイ全部食いやがったな!


「もう、さっきからうるさいわよ!とにかくこのロープ外すからジッとしてなさい!」


「…はい」



あっ…ヤバっ、それよか膀胱が…


「センセー、それよかションベン漏れそう!早くロープ外してよ!」


さっきからベッドでモジモジしてるが、アイツらがっちりと縛って外せない。


「えっ、オシッコ?ダメよそんなとこでしちゃ!」


えっ?とカリ高はロープを外す手を止めた。


「だからさっさとロープを外せって言ってんだろ、このカリ高が!」


バッチーン!



「先生に向かって、変なアダ名で呼ぶの止めなさい!それと外せじゃなく、外してください、でしょ!」



またビンタ食らった!



「あ゛ぁ~~っ!今のビンタで少し漏れたっ!これじゃ体罰だ!PTAに言いつけてやる!

紛らわしい名前の保健の教師に殴られたってチクってやる!」



もう漏れそうだ!


「うるさ~~い!少し黙ってなさい、今外すから!」


カリ高は机の引き出しからハサミを取り出し、ロープとタオルや包帯を切って、ようやく自由の身になれた。




「センセー、ありがとう、愛してるぜ~っ!…の前にトイレ行く!」


オレはダッシュでトイレに駆け込んで、チャックを下ろした。


「のゎっ!何だこの皮は?」


そう、身体が中2に戻ってしまったのだ、勿論下半身も中2の頃に戻っていた。


ナニが元に戻っているのかは想像に任せる。



とにかく勢いよくションベンが出た。


まだ出るのかよ?ってぐらいに便器の前で出し終わるまでかなりの時間がかかった。


ふ~、何とか間に合って良かった。


「どうやら間に合ったようですね(^^)」


ガチャっと個室のドアが開き、中から茶坊主のようなイガグリ頭にメガネをかけた背の小さい男が出てきた。


しかも容姿に似合わず、濃紺のスーツを着ている。おまけに年齢は若くも見えるし、年を取ってるようにも見え、トッチャン坊やみたいな出で立ちだ。


「何だ、お前は?個室から出て来やがって。お前まさかウンコしてたのか?」


そのイガグリ頭のトッチャン坊やは洗面所で手を洗い、ジャケットの内ポケットからジジイと同じようなボロボロの名刺を出した。


「私こういう者です(^^)決して怪しくないです(^^)」


その名刺を見た。


【天界桃源郷1-3-5

仙人コーポレーション 下界更正育成課部長 宇棚ひろし

0×-5×××-8×××】


…またインチキ臭いのが登場してきたな、こりゃ…


怪しくないです、って十分怪しいよ!

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