紛らわしい名前、森高千春

「おぉ~いっ!誰か来てくれ~っ!助けてくれ~っ!」


チキショー、何でこんな格好で保健室のベッドで拘束されなきゃなんないんだ?


「おい、ジジイ!いるんだろ?早くこのロープをほどけっ!」


…返事が来ねえ。

まさかオレの揚げパン食ってんじゃねぇだろうな。


ったく使えねえジジイだ、杖が無いとただのジジイじゃねえかよ。


「誰か、誰かいねぇのかよ!このロープほどいてくれよ~~っ!!」



シーン…


そうか、給食の時間だから、皆各教室で揚げパン食ってんだろな…


うぅ、揚げパン食いたかったよ~…


でも、保健の教師はどこで給食食ってんだ?


てっきり保健室で食ってるもんだと思ったけど違うのか…はぁ、何だかなぁ。


…っていうか、前が見えねえよっ!何だこの貼り紙は!


泰彦のヤロー、キョンシーみたいにおでこに貼り付けやがって!


…オレ41才なんだぞ、バカボンのパパとタメなんだぞ!


何が悲しくて霊に取り憑かれたかのようにベッドで拘束されなきゃなんないんだよ?



ガラガラっ


おっ、誰か来た。


「誰か、このロープほどいてくれよ!」


オレは大声で叫んだ。


「えっ、何々?誰かいるの?」


女の声がして、サッとベッドを囲うようなカーテンを開けた。


「キャッ!何、これ?」


カーテンを開けたのは女の人の声だった。


「何、これじゃなくて、このロープほどいてよ~っ!」


「何なのこれは一体?」


手足を拘束され、ロープでベッドごと縛られている姿を見て驚いていた。


そりゃ誰だって驚くわい。



「こっちが聞きてえよ、何なんだ一体!」


その声の主は貼り紙に書かれている文字を読んだ。


「何かに取り憑かれる?身体の隅々まで検査してください?…はぁ、何なのこれは?何のイタズラ?」


そう言って先生はおでこに貼ってある貼り紙を一気に剥がした。


「痛っ、毛が抜けるじゃなえか、もうちょっと優しく剥がせよ…って、…あっ!森高センセ~?」


保健の教師、森高千春(もりたかちはる)


このクソ紛らわしい名前は、この年にブレイクした森高千里と間違えやすい。


あくまでも名前だけが間違いやすいだけで、容姿や年齢は全く違う。


あの森高千里はミニスカートで脚線美を披露していたが、この保健の教師、森高千春は年齢はアラフォーで、脚線美どころか、ちょい豊満過ぎて、似ても似つかない!


この頃、アラフォーってえと、オレとタメだよな?


…うーん、同世代ねぇ。


お世辞にも同世代に見えない…


オレよか4,5才は上に見えるぞ。


…いや、そんな事はどうでもいいから、早くこのロープをほどけよ、このポッチャリ森高め!


「何でこうなってるワケ?」


呆れた顔して腰に手を当てていた。


チャンピオンベルト巻いたら、悪役の女子プロレスラーみたいだな、この体型はw


「給食すら食ってないのに、泰彦達に拉致られてここでロープで縛り付けられたんだよ。

センセー、オレ腹減って何も食ってないんだよ」


オレはこうなった経緯を偽森高話した。


「給食食べてないの?」


食えるワケねぇだろ、こんな状況で!


「そうだよ、給食食おうとしたら、泰彦と龍也とチャッピーに連れられてここに来たんだから」


だからオレの分の揚げパン持ってきてくれ~っ!


「じゃ、ちょっと待ってなさい」


そう言って森高は保健室を出て行った…


「おい、まずロープをほどけ、この偽森高!」


いつまでこの格好でいなきゃなんないんだよ…


ジジイは現れねぇわ、偽森高はすぐにいなくなるわで、ろくな日じゃないな、今日は…

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