チャッピーの顔、落書きしてやろうぜ
オレと龍也、そしてチャッピーは職員室でチャイムが鳴るまでお説教を食らった…
で、ようやく解放されたのだが、
龍也のおでこに【肉】とマジックで書かれたままだ。
額に落書きしたまま、廊下を歩いてるから、龍也はしきりに頭を押さえている。
何せ、肉って書かれているからな。コイツはイケメンだし、ヤンキーだが、女子からの人気もある。
その人気者がこのザマだw
「ったくよ、何だこの文字は!これじゃスゲーみっともねえじゃねえかよ!」
廊下を歩きながら龍也はブツブツ文句をたれた。
「それ書いたのオレじゃねえぞ、チャッピーだからな」
オレは隣に歩いているチャッピーを指差した。
「…チャッピーが?」
龍也は一瞬立ち止まり、チャッピーにガン飛ばした。
「そうだよ、お前がのびてる間にマジックで肉って書いたんだよ、ウソだと思うなら他のヤツに聞いてみりゃいいだろ」
オレはチャッピーの首根っこを捕まえ、龍也に顔を向けた。
「いや、違うんだよ…智に書けって言われて…」
チャッピーは龍也にビビってるから、しどろもどろになって言い訳してやがる。
「テメー、いい度胸してんじゃねえかよ!オレのおでこに落書きするなんてなぁ…どうなるか分かってるよな、おい?」
龍也は額を押さえたまま、チャッピーの胸ぐらを掴んだ。
「て、事は勿論チャッピーの顔にも落書きしないとなぁ、龍也」
オレは黒の太マジックを龍也に渡した。
「それよか山本、さっきオレにどんな事をした?段々と視界が薄れてきて、気がついたら瑠璃子に起こされて…お前格闘技か何かやってるのか?」
龍也は何で自分がタイマンで負けたのか、釈然としない。
首を極められ、そのまま落ちてしまったからだろう。
「頸動脈締めれば誰だって落ちるよ。ただオレの場合、そのやり方を知っていただけで、格闘技の経験なんか無いっつーの」
そう、プロレスファンのオレはよく専門誌に技の掛け方を写真つき解説で載っていたから、龍也相手に実戦で使ってみた。
「クソッ、まさかあんな無様な格好にされるとは…でもオレは負けたと言ってねえからな!」
納得していない様子だが、もうこれ以上揉め事は面倒だ。
「いいじゃねぇかよ、もう。勝った負けたなんてどうでもいいよ。皆、お前にビビって誰も近寄らないじゃねえかよ。お前だって皆に怖がられたままじゃイヤだろ?」
龍也とて、ただのヤンキーじゃない。機嫌の良い時は面白い事もするし、よく笑う。
「ったく、どいつもこいつもすぐビビりやがって!」
「そりゃ、誰だってお前に威嚇されたり、怒鳴られれば萎縮するだろう?もうあんまりそういう事するのは止めとけよ、な?」
どうやら龍也も本音は皆とワイワイ仲良くやりたいみたいだ。
「…別に威嚇なんてしてねぇけどな…」
思えばオレとコイツは1年生の頃はよく一緒に帰ったぐらい、仲が良かったんだよな…
何がきっかけでいがみ合うようになったんだっけか?
…思い当たるフシはいっぱいあるんだがw
あぁ、そうだ!確か中1の3学期のテストでコイツ100点中2点という大笑いな点数取って、それをオレが皆に見せびらかしてから、険悪な仲になったんだ、今思い出した!
オレは100点中10点だったけどなw
コイツとオレは常にビリを争う程、頭が悪かったんだ、こりゃ目くそ鼻くそ、五十歩百歩、まぁそんなもんだ。
「ま、そんなワケで今回はチャッピーの顔にも落書きして、この件は水に流そう!チャッピー!ちょいと顔出せ!」
階段の踊り場でオレはチャッピーをヘッドロックに捕らえ、龍也に極太の黒マジックを渡した。
「な、何でオレがそうなるんだよ?イヤだよ、顔に落書きなんて!」
チャッピーはかなり怯えている。
がしかし、コイツは虎の威を借る狐ならぬ、龍也の威を借るドチビだ。
「チャッピー、テメーも顔にお絵かきしてやるぜ、覚悟はいいな?」
龍也はマジックのキャップを取り、チャッピーの顔に落書きしようとするが、ジタバタ暴れるので、上手く書けない。
「お前はじっとしてろ!それともまた痛い目にあいたいのか、ん?」
階段の踊り場で、オレがチャッピーを羽交い締めにし、龍也がマジックで書いた。
「お前の眉毛、一本に繋げてやらぁ、ジッとしてろよ、おいっ!」
龍也はチャッピーの眉毛を太く塗り、眉間を黒く塗り、左右の眉毛を繋げるように一本眉毛に仕上げた。
「うぅっ、何でこんな目に…」
チャッピーが涙目で項垂れていた。
「ギャハハハハハ!龍也見ろよ、これじゃ両さんの眉毛だぜ!あぁ~笑えるw次カールのオジサンみたいなドロボーヒゲ書いてやれ」
ちなみに両さんの眉毛とは、【こち亀】の主人公、両津勘吉の眉毛の事だ。
「や、止めてくれよ…誰か助けてよ~っ!」
「うるせーっ!ジッとしてろってのが聞こえねえのか!」
チャッピーも、龍也にこうやって脅されたりするのがイヤで、常に小判ザメ、もしくは太鼓持ち、いや金魚のフン?
まぁ、そんなようなもんで龍也に対してはヘコヘコしていた。
でも、この際だから皆で落書きして水に流してやれぃ、とオレなりに考えた。
まぁ、時間はかかるだろうけどな。
…そしてチャッピーの顔は繋がった眉毛に、口の周りが黒く塗られていた…
「ギャハハハハハ!は、腹痛え~っ!何だこの顔…www」
「wwwスゲーマヌケな顔だぞ!こりゃ…」
オレとは龍也はギャッハハハハハハハハハハハと大爆笑した。
「…オレ、何にもしてないのに…何でこんな事すんだよ~っ(泣)」
「泣くな、バカヤロー!よし、オレも顔に書く!龍也、マジック貸してくれ」
こうなりゃオレも自分の顔に落書きしてやれぃ、とばかりにマジックを渡すように頼んだ。
「はぁ?書くって何書くんだよ?」
龍也はよく分からずにマジックをオレに渡した。
で、オレは自分の頬っぺたに
【B-T】と落書きした。
「どうだ!これで皆顔に落書きしてあるじゃないか、うん!これでよし!」
「バカヤロー!それじゃBUCK-TICKのギターじゃねえか!」
ワハハハハ!
「そうだよ!智だけカッコいい落書きじゃないか!」
いいじゃないか、落書きには変わらないんだから。
オレは当時ファンだったBUCK-TICKのギタリスト、今井寿が頬に【B-T】といつも書いてあるのを真似した。
「落書きじゃねえか、これも!うーん、しかし我ながらよく出来たデザインだ」
龍也とチャッピーは「汚ぇぞ!自分だけアートっぽくて!」
と文句を言ったと同時に、
【キーンコーン、カーンコーン】
「ヤベッ、チャイム鳴った!ソッコーで戻るべ!」
オレらはダッシュで教室へ戻った。
「山本、その落書きだけは反則だぞ!」
そんな事を言い合いながら教室に着いた。
クラスの連中はオレら3人の落書きを見て、爆笑していた。
特にチャッピーの一本眉と、ドロボーヒゲは大いにウケたw
で、次の授業は社会科だ…社会科って、あの学年主任の北山か!
こりゃまたオレたち大目玉食らいそうだ…
…案の定、オレたち3人が顔に落書きしてあるせいか、周りからクスクスと笑う声がして、チャッピーの両さん眉毛と、カールオジサンのドロボーヒゲが可笑しすぎて笑いを堪えるのに必死だったw
で、オレと龍也、そしてチャッピーの3人はまた職員室へ連行され、延々とお説教を食らったまま、チャイムが鳴った。
勿論授業は自習だ。
でも、気がついたら、オレと龍也はいつの間にかいがみ合う事は無くなった。
このマジックで落書きしたせいで。
犠牲になったのはチャッピーだが、コイツは前から気に入らなかったヤツも多かった。
だが、コイツがマヌケな落書きになったお陰もあって、笑いでクラスが1つになったんだから、良しとしよう!
チャッピー!
お前のお陰で龍也といがみ合う事は無くなった…
だから…だから今日1日、そのツラでいてくれ!ギャッハハハハハハハハハハハ!
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