何だ、この亀仙人みたいなジジイは?

何だ、この亀仙人みたいなジジイは?


【だからさっきから言っておるだろう、お前の身体は中2に逆戻りしてると】



誰だ、さっきから!



しかも中2?何ワケの解らない事言ってやがんだ?



…でも確かに身体は小さくなってる。


オレは178㌢で68㌔、一応痩せ型で健康には気を使っている。



でも…何だこれは?



…いや、疲れてるんだ、ここんとこ残業も多く、帰りも遅いしな。


家に帰れば帰ったで、妻と娘が中学に進学する事で揉めてるし…



会社でも板挟み、家でも板挟み…あ"ぁ~オレはサンドイッチ状態かっ!



今朝もその事で妻と娘がギャーギャーと朝っぱらから言い合ってるし…



ーーーー朝の食卓にて



「阿莉紗、今日は塾の日でしょ?終わったら真っ直ぐ帰って来なさい、もうすぐなんだから受験は」



はぁ…ウチの妻はまたその話か…こうやって家族揃って食卓を囲んで朝食を食べているのに、塾だの受験だのと言わなくていいものを…



「何度言ったらわかるの?私中学は近所の公立でいいって言ってるでしょ?」



阿莉紗は現在小学校の六年生、本人は地元の公立中学に行きたがっているが、妻の真奈美は阿莉紗の学力が優秀な為か、私立の大学付属中学へ受験するよう、勧めている。



だが、当の阿莉紗は私立中学への受験を受ける気など無く、皆と一緒に地元の公立中学に行きたがっている。


勉強よりも、友達と一緒にいて仲良く通学したり下校したり、部活に入ったりして、色々とやりたい事があるのだろう、オレ自身の考えとしては、阿莉紗の自由にさせてやりたい。



だが、妻はそうは思ってない。


自身が私立中学へ受験し、そのままエスカレーター式に付属の大学へ入った経験からか、今のうちに受験をさせ、高校や大学の受験で苦労しないようにと口酸っぱく阿莉紗に言い聞かせているみたいだが、阿莉紗には阿莉紗なりの考えがある。



まぁ、こういう話になるとオレは蚊帳の外だ。



「何言ってるの!貴女は成績が良いんだから今のうちに有名の私立校に行った方がいいの、高校だって大学だってエスカレーター式に入れるんだから。


ねぇ、パパ?パパからも阿莉紗に受験するように言ってくれないかな?」



妻は必ず食事の時にこの話をする。しかしオレに振っても、大したアドバイスなんて出来ないしな。



オレは新聞に目を通しながらコーヒーを飲んでいた。



「ん?あぁ、阿莉紗。お前は公立の中学に行きたがるのはどうしてなんだ?」



めんどくせぇ、いいじゃねえかよ、中学なんて何処だって…




ほら見ろ、阿莉紗だって朝から受験、受験なんて言うから、パンもサラダにも手をつけてない。


朝飯なんだからちゃんと食わなきゃダメだろ!


なのに妻はこうやってせっかくテーブルの上にあるパンやサラダ、ハムエッグがそのまんまの状態だ。




「だって、皆は近くの公立の中学に入るんだよ?私だけ私立の中学に行ったら友達と離ればなれになっちゃうんだよ…私、そんなのイヤ!皆と一緒に同じ中学に行きたい…」


阿莉紗は有名私立中学に行くよりも、地元の公立中学に行きたがっている。

そりゃそうだ、勉強も大事だけど、友達はもっと大事だ。



「なぁママ。阿莉紗もこう言ってるんだし、何も無理して私立の中学に入れる事ないんじゃないかなぁ。今の阿莉紗は勉強も必要だけど、友達と一緒にいる事が一番楽しいんだ。少しは阿莉紗の事も考えてあげた方がいいんじゃないのかな」



って言うと必ず妻はムキになって言い返す。

ろくに飯も食えやしない。




「何言ってるの、パパは!いい、阿莉紗は今、一番重要な時なの!友達なんて中学に入ってからでも作れるでしょ?」


他の事には無頓着なんだが、阿莉紗の事になると、豹変する。


…あぁ~あ、これだよったく。



何のための朝食なんだよ。


妻は阿莉紗の事になるとすぐに受験、受験と言うが…


何だか飯食う気失せた…



これじゃ何のための作った朝食なんだ?


毎朝こんな事ばかり言って、ちゃんと朝食を摂った事ないじゃないか…


明日から駅の立ち食いそば屋で朝飯食おうかな…



「パパ、私絶対に受験しないから!ママだって私と同じ頃、友達と離れて1人で電車に乗って通学したんでしょ?友達と離れるのイヤじゃなかったの?」



妻はエスカレーター式の大学付属中学から入って後はトントン拍子に大学に進んだから、後々の事を考えれば楽っちゃ楽なんだが、この経験を生かして阿莉紗に受験するよう勧めている。



「ママは中学から大学の付属校に通ってたのよ。いい?貴女もママに似て頭が良いんだから言うとおりにしなさい、いいわね?」


普段はおっとりした、和風の顔立ちの妻だが、阿莉紗の受験の話になると、表情も口調も変わってくる。


それよか、オレに似たら頭悪いってのかよ?


確かにオレは阿莉紗と同じ年頃は勉強はまるっきりダメ、遊んでばっかだったけど、学校生活ってのは勉強ばっかじゃねえんだぞ、解ってんのか、おい?



「だ か ら!私は皆と一緒の中学に行くの!もうママは私の顔見るとすぐに勉強、勉強って…もういい、私そろそろ学校に行く!」



朝からうるさいっ、いい加減にしてっ!とばかりに立ち上がって、バタン!と乱暴にドアを閉め、そのまま学校へ行ってしまった。


あぁ~あ、また何も食べないで学校に行っちまったし…



はぁ…飯ぐらいゆっくり食わせろよな…



「ちょっと待ちなさい、阿莉紗!はぁ、全く、あの子ったら。パパ!パパももうちょっと強く言ってくれないと!だからあの子は受験したがらないのよ!ねぇ、パパ、聞いてるの?」


あぁ~、もうめんどくせーヤツだな、ったく!



「ママさぁ、それより何のために朝飯作ってんだよ?ママがいつも毎朝こんな事言うから、アイツいつも朝食食べないで学校に行ってるじゃないか。


ママの言い分もわかるんだが、阿莉紗にだってやりたい事があるんだろ…あ、そろそろ行く時間だ!ママ、悪いけど車出して!遅刻しちゃう」



飯も満足に食えないのかよったく…


だからいつも午前中は物凄い腹が減るんだよ、こっちは…



【グゥ~、ガウガウ!】



「ん?どうしたシバオ?」



愛犬の柴犬、シバオ(♂三才)がいつの間にかテーブルの下にいて、オレを見てすぐ吠える。



コイツは妻や阿莉紗には懐くんだが、どういうワケかオレには懐かない…



そういや阿莉紗が言ってたな。



「パパを見て吠えるっていうのは、パパの事を下だと思ってるからなんだって。パパ、シバオより下に見られてるじゃんw」



何だと、このアホ犬が!




前もオレのハムエッグ横からバクって食べたぐらいだからな。



「こら、シバオ!それはパパのだ、離しなさい!」



【ガルルル~、ガブッ】



「痛ぇ!コイツ噛みつきやがった!」



あん時は手から血が出たし、包帯巻いて会社に通ったっけ…



コイツを飼い始めて3年、マイホーム購入と同時に阿莉紗が犬が欲しい、というから近所のペットショップで生後2ヶ月の白と茶色の毛をしたつぶらな瞳の可愛い柴犬を見て、それからここに住むようになったんだよな…



あれから3年…


全くオレに懐く事がない!



人のツラ見りゃワンワン吠えてばっかだ…


「パパ、早く行くわよ」



妻に急かされ、オレは軽の車の助手席に乗って駅まで送ってもらった…




とまぁ、朝っぱらからそんなやり取りがあったから、疲れてるんだ、だから幻聴が聞こえるし、オレの身体もこうやって錯覚して見えるんだ…



はぁ、たまには疲れを癒しに温泉でも行きたいもんだ…



【こりゃ!さっきから聞こえるのは幻聴でもなんでもないわい!】



「のゎっ!」



目の前に現れたのは、ツルッパゲで白く長いヒゲを蓄えた老人で、山伏みたいな白い装束に先がモコモコっとしている木製の杖を携えていた!



しかもこのジジイ、宙に浮いてるっ!!




あぁ…こりゃ相当疲れてる証拠だ…ドラゴンボールの亀仙人みたいなジイさんが見えるようになるとは…今度の休みの日に検査してもらおう…



おまけにオレはここ最近、まともに朝食を食べてない。


朝からああでもない、こうでもない、と言い合ってるのを聞いてると飯を食う気になれん。



それも原因なんだろうな…


こんな仙人みたいなジイさんが見えるってのは、しっかりと朝食を摂らないから幻覚症状が起きるんだ(…多分そうじゃないかと自分に言い聞かせている)



【いかにも!ワシャ仙人じゃ!】



「…やっぱ疲れてるんだ…今日は休もうかな」



『間もなく3番線ホームより電車が参ります。危ないので白線の内側までお下がりください』



…あぁ、こんな日でも会社に通うのか、憂鬱だな。



【おい、聞いてるのか!】



でも待てよ、こんなラッシュアワー時に変な格好しやがって…


これから会社に通ったり、学校に通う連中に紛れてこんな胡散臭い格好してるってのは、皆見て見ないフリをしてるのかも…



そうか、そういう事か。



しかしこんなクソ忙しい時間帯に変なコスプレするジジイがこんな満員電車に乗るな!ったく。



【こりゃ!さっきからワシの話を聞いてるのか、お主は!】


ジジイはオレの前に立ちはだかった。


「ウルセー、このくそジジイ!こっちは今から仕事なんだ、邪魔すんじゃねえ!」



おいおい、皆注意しねえのかよ、このジイさんを…


こんな人がいっぱいいる駅のホームで変な格好して、変な事ばっか言ってるジイさんを迷惑に思わないのか?




ザワザワザワザワ…



『またあの子1人で怒鳴ってるよ』



『勉強のやり過ぎで頭おかしくなったんじゃないのか?』



『ったく朝っぱらからウルセーガキだな』



…何だ?何で皆オレの事見るんだ?


このジジイの方が十分怪しい格好してんじゃねぇか!



【フォッフォッフォッフォ、周りにはワシの姿は見えんのだ】



「はぁ?」



何だかあぶねージジイだ、ありゃ家族に相手にされないんだろうな、きっと。


関わるのはよそう、さっさと電車に乗ってしまおう。



オレは電車が駅に停まりドアが開いたと同時に一目散に満員の中へと入っていった。



【待つのじゃ!】



ゲッ、乗り込んできやがった、このジジイ!



【ハンニャラホンニャラ、フニャチャカピー、ワイハー、ザギンにギロッポン!カーッ!】



ジジイは変な呪文というか、ワケの解らん事を口走り、オレに杖を向けた!



ん?…あれ?何だ目の前が…



目に映る物全てがグニャ~っと歪んで見える!



「な、何だ何だ!目の前が段々暗くなってくる!助けてくれ~っ!」



…そこから先は全く覚えてない…


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