四章 ②対悪魔武器
「というわけで、イルミナティの襲撃に備え、これから訓練をするわよ! 真理須、例のものを」
カッコつけて言ってはいるが、正体はただのおもちゃである。
紫に促され、俺は大型量販店のビニール袋から箱を三つ取り出す。
「これは水鉄砲、ですか……?」
「そうよ。悪魔の弱点は聖水。つまり、聖水を詰めれば、水鉄砲は強力な対悪魔武器になるのよ!」
それは間違いない。毎日身体を張っている俺がお墨付きをくれてやる。
早速箱を取った合戦峯が、そこに書かれてある仕様を見て驚嘆の声を上げた。
「ほう、八メートルも飛ぶのか。よくできてるな」
「そうなの、おもちゃだけど意外と性能いいのよ。別売りの給水タンクを背負えば、水の補給もできるみたい。まだ経費が下りなくてタンクは買えてないけどね」
経費なんてそもそもねえだろ、と内心でツッコんでいる間に紫は箱の一つを開け始める。
「ノアも咲羅先輩も水鉄砲に聖水を入れて装備して」
あれ?
紫の指示で女子高生たちは水鉄砲の準備をし始めるが……
「……俺は? 俺の分はないの?」
合戦峯は既に銃を持っているからいらないと思っていたのだが、違ったようだ。首を傾げる俺に紫は眉を持ち上げる。
「悪魔が聖水装備してどうすんのよ。キャラと攻撃の属性が合わないじゃない」
「だって、じゃあ、敵の悪魔が来たとき、俺の武器は?」
「あんた自前の武器あるでしょ? わたしと契約するとき、出そうとしてたじゃない。あれ、結局見てないけど、もしかして騙してたの?」
ジト目で見られ、俺はぶんぶんと手と首を横に振った。
「騙してない! 騙してないよ! ただ、ちょっと、その、恥ずかしいっていうか、出しづらいから……」
「恥ずかしいって何? 人前に出せないような武器ってこと?」
気が付くと、ノアと合戦峯も手を止めてこっちをじっと見ていた。意図せずエロい流れになりかけているのを慌てて否定する。
「違うから! そんな目で見ないで! ちゃんとモザイクなしでOKの健全な武器だよ!」
「ムキになるところが怪しいわね……。はあ、なんであんたって、こんなダメなの? 水鉄砲はまた今度、経費が下りたときに購入しておくわ」
それいつなの?
準備する三人を大人しく眺めていると、いち早く聖水を詰めた紫は対悪魔武器を構える。
「試し撃ちするから、真理須、窓際に立って」
「拷問かよ!」
俺は素早く立ち上がった。机を盾に身構える。
「荊原さん、真理須くん、いじめちゃダメですよ。ただでさえ弱いのが、さらに弱くなっちゃいますよ」
もう聖水をかけられないためなら、どんなフォローでも甘んじて受け入れよう。そんな新境地を開拓した。
「それもそうね。じゃあ、実戦形式にするわ。水鉄砲を持ったわたしたちが、逃げる真理須を追いかけて攻撃する。真理須が溶けたらそこでゲーム終了でどうかしら? 鬼ごっこの水鉄砲版ね」
おまえは本物の鬼だよ。
「おい、ちょっと待て、こら。水鉄砲の練習をしたいなら聖水じゃなくて、普通の水でやれよ。そしたらいくらでも的になってやるから」
鬼畜ルールに堪らず抗議すると、紫が呆れたように俺を見た。
「的になれなんて言ってないわよ? 仮想敵になれと言っているの」
違いがわからず首を捻った俺に、紫は出来の悪い生徒でも見るような目を向ける。
「実戦形式と言った意味が理解できていないようね。これは本当に敵が攻めてきたときを想定した訓練なのよ。敵役は、わたしたちの水鉄砲に当たらないように必死で逃げてもらわないと。聖水だと真理須も真剣味が増すでしょ?」
「これは盟約。悪魔の尊厳に誓い、我は汝らの水鉄砲から真剣に逃げることを定める」
「で、訓練の範囲だけど……」
「うおおい! まさかのスルー!? 今の全悪魔共通の正式な宣誓文句だぞ!」
叫んだ俺に、紫はあっさりと言う。
「真剣にやるんだったら、聖水でもいいでしょ? それとも真理須、あんた悪魔のくせにわたしたちから逃げ切れる自信ないわけ?」
安い挑発だ。わかったが、俺はうっと呻いた。
「でも、ゲームは俺が溶けるまでなんだろ? 俺が負けない限り終わらないじゃないか」
「確かにそうね。じゃあ、こうしましょう。敵なんだから真理須の反撃も可。わたしたち三人の水鉄砲を奪ったら、真理須の勝ちね」
反撃可、だと……?
ちょっとこれはおいしいんじゃないか、とニヤつきかけたところで、
「大丈夫か、セルシア。この悪魔に反撃など許して。悪魔としては役に立たなくても、男としては機能してるみたいだぞ。危険じゃないのか?」
「心配ないわ。ねえ、真理須。もしヘンなことしたら、後でどうなるかわかっているわよね?」
微笑んで聖水のペットボトルを掲げて見せる紫。
……全っ然、目が笑ってねえ!
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