三章 ⑭正義の能力
「本日は英国式アフタヌーンティーをご用意させて頂きました。マスターのお口に合うよう、本場のものを取り寄せてみたのですが、いかがでしょうか」
翌日の放課後、教室にやってきた俺たちは、テーブルに所狭しと並べられたケーキやら軽食やらに圧倒された。
バイキング会場かよ。
高級ホテルのケーキバイキングのような光景に、紫だけではなく、ノア、合戦峯までもが目を輝かせた。
「紅茶も最高級品を取り揃えました。是非、ご賞味ください」
慣れた手つきで茶葉から紅茶を淹れるベリアルを、俺は教室の壁に寄りかかって眺めていた。
よくもまあ、そんな嘘をつけるもんだ。
女子高生三人はキャーキャー言いながら皿にケーキを取り、上機嫌で食べ始める。と、ピンポンパンポーンと校内放送がかかった。
『一年二組の荊原さん、至急、校長室まで来てください。繰り返します……』
「呼び出しですか……?」
「校長室とは穏やかではないな……」
ノアと合戦峯がケーキを頬張りながら言う中、「あー忘れてた」と紫がフォークを置いた。
「放課後、校長室に来るよう言われてたのよ。なんか、この部屋のことで話があるとかで」
合戦峯が息をつく。
「だから言っただろう。これはやりすぎだと」
「いいじゃない。使われていない教室なんだから、誰にも迷惑はかけてないわ。あーあ、せっかく秘密結社らしい部屋になったのに……」
残念そうに言った紫はソファから立ち上がり、俺を見遣った。
「行くわよ、真理須」
「お待ちください」
御意、と返事をしかけていた俺はベリアルに割り込まれ、言葉を呑み込んだ。
「マスターがこのお部屋のものを手放す必要はございません。マスターはマスターに相応しいお部屋で活動なされるべきです」
「でも、きっと校長はこれを許してくれないわ。説得はしてみるけど、強制的に片付けられちゃうかも……」
「何を仰るのですか。貴女は二十一世紀最大の魔術師なのですよ。貴女の意向に沿わないものは、たとえ相手が校長であろうと従えればよろしいのです」
「校長を従わせるなんて、どうやって……?」
「わたくしの力をもってすれば、造作もありません。その役に立たない悪魔ではなく、わたくしをお連れください。このベリアルがマスターの意のままにして差し上げましょう」
ベリアルに完璧な微笑を向けられた紫が、不安げに俺を見た。
……ここで「そりゃ嘘だ」なんて言ったら、またベリアルにボコられるんだろうな。
先が読めた俺は紫から目を逸らした。
「……わかったわ。ベリアル、ついてきなさい」
「かしこまりました」
笑みを深くしたベリアルが紫に付き従い、二人は教室を出て行った。
「おまえは行かないのか」
合戦峯に声をかけられ、レオンにあっちむいてホイをしていた俺は顔を上げた。
「……俺が行ったとこで校長の説得なんかできないし」
「あのベリアル、どうにも胡散臭い。このイタリア産ティラミスは悪くないんだが……」
「ああ、それ、イタリア産じゃないな。近所の洋菓子店から盗まれている」
「……!」
ケーキを食べる合戦峯の手が止まった。
「本場のものだなんて、とんだ嘘っぱちだ。紅茶もスーパーから盗んできたやつだし」
「真理須くん、そんなことわかるんですか?」
唇の端に生クリームをつけたノアが驚いて俺を見つめる。俺はフッとカッコつけた笑みを洩らし、顔に手を当てた。指の隙間から、二人を見る。
「正義を職能とする俺に、見抜けない盗品はない。それが俺の能力、正義の眼(アイズ・オブ・ジャスティス)! そして、盗品返還(ロストリターン)を使えば、盗まれた物品は一つ残らず、あるべき場所へと返るのさ」
これが俺の正しい使い方である。
決して俺は、護衛やら秘密結社のメンバー集めやらファミレスバイトやらのために存在しているわけではない。
合戦峯は皿を置くと、能力を披露できて達成感に満ち溢れている俺へ言った。
「……とても悪魔とは言い難い力だな」
ぐはっ。
「そういうこともできるってだけですよね? 真理須くん、他にもちゃんと悪魔らしいことできますよね?」
ノアが取り成すようにフォローをしてくれた。余計、追い詰められた。
……ごめんなさい。調子乗りました。もう勘弁してください。
蹲ってレオンをいじいじする俺に、合戦峯のため息がかかる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます