二章 ⑨貼り紙
急募
紫の薔薇十字会オープニングメンバー募集! 未経験者大歓迎! 魔術の知識がなくても大丈夫。親切な悪魔が一から丁寧に教えます。履歴書不要。週1、2hからOK。服装髪型ピアス自由。魔術師を目指している方、悪魔と遊んでみたい方、魔術のスキルアップをしたい方、世界平和に貢献したい方、放課後の時間を有効活用したい方、歓迎。
四月に結成されたばかりの秘密結社です。楽しい仲間と一緒に悪魔召喚をして、悪の秘密結社イルミナティと戦いませんか?
応募は紫の薔薇十字会会長、一年二組セルシア・ローザ・レヴィまで
翌日の放課後。秘密結社本部という名の教室に俺たちが集まると、紫が校舎に貼り紙をすると言い出した。その原案がこれである。
「……どこのバイト求人だよ」
一読した俺は、それ以上のコメントをできずA4の紙を放り出す。授業中ずっと爆睡してたくせにまだ欠伸をしている紫が、俺をじろっと見た。
「あんたに任せてたら、メンバーが偏りそうだから公募することにしたのよ」
紫にしては賢明な判断だ。
原案を拾ったノアが首を傾げた。
「荊原さん、こんな誰でも読めるような貼り紙でいいんですか? 魔術師にしかわからないように暗号を組んだほうがいいんじゃ……?」
「いいえ、たくさん応募してきてもらいたいんだから、みんなに読めたほうがいいわ。破格の条件だから応募が殺到しないか心配だけど」
まず誰も応募してこない心配からしようか。
「修正するところがなければ、これをコピーして校内中に貼り出すわよ!」
紫の先導で俺たちは職員室の前にあるコピー機で貼り紙を六十枚コピーすると、二十枚ずつに分けた。
「わたしは一階、真理須は二階、ノアは三階ね。貼る場所はすべての教室、廊下、トイレよ。女子トイレはわたしとノアで分担するから、真理須は全部の男子トイレよろしく。貼り洩れがないようにね。終わったら、本部に集合よ。一時解散!」
というわけで、俺はセロハンテープと貼り紙を持って校舎を巡っていた。こんな求人に応募してくる奴がいるとは到底思えなかったが、真面目にやらないで自分のせいにされては敵わない。マスターの命令には従っておくが吉だ。消極的ではあるが、俺は言われた通りミッションをこなし、無事に帰途に着く……はずだった。
余った貼り紙をぴらぴらさせながら教室のドアに手をかけたところで、それは唐突にやってきた。
「動くな」
押し殺した声と同時に、背中に硬いものが押し当てられる。
真後ろに現れた気配に、俺はギョッとして動きを止めていた。
廊下の喧騒が嫌に遠くに聞こえる。放課後の浮かれた生徒たちは自分のことに夢中で、空き教室の前に佇む俺たちの異変に気付く者はいない。
「アンドロマリウスだな」
背後の人物が囁いた。ハスキーな女性の声だ。アンドロマリウスと言ったように聞こえたが、おそらく聞き間違いであろう。俺は言い直してやった。
「安藤真理須だ」
「ふん、そんな名前で正体を隠したつもりか、悪魔アンドロマリウスよ」
何故だ? 何故、俺の正体がバレている……?
振り向きたい衝動に駆られたが、背後の殺気はそれを許さない。
おかしい。どこでバレた? 紫か。あいつ、また俺を悪魔だと吹聴したのか。どこまで俺の青春生活をブチ壊すつもりなんだ……。
俺は力なく、はは、と笑う。
「あー悪魔ってのは設定だよ。ほら、あいつ、中二病だからさ。あいつの中で俺は悪魔ってことになってて……」
「何を言っている? 民間人の目は誤魔化せても、私を欺けると思うなよ。私は内閣府直属、超常現象対策本部対悪魔特殊部隊、略してSADT所属、合戦峯咲羅(かしのみねさくら)だ。貴様が悪魔だということは、諜報部により既に調べがついている」
……作戦失敗。なんかガチでヤバいのきちまったぞ。紫の中二病が可愛らしく思えてきた。
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