二章 ⑤メンバーの集め方

 紫は一拍間を置くと、高らかに宣言した。


「ずばり、メンバー集めよ! 目標、新規加入三人! 人員を倍以上にして組織拡大を図るわ!」

「……は?」


 ぽかんとする俺。新規加入三人で、人員が倍以上ってことは、


「ちょっと待て。おまえの秘密結社って、今のところメンバーは……」

「わたしとあんただけに決まっているじゃない」


 威張るなよ。それじゃ、結社でも何でもないじゃないか。


「クラスメートと接触するなと言っておいて、今度はメンバーを集めろと言うのか。おまえの要求は矛盾してないか?」

「どこが矛盾してるのよ。わたしは一緒にイルミナティと戦ってくれる仲間が欲しいって言ってるの。魔術師だと特にいいわね。襲ってきた刺客たちを返り討ちにしてやるのよ」

 うんうん、と一人で頷く紫。いつか、ちゃんと襲ってくる刺客も用意しろとか要求されそうだ。バカらしくなった俺は投げやりに言う。

「おまえの希望はわかったけど、そんなの自分で探せよ。おまえの仲間だろ?」

「自分で見つけられたら頼んでないわよ。こんなときこそ、悪魔のあんたの出番でしょ。さあ、真理須。あんたの力でぱぱっと三人、仲間を集めてきなさい!」


 命令され、俺は思わず天を仰いだ。魔術師を自称するくせに、こいつは悪魔の力について何もわかっていない。


「力は使えない。それは俺の職能からは外れる」

「職能? 何それ?」

「一言で言えば、使える能力の方向性だよ。悪魔の力は万能じゃない。レメゲトンにも書いてあっただろ。俺の職能は正義。具体的には盗まれた物品を見つけ、持ち主に返すことだ。あとは罪人を罰することくらいだな。俺の力じゃ仲間集めはできない」


 ちなみに、正義の俺には、犯罪行為に自分の力を行使できない。やったら気持ち悪くなって吐く。


「ええっ!? じゃあ、メンバー集めはできないって言うわけ!?」

「できないとは言わないさ。ただ、悪魔の力には頼らない地道な形にはなるけどな」

「地道って?」

「普通に人間がやるような方法だよ。例えば、秘密結社に興味ありそうなクラスメートに一人一人声をかけていくとか……」


 紫があからさまに落胆した。


「……そんなのわたしが想像してたのと違うわ。あんたが怪しい呪文を唱えたら三人くらい、ここのドアをノックしてくるはずが……」

「んな都合のいい話あるか」

 妄想をばっさり切り捨てると、紫は口を尖らせた。


「……いいわ。この際、手段は選ばない。命令よ、真理須。ひと月以内にメンバーを三人揃えなさい! できなかったら、来月からウズラの卵にするからね!」


 もはや何の卵でもいいのだが。

 ビシっと指を突きつけられ、俺は肩を竦めつつも「御意」と答えた。


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