一章 ④ヒロイン登場
―――自由落下。
垂直のトンネルを落ちること十数秒。俺は固い床にストンと着地した。
瞬間、真っ白な陽射しが直撃する。
眩しっ!
かざした手の隙間から見えるのはカーテン全開の窓。清々しいまでの青空が俺を出迎えていた。
おいおい、悪魔を呼び出すんだから陽射しが入らない真っ黒いカーテンを用意するのが常識だろ……と思っていると、後ろから声がした。
「あんた……どっから来たの?」
振り向くと、そこには目を大きく見開いた美少女が立っていた。磨き上げられた黒曜石のような瞳、白磁の肌に薔薇色の頬、腰まである艶やかな長い黒髪。その容貌は天界の見目麗しい上級天使と並んでも遜色はない。
そして、滅多に地上に来ない俺だが、彼女の服装には覚えがあった。ブレザーにチェックのスカート、首元には赤いリボン。手に何故か霧吹きを持っているのが気になるが、これはまさしくエロゲでよく見る女子高生……!
「ねえ、訊いてるんだけど。なんなの、あんた、腕に蛇なんか巻いて、珍獣マスター?」
生JKに若干感動している俺へ、少女は憮然と問う。
どうやらここは教室らしい。少女の背後にある黒板や机を見てそう判断した俺は、ふと疑問が湧いた。直射日光にしろ、不特定多数の人間が集まる環境にしろ、魔術を行うには不適切な場所である。普通、こんな悪条件で召喚は成功しない。
どうしてこんなとこに呼び出されちまったんだ、という疑問をひとまず頭の隅にやり、俺は少女へ名乗ることにした。
「俺はレメゲトンのソロモン七十二柱に名を連ねる悪魔、アンドロマリウスだ。おまえが俺を呼び出したのか?」
途端に女子高生の視線が、さらに険しくなる。
「は? あんた、悪魔?」
「そう、悪魔」
言うなり、少女は「嘘!」と叫び、ズカズカと俺に近付いてくる。いや、マジでほんとなんだって、と言う暇を与えずやって来た少女は、持っていた霧吹きを俺へと向けた。
シュッ。
「ぎゃああぁぁぁ……!」
顔面を襲った灼けるような痛みに悲鳴を上げる。
痛い! 熱い! 何だこれ……!
懸命に顔を拭っていると、少女の不審がる声がした。
「リアクション大袈裟なんじゃない? うるさいわよ」
「か、顔が……熱い……それは……?」
「熱いって何言ってるの。これは熱湯でも何でもない、常温の聖水よ。ふざけるのもいい加減にしなさいよね」
シュッシュッ。
「ぎゃあああぁぁぁあああ――――!!」
顔面だけではなく頭部全体を襲った激痛に、俺はたまらず床に転がった。熱すぎる。これに比べたら地獄の業火なんか生温いもんだ。俺は身悶えながら、藁にも縋る思いで助けを求める。
「……た、頼む。み、水を……身体が、溶けそう……」
「ん? だからさっきから、かけてあげてるじゃない。もっと欲しいの?」
違う。それは聖水だろ! 悪魔に聖水をかけるなんて……。
抗議しようと手の隙間から少女を見上げたとき、女子高生はちょうど霧吹きの首を外し、ただの聖水の入れ物となった容器を斜めに傾けているところだった。
見開いた俺の目に、とぷとぷと注がれてくる聖水が迫る。
「―――――――っっっ!!」
死んだ。
死んだと思った。
でも、悪魔だからそんなことじゃ死ねなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます