第4章 ミコト様の親父さん
第24話 真夏の暑い日
七月、夏真っ盛り。25度を超える日々が続き、毎日がうだるように暑い。
アスファルトから反射される熱が、この暑い夏を余計に暑く感じさせる。今はまだ朝だというのに、すでに気温は20度を超えている。
今俺はミコト様に供え物を供えるために、いつもの雑木林に来ているところだ。
ミコト様のお社がある雑木林は、木が太陽の光を遮ってくれているため、日差しが照っているところほど暑くはない。時折吹く風も、ある程度涼しくて少し心地いい。
の、だが、そんなところでも、やっぱり基本的には暑いわけで–––––––––
「あっちーなぁ。おーい羅一。なんとかなんねーのかよー」
「できるわきゃねーだろ何無茶言ってんだ」
こーんな風に、お社の中で若干一名暑さに伸びて無茶ぶりかましてくる神様がいたりする。
誰かって? ミコト様に決まってるでしょうよ。お社の中でぐったりしながら手で風を仰いでいる。おい神様の威厳はどこに置いてきた。
戦闘面では圧倒的な強さを誇るミコト様でも、暑さには敵わないらしい。意外だな。日焼けしたような肌の色してるから、こんな暑い日でも元気に外に出る印象があったんだけど。
てか暑いのは分かるけど、着ている着物がはだけてるのはどうにかならないのか?
その、見えちゃいけないところまで見えそうなんだけど。
「んー? あぁ、服がはだけてんのが気になんのか? ははっ、やっぱり男だなぁお前も。」
俺の少し戸惑った視線から考えていることを察したらしい。
そしてミコト様はごろりと身体をこちらの方へ向け、おもむろに胸元の、肩の露出を増やした。
いやちょっとミコト様っ!?
「ふふっ。どうだ? ちっとはドキドキすんだろ?」
ミコト様は肩をすくめて、悪戯っぽく笑ってみせる。
肩の部分がするりと音を立てて脱げる。そして胸の見えちゃいけないギリギリのラインまで、ミコト様の茶褐色の肌が露出される。
おい待て見える見えるちょっと待って。
「やめい!!」
「ははっ、顔真っ赤にしちまって、可愛いなぁ」
思わず顔を背けてしまう。ただでさえ夏の湿気と温度で暑いのに、これ以上顔をほてらせないでくれ。
念のために言っておくと、見えちゃいけないところは見えていない。本当にギリギリのラインまででとどまっている。そこら辺をミコト様は見極めているのだ。本当になんなんだよこの人は。
それに服がはだけて露出が増えてるだけじゃない。少しじんわりと浮かぶ汗とかそのせいで肌に少し張り付いてる髪とか、それだけでもう目のやり場に困る。
それに寝そべりながら少し小悪魔っぽい、弱ったような笑顔を浮かべていることも相まって–––––––
「・・・きゅう」
俺、思考停止。ドキドキする要素が多すぎるんだ。うん、仕方ないね。ミコト様にはこれから散々弄られるんだろうけど、もうどうにでもなれ。
「ふふっ、あっははは! 本っ当、お前、最高かよ。ふぅ、ありがとな。お陰で少し元気出たわ」
声高らかに笑ったかと思うと、よっと、という掛け声と共に勢いよく立ち上がる。
そして祭殿の外に出ると、ぴょんとジャンプして俺の目の前に飛び降りた。
あれ、なんか元気になりすぎじゃないか?
「おい、もしかしてからかうためだけにあえて暑さにやられてたふりしてたんじゃないよな」
「さぁー? なんのことだ?」
・・・うっわ、白々しいな。なんか妙に棒読みだぞ。
それにしても、からかうためだけによくここまでできるなと常々思うのだが。
「ったく、今までも誰彼構わずそんなことしてたって訳じゃないよな?」
「ったり前だろ? こんな悪ふざけ、よっぽど信頼してる相手じゃねーとする訳ねーだろ」
それは信頼の表れって事か? それがこれじゃ喜んでいいかよくわからないんだが。いや信頼してくれてる事自体は嬉しいんだけど。
てか悪ふざけの自覚あったんですね。
まぁもういいか。早くしないと学校に遅れちまう。
「ったく、じゃあここに今日作ってきたもの置いとくから。入れ物はあとで返してくれ。俺はもう行くわ」
「あーい。わかったよ・・・っと、そうそう。今日の午後ここにこれるか? 話しておきたいことがあんだけど」
話したいこと?
なんだろう。まぁ午後に話を送ってるところを見ると、そこまで緊急の事ではないんだろうけど。
一応期末試験も終わったし、学校自体も午前中に終わるから、それに伴って部活も早く終わるだろうし、大丈夫だろう。
「あー、多分大丈夫。授業終わってるから、部活も早く終わるだろうし」
「わかった。待ってるぜ」
「んじゃ、また後でな」
俺はミコト様に背を向けて、雑木林を出て、自転車にまたがり、漕いで、学校へと向かう。
もうミコト様を初めて視てから3、4ヶ月になるのか。やっぱり時が経つのは早い。
そういえば、俺はいつまでミコト様の眷属であり続けるのだろう?
就職するまで? 還暦まで? それとも死ぬまで?
さっきミコト様は、俺を信頼していると言ってくれた。それは俺も同じだ。まぁ大胆で、神様らしくないところも多々あるけれど、信頼できて、尊敬できて、大切な存在だ。
まだ出会ってから半年も経っていないが、それだけは確かだ。
だから、可能な限りは、彼女が許してくれる限りはそばにいて支えたい。それが眷属としての務めだろうし、それに––––––––
このミコト様との、眷属としての日常が、さっきのような時間が、とても大切に思えるから。
ま、でも、今考えても仕方ないか。今は今やるべきことをしっかりやりきることが大切だろう。未来のことはその次だ。
七月中旬、真夏の暑いある日、俺はそんなくだらないことを考えながら、学校へと向かっていた。
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