第23話 盛夏との和解
「ふー。取り敢えず一件落着、だな」
ミコト様は腰に左手を当てて、右手でぐいっと額を拭う。
それまで俺たちを覆っていたドーム場の瘴気(結界とも言える)はいつの間にやら消え失せていて、俺たちの辺りには人と、喧騒が戻っていた。
ようやく終わったという実感と、それに伴った安堵感が体全身を包む。
「君・・・いや、大麦羅一、少しいいか」
俺の肩をトントンと叩いて、神風さんが声を掛けてくる。
あ、名前で呼んでくれたんだ。今まで「君」としか言われてなかったから。
少し嬉しい。俺のことを認めてくれたということだろうか。いや、それは少し傲慢かな?
「その・・・なんだ。先刻の私が君に言った言葉について、撤回と謝罪をしようと思ってな。すまなかった。失礼を許してほしい」
そう言って、神風さんは俺に対して深々と頭を下げる。
確かにさっきまでの神風さんの言葉はイラッとする時もあったけど・・・。でもこの人が意地悪な人ではないことくらいわかってる。現にこうして謝ってくれているのがその証拠だ。
それに、謝るのはこちらの方だ。
「いいえ、むしろ謝るのはこっちの方だと思います。俺がぼーっとしてたせいで、危険な目に合わせてしまって・・・」
そもそも俺がしっかり前を向いて考え事なんてしてなけりゃあんなピンチはなかったはずだから。
本当にすみませんでした。そう言おうとした時、
「羅一。周り、周り」
突然ミコト様が俺の脇腹を肘でつんつんとこづいてくる。
なんだ? と思って周りを見ると、周りの人が怪訝な目をしてこちらを見ていた。
え、なんでこんな––––––って、あっ!?
も・し・か・し・て、
声出して会話してた?
「声、出てたね」
千歳さんは周りに聞こえないように小声で呟きながらうんうんとうなずいている。
そりゃそうだだってミコト様達のこと周りの人見えてねーもん。側から見たら痛い奴に見られるわなやべえどうしよどうしよあばばばattmwjdt☆2+><$€・・・。
後半のところは気にしないでいただきたい。てか全面的に気にしなくていいけれども。
どうすればいいか分からず、内心では少し取り乱してしまう。いや少しどころじゃねーなこれ。
「ふっ! くっ、あははっ。大麦君っ、少し、面白い。表情に、出てるっ・・・。ふふっ」
千歳さんはツボにハマったらしく、必死に笑いを堪えていた。
ミコト様も見れば後ろを向いて肩を震わせている。笑ってんなチクショウ。
ミコト様にも言われたけど、俺ってやっぱり気持ちが顔に出やすいのかな。
「取り敢えずテレパシー使え。それくらいならお互いに意識を向けあえばできるはずだぜ?」
うん、テレパシーが「それくらい」っていう言葉で片付けられるものなのかについてはこの際突っ込まないでおくわ。
俺は言われた通りに神風さんに意識を向け、ミコト様とそうしていたように、心の中で神風さんに向かって語りかけ始めた。
『・・・すみません。取り乱しました。とにかく、謝るのはこっちの方です。本当にすみませんでした』
よし、やっと言えた。それが言えただけでも、心の重みが少し取れる。
神風さんは俺に詫びを入れられたことが少し意外だった様子で、少し目を見開いていたが、しばらくしてから少し目元に笑みを浮かべて、
「そうか、わかったよ。それは君自身がが片をつけたのだから、それで十分だ」
許してくれた。優しいな。少し誤解してたみたいだ。
なんか、頭の固い人で、(失礼なのはわかってるけど)みたいな印象があったから。
そういえばこの人、今まで意識してなかったから分かりづらかったけど・・・
結構綺麗じゃないだろうか?
大和撫子を思わせる風貌に、少し知的な雰囲気。メガネなんかがよく似合いそうだ。
まぁ、千歳さん程じゃないんだけどさ。そういう面で意識し始めると、不意にドキッとさせられるというか・・・
いや、神様って綺麗な人多いんですかねぇ。 昔の絵巻とかにも美男美女として描かれているものが多い気がする。
やはりこれってそういうことなのか?
・・・いや、そういうことってどういうことだろう。自分で言っといてなんだけど。
「ん? なんだ? 私の魅力に気づいたのか? ふふ、見る目があるじゃないか」
そして結構大胆だなぁこの人! 予想外!
腰を屈めてぐいっと顔を近づけて、上から目線で俺のことを見つめてくる。
そして近い、むっさ近い。やめろドキドキしちまうじゃねーか。
しかもなんかいいおもちゃ見つけた子供みたいな目ぇしてるし! その目やめて! 弄られるのはミコト様だけで十分や!
そうだ、千歳さんのことを考えよう。千歳さん千歳さん千歳さん神風さん・・・
殺せ、いっそ殺してくれよもう。
「むー・・・。なんか癪だなぁ・・・」
で、千歳さんは俺を見て不機嫌丸出しの顔をしている。何故に?
「尊ノ神、少し貴女の気持ちがわかったかもしれません」
「だろ? 羅一のやつ、ホント反応が面白くて、つい弄りたくなっちまうんだよな」
はーい聞こえてますよー貴女達ー。
ったく上司部下揃ってなんなんだよもう。
これからはなるべく気持ちの変化を表情に出さないようにしないと。なんか癪でやってられん。
「ふふ、すまない。とにかく、これからは困ったことがあったら、いつでも頼ってくれ。私も出来るだけ力になろう」
神風さんはそう言って、手を差し伸べてくる。
「ふぅ、わかりました。よろしくお願いします」
そして、俺たちはお互いにがっちり握手を交わした。
これで和解、なのかな? よくわかんないけど。
とにかく頼もしく、愉快な仲間が増えたってことでいいのかな。
手ェ柔らか・・・いじゃなくて。何考えてんだ。
「むうっ・・・! と・に・か・く! 早く行こ。妹さん達探さなきゃ。ほら早くっ」
突然千歳さんが俺の腕を掴んで引っ張ってくる。
ちょっと待って。そんなに強く掴まないで引っ張らないで! 痛い痛いちょっと千歳さん!?
さっきからなんでそんなに不機嫌なのさ?
「羅一、お前って結構鈍感か?」
ミコト様が呆れてるのかなんなのかわからないような顔して聞いてくる。別に普通だと思うけど?
質問の意味がわからずうんうんと心の中で唸っていると、
「あー‼︎ いたぁっ!もうどこいってたのお兄ちゃんっ!」
「おーいたいた。急にいなくなるから心配したんだぞ?」
急にやかましい声が聞こえたと思ったら、右手方向に真衣の姿が見えた。弥勒も一緒だ。
よかった。無事だったんだな。
まぁ色々わからないこともあるけど、こうしてみんな無事だったのは確か。もうそれでいいか。
まだまだ祭りは続く。今からは何も気にせず思い切り楽しめそうだ。そう思うと、少し気持ちがすっ、と軽くなった。
「あーあ、あの猫ちゃん、どこいったのかなぁ」
「真衣、その話はやめてくれ」
「?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます