第18話 祭りを楽しむ中で

「おー、もう来てたのかよ。早いな羅一。」

「そっちこそ。集合時間までまだ1時間くらいあるだろ?」

「少し楽しみだったんでございますよォ。ここに来るのは初めてでしてェ・・・」

「なんか腹立つ敬語だな」

 一先ず弥勒と合流。いつも通り軽口を叩き合う。 ここまで気兼ねなく話せるのってこいつくらいなんだよな。大切にしないとな。この関係。

 というか弥勒一人か、珍しいな。大体いつもこういうイベントの時は何人か、例えば陸上部仲間とか連れて来るはずなんだけど。

「あれ、今日はお前一人だけ? 珍しいな」

「いや、もう一人連れて来てる。喜べ。女子だぞ? 女子なんだぞ? さぁ、反応は⁉︎」

「ほーん。で?」

「いや反応薄ッ!」

 弥勒はオーバーリアクション気味に驚いて、仰け反って見せる。相変わらず元気だなぁ。見てて面白い。

 あ、もしかして、ミコト様から見た俺もこんな感じなのかな。 いや、少し違うか。あっちは俺の素の反応を見て面白がってるって感じだけど、弥勒は意識してこういう反応をしてるから。

 多分、同じ「面白い」でも多少の違いがあるんだろう。上手く言えないけれど。

「そうそう。そういうこった。無理して笑い取ろうとすんなよ? お前の考えたボケつまんねぇんだから」

 ミコト様が横から何やら言ってくる。ちょっと心にグサっと来たんだが。つまんないのか・・・。俺の渾身のボケ。

「あ、大麦君、大殿君。ここにいたんだ。やっほー」

 突然、後ろからとても聞き覚えのある女の子の声が聞こえてくる。

 え、弥勒が呼んだ女子って、まさか、

 そう思って後ろを振り返ると、茅葺色がベースで、花模様の浴衣を着た千歳さんが、そこにいた。

 おぉ・・・絶句。

 なんかすごい。いつもの3割増しくらいで可愛く見える。

 いつもとはまた違った、儚いような雰囲気を醸し出していて、新鮮な気持ちになる。

 ひらりと裾を翻す仕草も、とても可愛らしい。

 俺と弥勒は顔を合わせる。そして、

 ––––––GJ弥勒。いいね。

 ––––––だろ?

 無言で心を通じ合わせた。

「お前らアホなのか?」

 呆れるミコト様。うん。男って多分7割はこんなもんだよ。

 千歳さんはミコト様の方を向くと、にこり、と会釈する。そしてミコトさまもそれに合わせて、軽くお辞儀をした。

 そういえば千歳さんもミコト様が見えるようになったんだよな。

 ちなみに、ミコト様が見えるようになってから、千歳さんは毎日というわけではないが、時折お社の方に顔を出して、掃除とか、供物の調達など、色々と手伝ってくれているのだ。

 それまでは俺一人で全部こなしていたのでとても助かっている。

 千歳さんって、何でもそつなくこなすよなぁ。掃除も俺よりうまいし、料理も美味しいし・・・

 あれ、俺いらないんじゃね?千歳さんいればええやん?

 ・・・うん。この辺でやめとこう。少し悲しくなってきた。

 お互いに無言の挨拶を終えると、千歳さんは俺の方を向いて、浴衣が見えるように腕をこぢんまりと広げた。

「ねぇ、どうかな大麦君。似合って・・・る、かな。」

 そして、少し語尾を貯めて、首を少し傾げて聞いてくる。うぉ、この仕草、わざとじゃないんだよなぁきっと。守ってやりたくなってくる。

 こんなの答えは1つしかない。

「うん。最高に似合ってる。」

 普遍的な答えだな。もっと上手い言葉思いついたはずだろ何やってんだ俺。

「そっか。よかった。」

 そう言って千歳さんはニコリと微笑んだ。

 心なしか上機嫌に見える。

 これでよかった・・・・・のか?

 まぁ喜んでるみたいだしいいか。

「羅一お前・・・いつの間に・・・」

 弥勒が横でなんか言ってる。少しショックを受けてるみたいだ。いつの間にってなんだよ。

「おい、一体何の」

「うるせー嫌味か」

 なんか急に機嫌悪くなった。ナニコレ。

 なんか悪いことしたか? そう思って記憶を辿る。うん。何も思いつかねーぞ。

 しばらくうんうん唸っていると、

「もういいわ。というか早く行こうぜ! 早く楽しみたいし」

 そう言って弥勒は屋台へと向かう。あれ、いいの? 俺まだ何もわかってない・・・

「いいんじゃないかな。大殿君、本気で怒ってるわけじゃないし。早く行こ? 時間がなくなっちゃう。」

 そう言って千歳さんは下駄をカラコロと鳴らして弥勒の方へと向かっていった。

 千歳さんがそういうならまぁそうなのかな?

 取り敢えず、今は祭りを楽しもう。

 今の事とか、ミコト様の元眷属のこととか、一旦隅に置いておいて––––––

 そう自分に言い聞かせ、一歩踏み出したその時、

 ゾクり、と強烈な寒気を感じた。

 この悪寒は–––––妖?

『ミコト様、感じたか?』

「ああ、この人混みの中に紛れてやがるな。妖力も結構強い。最も、この人混みの中じゃ、直ぐには見つけられそうにねぇがな。」

 ミコト様は剣呑な顔つきで話を続ける。

「おそらく、昔盛夏と妖退治してた時に仕留め損ねた妖だろうな。力を貯めてお礼参りに来たんだろうな。思い当たるフシならいくつかあるし」

 仕留め損ねたって・・・何やってんのよ。

 でもまぁ、最初の鬼火の時も仕留め損ねてたってことになるのか。奥にあるやつらに気付いていればあんなことにはならなかったし。

「取り敢えず、お前は祭りを楽しめ。楽しむ中で、妖を探すぞ」

 なかなか難しいこと言いますね、ミコト様。

 でも今はそうせざるを得ない。

 だって今は、

「おーい、羅一。何やってんだー。」

 弥勒たちが近くにいる。千歳さんには迷惑をかけるわけにはいかない。怪しまれるわけにはいかないんだよな。

『わかった。』

 そう一言伝えると、俺は弥勒たちの元へ走った。

 あーあ、せっかくの夏祭りなのに、な。

 正直、そう思わずにはいられなかった。

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