猿田課長の厄日

寿司猫

猿田課長の厄日

俺は猿田浮黃男。35歳。

ある会社の課長を務めているエリートサラリーマンだ。

猿のような髪型と猿顔の見た目のせいで、社員達からモンキーとかお猿とか陰口を叩かれていたが、エリートサラリーマンであり、心の広い俺はそんなもんどうでもよかった。


そんなある日、居酒屋で新入社員の佐藤と酒を飲んでいた。

佐藤はオードリーの春日みたいなワックスで固めた八二分けの髪型をした糸目の若い奴だ。


佐藤「課長って肝っ玉の大きい人って聞いたんですけど、本当ですか?」


猿田「まあな。俺はどんなことが起きてもビビらねえ、肝っ玉の大きい奴なんだよ。だからお化けとか呪いとか全然怖くねえよ。そんなもん見てビビってる奴は俺から見れば腰抜けの間抜け野郎だ」


俺は酒を飲みながら余裕そうな態度で佐藤に言ってやった。


佐藤「凄いっすね。そんだけでかい口叩けるんですから、マジ肝っ玉大きいんですよね?」


猿田「おうよ。肝っ玉の大きいエリートサラリーマンであるこの俺様を「ビビって小便漏らしました」ってもし言わせることができたら一千万やるよ」


佐藤「マジっすか!?」


驚いたような目で俺を見て言う佐藤。


猿田「ああ、マジだよ。この前スクラッチくじで1等当てたからな。その1等の一千万、やるよ」


酒に酔いながら佐藤に告げる。

それを聞いた佐藤は何かニヤニヤ笑っていた。

こいつ何か悪巧みしてやがるな?

まさか今の話信じて本当にビビらせようと企んでんじゃねえだろうな?

まあ、今の話は本当だけど。

肝っ玉大きいし、マジで1等当たったからな。

ま、こいつが何企んでようが、エリートサラリーマンである俺様は絶対にビビらねえ。


佐藤「今の話、マジと受け止めましたからね?もし言わせることができたら絶対一千万下さいよ?」


猿田「いいぜ?絶対にやるよ一千万。もしやらなかったら切腹してやるよ。ヒック」


しゃっくりを出しながらそう告げてやった。


そして数日後。

佐藤から飲みにいきませんか?と誘われ、仕事が終わった夜に居酒屋に寄った。


猿田「珍しいな?お前から誘うなんて?」


佐藤「いやあ、課長にはいつもお世話になってますから。今日は私が奢りますのでじゃんじゃん飲んで下さい」


そう言って酒を注ぐ佐藤。


猿田「んじゃありがたく頂くぜ?」


そのまま俺は注がれる酒をグビグビ飲んでいった。


猿田「ふう…そろそろ帰るか。ヒック」


酔っ払いながら佐藤に勘定を済ませ居酒屋を出る。

その時、ヤクザ風の三人組みの1人が俺の肩にわざとぶつかってきた。


ヤクザA「おう、待てや猿。人にぶつかっといて詫び一つないんかい?」


わざとぶつかってきたパンチパーマにグラサンをかけた、いかにもその筋の方が俺の肩をガシッと掴んできた。


猿田「ん?何だよ?そっちからぶつかってきたんだろ?ヒック」


酔っ払いながらそのヤクザに言う。


ヤクザA「あ?ワレ、舐めとんか?」


胸ぐらを掴んできて、ドス(短刀)を俺の顔面に突きつけてきた!


それを見て一気に酔いが覚める!


猿田「も、申し訳ありません…ど、どうかお許しを…」


恐怖でガタガタ足を震わせながら謝る。


ヤクザB「許して欲しかったらちょっと俺らと付き合えや」


猿田「わ、私がですか?」


ヤクザC「そうや。ワレしかおらんやろ、猿」


そう言われて辺りを見渡すと、佐藤がいつの間にか消えていた!


あの野郎!上司の俺を置いて逃げやがったな!


ヤクザA「おら、さっさと来いや」


そのまま俺はヤクザ達に路地裏の奥まで連れていかれた。


路地裏の奥に連れていかれた俺はヤクザ三人に囲まれた。


猿田「すみません!どうかお許し下さい!」


必死に土下座して謝る。


ヤクザA「財布出せや。持っとるやろ?」


猿田「さ、財布でございますか?」


ヤクザB「そうや。はよ出さんかい」


ドスを俺の首に突き付けるヤクザ!


猿田「は、はい!」


恐怖でガタガタ震える手で俺は財布をヤクザに渡す。


な、なんてツイてない日なんだ…

正に厄日だ…


そう思いながらヤクザを見てると、ヤクザは俺の財布から数枚の一万円札を抜き取り、更に俺の名刺を抜いてそれを見ていた。


ヤクザA「なんやワレ、課長かい?」


猿田「は、はい…課長でございます…」


ヤクザA「おう、課長さんよ。どないしてくれるんや?俺の肩、ワレがぶつかったせいで折れとるかもしれへんわ」


猿田「そ、それは大変申し訳ございませんでした…な、何でもしますので、どうかお許しを!」


土下座したまま地面に頭を擦り付けながら必死に謝る。


ヤクザA「何でもする言うたな?ほんまやろな?」


猿田「は、はい!何でもしますから!」


ヤクザA「ほな、美空ひばりの歌、歌えや」


美空ひばり?そんな大昔の歌手の歌なんて…


猿田「み、美空ひばりの歌ですか?」


ヤクザA「そうや。川の流れのようにって言う歌や。知っとるやろ?」


猿田「も、申し訳ありませんが…ちょっと古い歌手の歌は…。できればモーニング娘のLOVEマシーンの方に代えて頂きませんでしょうか?それなら歌えますんで…」


ヤクザA「ええから美空ひばりの川の流れのようにを歌えや」


胸ぐらを掴みながらドスを俺の首に突き付けて睨むヤクザ!


猿田「す、すみません!美空ひばりの歌知らないんです!勘弁して下さい!」


ヤクザA「じゃかましい!はよ歌えや!」


ドスの利いた声を上げながら殺すような目で俺を見るヤクザ!


この時俺は既に完全にビビって小便を漏らしていた。


猿田「すみません!本当に知らないんです!勘弁して下さい!」


半泣きになりながらそう叫ぶ。


ヤクザA「その様子を見る限りほんまに知らんようやな?ほな、歌を歌わすのは止めといたるわ。その代わり、服脱いでパンツ一枚になれや」


猿田「ぱ、パンツ一枚ですか?」

 

ヤクザB「聞こえたやろ!はよ脱げや!猿!」


猿田「わ、わかりました!」


俺はビビって小便漏らしたままガタガタ震えながら言われた通り服を脱いでパンツ一枚の姿になる。


猿田「こ、これでよろしいでしょうか?」


パンツ一枚の姿になったままヤクザに土下座して言う。


ヤクザA「ん?なんやワレ、小便漏らしとるやないかい」


俺の濡れたパンツを見ながらヤクザがニヤリと笑う。


ヤクザC「ビビって小便漏らしたんやろ?ちゃうんか?」


猿田「ウ…ウキ…」


あまりに怖くてビビって言葉が上手く出なくなる。


ヤクザA「ビビったんやろ、猿?大声で「ビビって小便漏らしました」って言えや」


猿田「ウ…ウキ…ウキ」


ヤクザB「ウキウキやないやろ?はよ言わんかい」


ウ…ウキ…は、早く言わないと…


ヤクザA「はよ言わんかい!ワレ殺すぞ!」


殺しそうな勢いでそう怒鳴ってきた!


言わないと殺される!


猿田「び、ビビって小便漏らしましたあ!」


泣きながら俺は大声でそう叫んだ!


ヤクザ達「よっしゃあ!言わせたで!」


俺が言われた通り大声でそう叫んだ瞬間に、ヤクザ達はガッツポーズする。


な、なんだ?どうなって…


ぽかんとする俺。


ヤクザA「おーい!兄ちゃん!言わせたで!」

 

ヤクザがある方向を向いてそう叫んだので、ヤクザが向いた方に振り向くと、佐藤がニヤニヤ笑ってビデオカメラを回しながらやって来るのが見えた!


ヤクザA「兄ちゃん、約束通り言わせたで」


佐藤「ご苦労様でした。これ、約束の100万円です」


そう言って封筒をヤクザ達に渡した。


ヤクザ達「確かにもろたで。ほな、俺らはこれでな」


そう言ってヤクザ達は去っていった。


ど、どうなってんだ?


ぽかんとする俺の前にビデオカメラを持った佐藤が立った。


佐藤「バッチリ撮りましたからね?言い逃れできませんよ?」


猿田「ど、どういうことだ?」


佐藤「課長、あの時言いましたよね?ビビって小便漏らしましたって言わせることができたら一千万やると。だから私はヤクザさん達に100万円払うから課長をそう言わせるよう頼んだんです」


それを聞いた瞬間、俺はキレて佐藤の胸ぐらを掴んだ!


猿田「佐藤、てめえ!仕組みやがったな!上司の俺にこんなことしてただで済むと思ってんのか!?」


佐藤「でも課長、ビビって小便漏らしましたって言ったでしょう?一千万下さいよ?」


猿田「ふざけんな!あんなもん酒に酔った勢いで言った嘘に決まってんだろ!?お前、それ位わかんねえのか!?アホか!?」


佐藤「え!?嘘だったんですか!?じゃあ切腹するのも嘘ですか!?」


猿田「当たり前だ!この間抜け!」


そう怒鳴ってビデオカメラを奪う。


佐藤「な、なにを!?」

 

猿田「ウッキー!」


ビデオカメラを地面におもいっきり叩き付けて壊す!


佐藤「わ、私の大切なビデオカメラが…。課長、ちゃんと弁償して下さいよ?」

 

猿田「ウキィ!死んどけ!」


佐藤をおもいっきりぶん殴る!


この糞野郎が…あの話を信じて、しかもヤクザに頼んで俺をビビらせやがって…。おかげで小便漏らしちまったじゃねえか。


小便漏らしたの小学生以来だぜ、全く…


俺にぶん殴られて倒れて伸びている佐藤を無視して俺は脱いだ服を着替える。


こいつ(佐藤)は後でクビにしてやる。


はあ…本当に今日は厄日だ。


そう思って俺は帰っていった。


猿田課長の厄日ー(完)

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