☆ 休暇先にて(一月五日) ☆

【第五話 乗り遅れのセブンゴッデス】

 七福神を乗せた宝船が空を飛んでいる。その素材は木のように見えるが、敵の砲撃を受けても傷跡一つ残っていない。シールドと呼ばれる神の気まぐれで護られているからだろう。敵は宇宙のどこかで勢力を張っている知的生命体だった。どちらかと言えば、力で捩じ伏せるタイプではなく策略で相手を貶める頭脳派集団というのがイメージに合っている。


「レーダーが攻撃を検知したぞ! 今度はトレジャーフラッグを狙ってきてる!」

「ワァット? そこはいかん! フラッグを撃ち抜かれたら、船のボディを覆っているシールドが消えるぞ!」


 なるほど。どんなに頑丈な防御を持ってしても、ある部分を突かれたら終わっちまう弱点ってあるもんだよな。さぁ、この攻撃をどう迎える?


「私がフラッグへの攻撃を止める! みんなは、その間にビシャモンテンを連れて船から脱出して! 彼が最後の希望なのよ!」

「何を言ってるんだ、ベンザイテン? そんな事をしたら、君が死んでしまうじゃないか。君こそ我らの光だ! 光が閉ざされたら、地球が終わってしまうよ!」


 ふむ、弁財天が体を張るのか。まぁ今まで一番目立っていた毘沙門天を除けば、他の奴らは神とは言っても脇役のようなもんだからな。紅一点が目立った方が、色々と面白いのは確かだ。主役のグレゴリオ=ペックンが演じている毘沙門天は、つい二十分ほど前から敵の毒薬を飲んでしまい意識を失っている。約二時間ちょっとの放映時間で、メイン格が二十分以上も目を瞑ったままってどうよ?


「ベンザイテーン!」

「シイィット! マイガーッ! 神よ……何故、我らに悪戯ばかりするんだ!」


 お前らが神じゃないのかよ? というツッコミは心の隅っこに置いておこう。

 遅ればせながら、俺は今話題の映画『ザ・セブンゴッデス ―破壊寸前の宝船―』を観ている。右に元妻の杏奈、左に娘の萌奈美を添えてな。昨日、杏奈に渡された弁財天の木彫り人形に対する「お願い」を遂行してるところだ。


 人知れず地球を守る七人の神々が、その旗艦『トレジャートローブ』に乗り、銀河系から侵略してくる地球外生命体とドンパチを繰り返すストーリー。ハリウッドが実写化した七福神は、どことなくアメコミのヒーローたちにも似ていて、日本を連想させるようなパーツがゼロだった。まぁ、全米を震撼させ、感動の渦に包み、泣かせるには、これくらいベタベタにアメリカナイズした方がウケも良いんだろうよ。


「見ろ! まだ生きてるぞ! おいらがベンザイテンのサポートに行く!」

「待て、ダイコクテン! 罠かもしれんぞ、引きかえ……あぁ!」

「オン・ベイシラ・マンガヤ・ソバカ!」


 おいっ! その真言は毘沙門天だぞ! 大黒天のじゃねぇし! しかも、微妙に言葉が違う……漫画屋とか蕎麦とか言わないから! 台詞合わせの時とかで、指摘が出たりしなかったのが不思議でならない。どうせハリウッドの奴らは、真言なんて誰も意識して聞いちゃいないだろうって思ってるんだろうな。それでも、スクリーンの中で跳び上がった大黒天は、見事な剣捌きで敵の砲撃を払い落している。この様子なら「宝」マークの旗を撃ち抜かれる事なく、虫の息となった弁財天も助け出す事ができそうだ。


 それはそうと、残念ながら昨日の夕方以降は、祥子さんの所へ行く展開にはならなかった。体調不良を訴えた祥子さんに「大丈夫ですか? なんなら今から様子をうかがいに……」と言いかけたのだが、すかさず「大丈夫です! 一日寝れば良くなると思います。ありがとうございます!」と返されてしまった。祥子さんだって「しもしも?」って好意的に反応してくれてたんだから、ちょっとは期待しちゃってもイイのかなと思うのは男の性なんだろうか? まぁ、いくら大好きな毘沙門天でも、さすがに会って数日しかたってない相手に、いきなり家まで押しかけられちゃあ困るか。


「オラオラオラオラオラァ! はんっ、お前らの攻撃はその程度か? 今度は、おいらからいくぜっ! オン・ベイシラ・マンガヤ・ソバカ!」


 明日からの三連休を使って、残りの七福神の人形をゲットしに行こうと予定していた計画も、ひとまずは祥子さんの体調を考慮して延期という流れになった。早いとこ調子が戻ってきたら、連休中の一日くらいは計画の一部だって実行できるかもしれない。祥子さんも「一日寝れば良くなる」って言ってたしね。そこは無理してもしょうがないから、のんびり構えて待とうと思う。既に弁財天の人形も手に入れてるし、気持ちに余裕があるというのはイイもんだ。


 なんだかんだで、昨日の毘沙門堂で見つけた宝船のカラクリと、杏奈から渡された弁財天の人形の件は、すっかり言いそびれて電話を切ってしまったけれど……後で報告すればいいだろう。


「ナウ! わしらも援護するんじゃ! ダイコクテンばかりに、ええ格好はさせんぞい。ヌオオオォォォォ!」

「無理するなよジュロウジン。老いたわしらは、下手に動くと足手まといじゃ」

「たわけっ! 何をぬかすか! ここでシニアパワーを見せずして、いつ見せるというのじゃ? 老いとるのは、お主だけじゃよ。フクロク……ぐはっ!」

「ほぅれ、みろ……言わんこっちゃない」


 この老人たちは、完全にお笑い担当だよな。迫力あるバトルシーンに、お笑い要素のアクセントが入ってるのは面白い。映画っていうのは、子供も大人も笑って観れるのが一番だ。


 それにしても、眠ったまんまの毘沙門天は、いつになったら起きるんだ? 俺にも流れているヒーローの血が「もどかしい」と疼いている。そろそろ起きて、ブイブイ言わして欲しいもんだよ――。



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