第23話「老化阻止作戦」
素早いとはいえ俺の足ほどではない、青い影を追いかけるとすぐに追いきそうだった。スモークのせいで、相手は俺に気づいていない。
しかしすぐさま攻撃をするには問題があって躊躇する。
俺自身は敵が何なのかわからないのだ。
逃げる敵とそれを追いかける俺の距離はもうほとんどない、もはや手を伸ばせば届く位置だが、俺は攻撃をするのをためらっていた。ただの一般人だったらどうしよう。
そのとき、後方から叫び声が聞こえてきた。
「何をやってるにゃ!!、においはそいつから出てるにゃ、間違いにゃいにゃ!やれーっ、アルフー!」
その声のせいで前を走る影も俺の方を振り返った。視界が悪いとはいえ、この至近距離ならば気づかれるに決まってる。
そして敵が振り返ると同時に、俺もロアの声の勢いのままに、手をドリルに変えて敵の体に背中から突き刺した。
「ぐああぁぁぁっ!」
うめき声をあげる青い影。いやもう青い影ではない、そこにはうめき声をあげながらその場で崩れ落ちる老人の姿があった。そして、いくらレベル1の攻撃とはいえ、ドリルで即死しないところ見ると、やはりこいつがスキルゼーレを持つ敵なのだろう。
「悪いがこの場で死んでもらう、お前のスキルゼーレが俺たちには必要なんだ」
そういって、俺はドリルの攻撃を続ける。肉片が飛び散って相変わらず不快な思いはするが、さすがにもう慣れた。
それにこいつは罪深い、こちらとしても遠慮する必要はない、おそらくここ最近の老人の徘徊事件の原因もこいつなのだろう。目的はなんだかわからないが、スキルゼーレの力で多くの人間を老化させたのだ、ロアンヌやルマンドのように。
――それにしてもなぜ、こいつはなんの反撃もしないのか。老化させる力に特化して、物理的な攻撃力は皆無ということなのだろうか。と思ったその時、すでに誤算は起きていた。
すでに俺の体の老化が始まっていた……。
ドリルの回転速度が落ち、そしてHPが減少していく。見る見るうちに肌のツヤがなくなっていくのがわかる。
しまった、俺はなんて馬鹿だ。ロアは触れられた瞬間に老化が始まったといっていた……、あろうことか俺は自ら敵の体に触りにいってしまっていたのだ。そりゃあ相手が攻撃をしかける必要はない。ほおっておけば相手は勝手に弱るのだ、このままでは死ぬよりつらく、3人は老化したまま冒険を続けなければならない。
膝をつきうなだれる老人は、ドリルを突き刺したままの俺の方を見てにやりと笑う。心なしか、先ほどより少し若返ったように見える。
そして、俺はとうとうドリルをまわす手を相手の体から引き抜いた。ドリルをまわす腕を維持する筋肉がなくなってしまったからだ。
残りHPは推定で2、どうやら老化によって即死することはないようだ。
もし相手が俺を一発殴ればそれで、俺は死ぬ。しかしそれを相手がやる気配はない、何を考えてるかわからないが、一瞬の膠着が二人の間に訪れた。仕方ない、何の意味があるかわからないが、最後まであがいてやるぜ。
「エナジードレイン!」
俺は何のアクションも起こさない目の前の老人の首もとに思い切りかみついた。幸いエナジードレインはかみつくことさえできれば、MPを消費しない技だ。老人にかみつくなんてそんな不敬で気持ちが悪いことをもちろんやりたくはなかったが、しょうがない。
「――あああぁぁっっっ」と老人はうめき声をあげて、おとなしく俺にエネルギーを吸われていった。もともと35しかない俺のHPだったが、徐々に回復されていく、いや回復されたそばから老化で削られていくので本当に微増であるが。
しかし予想外のことがおきた、それはHPが微増しかしなかったことではなく目の前に起きた老人の変化である。
老人は俺にエネルギーを奪われることで、なんと逆に若返っていった。
「いったい何が!?」
俺は思わず声を上げた。
見る見るうちに老人は若返っていく、「ああああぁぁ」といううめき声も若い声へと変わっていった。
『そのままエナジードレインを続ければ、完全にスキルゼーレを奪うことができそうだ、僕もこんな効果があるとは知らなかったけど、よくやってくれたよアルフ』
頭の中にブルボンの声が聞こえて来た、話しかけられるならもっと早くヒントなりを与えやがれと思う。
『そんなこと言っても僕にも予想外の結果なんだよ、とにかくそのまま行くんだ。……あぁでも結局彼のことは殺さないと、ルミィたちは元に戻らないからね、スキルゼーレはそれを使った人間が死なない限りはかけた効果はなくならないんだ』
ちっ、殺さずに済むかもと思ったのにな。
若返るこいつの姿を見て俺にもわかってしまった、こいつはロアと同じで運悪くスキルゼーレを手に入れてしまったに過ぎないんだ。
そしてスキルゼーレの効果で自らも老人となり、さらには意識を失い手当たり次第に、周囲の人間を老化させ始めたと、そんなところなのだろう。
なので、できれば殺したくない。しかし殺さなければ、みなの姿は老人のままだ……。ブルボンはなんてつらい選択を俺にさせようとしてるんだ。
俺が葛藤していると、目の前の老人、いや少年(十二、三才だろうか)が口を動かし始めた。
「……あ、あの……僕は一体何を……」
なんと少年は意識を取り戻したようだ。俺はエナジードレインをやめ、かみつかせていた口を首もとから離した。ぐったりとした様子で少年は倒れこみ、俺に身を預けてきた。
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