第21話「異変」

 約束の時間にルミィの部屋に戻るも、二人は1時間待っても帰ってこなかった。

 嫌な予感が的中だろうか。

 念のためにもう1時間待ったが帰ってこない。これはロアンヌの仮住まいに向かった二人が、そこに待ち構える何らかのモンスターに捕まってしまったか、あるいは殺されたのかもしれないということだ。

 もちろん推測に過ぎないのだが……。


 殺された場合は逆にラッキーだ、何らかの形で俺が自殺すれば、白い空間からやり直せる。最悪の場合は、捕まってる場合だ。

 この場合、俺が自殺を選ぶと、二人は誰にも助けられないまま、時が過ぎることになる。そうなるとそのまま世界が滅亡ということだろう。杞憂ではあるが、最悪その可能性がある以上、安易に自殺することはできない。


 仕方ない単身で海沿いの漁師の小屋に向かうしかないか。最悪二人の死を確認できるだけでもいい。

 すっかり日が暮れてしまったが、おれは部屋の外にでた。ランプを片手に、海岸沿いを小屋の方向に向かって歩いていく。20分くらい歩いたところで遠くに小屋らしき影を確認することができた。


「おそらくあれだな」

 月明りでもかろうじて、足元の視界が確保できるので、俺はランプを消した。月明かりがあるとは言ってもあたりは非常に暗くて怖い、恐る恐る俺はゆっくりと小屋に近づいていった。

 よしここまでくれば射程範囲だ。

「エコロケーション」

 俺はスキルを使って、小屋の中を探ることにした。


 俺の視界には、小屋の中に一人の髪の長い人間が横たわっているのが青い影となって映った。どうやらこちらには気づいていない。まったく動きがないところを見ると眠っているようだな。

 ほかに影はないどうやら一人か。少なくとも、ルミィたちが捕まってるということはないようだ。

 どうする、自殺するか……。まあ、どうせ死ぬなら一度戦って相手の様子をうかがってからでもいいか、もっとも中にいるのが敵だと決まったわけでもないが。


 眠ってることに安心して、ゆっくり小屋の扉を開ける。ロアンヌの二の轍を踏まないように今回は、剣を突き付けながら起こすのではなく、寝てるうちにオイルをぶっかけようと思う。

 俺は少しずつ反省をしてるな。


 ゆっくり部屋に入っていく、いかんな暗くて見えない。エコロケーションで相手の位置は把握できてるので、気づかれないように少しずつ対象の衣服にオイルを振りかける。

 怖いなあ……、突然気づかれて襲われたらどうしようか。ひやひやしながらも、全身んとそれと周辺の床にオイルを浸すことに成功した。

 さすがに敵かどうかわからない相手を燃やすわけにもいかないので、一応起こして確認するか。

 そうおもってランプに火をともして相手の顔を確認する。


 ――!?

 なんだ、頭に猫耳が生えてる。まさか、ロアンヌか?


 そう思って眠ってる顔をよく見てみるが、どことなく似てる気もするが全く違う人間だった。何というかかなりのおばあちゃんだ、70歳はゆうに超えてるであろう。

 うーんてっきり敵だと思ったけど、どうやら最近増えている浮浪者の老人が寝床を求めてこの家に来ただけか、オイルをぶっかけたりして悪いことをしてしまった。起こして謝るとしよう。


「おばあちゃん、起きてください」

 俺は、ゆっくり肩をゆすり目の前で眠りこけてるおばあちゃんを起こす。万が一敵だった場合に備えて、いつでも目の前にランプを投げつける用意はできている。


「にゃにゃにゃ……、んっ!?」

「おばあちゃんここは危険なので出ましょう。安全な場所を紹介しますので」

 許可を得たわけではないが一時的にルミィの部屋を案内するか。

 

 ゆっくりおばあちゃんは体を起こす。敵対行動を示す感じじゃないのでやはり敵ではないのか?

 おばあちゃんはジーっとこちらの顔を見つめる。

「にゃー、アルフさんおはようございます。あれロアは今どうなってるんですにゃ?」

 ん、ロアだと?いまこのばばぁ自分をロアとか言いやがったか。確かに猫耳だし喋りもロアっぽいが完全に顔はおばあちゃんだ、ロアとは似ても似つかない……。


「いま、君は自分のことをロアって言ったか?」

「そ、そうですけど、どうしたんですにゃ、アルフさん。……んなんかわたしすごい油くさいんですけど何かしましたか?」

 そりゃあ、油まみれにしたから当然なんだが、なんだ、ほんとうにロアンヌなのか。何とかして確認を取りたいが……そ、そうだ。


「女神、女神の名前がなんだかわかるか?」

「にゃにゃ? ブルボンさんですよね、そんなすぐに忘れませんよ」

 ブルボンの名前が分かるやつが俺ら以外にいるとは思えない。猫耳といいどうやらほんとうにロアンヌのようだ。


「ロアンヌ、君の身に何が起きてるかわかってるか?」

 ロアの体は完全に老化している、顔の老化はもちろん髪は白髪になり、あの自慢だった美脚もしわしわになっている。

 ロアは自分の手のひらを見つめ、そして髪の毛を触りながら何かを確認していた。


「……思い出しました、私、私たち、この小屋にいた人間に襲われたんです。小屋のおじいちゃんに声をかけると、突然おじいちゃんは私に手をふれて、そして見る見るうちに私の体は衰えていきました。力がどんどん抜けていって、それを食い止めるためにルミィさんが私を突き飛ばしたんですけど……。そこまでしか覚えてません。気づいたらいま、アルフさんに起こされましたにゃ」

 ル、ルミィは大丈夫なのか……話を聞く限り、相手を老化させる能力を身につけた敵にルミィたちは遭遇したということか。そんな奴が普通に存在するわけがない、間違いなくスキルゼーレの持ち主であろう。


「何とか探し出さないと、敵の特徴を何か覚えてないか」

 ルミィの無事が気になる……いっそ死んでるならいいのだが、もしロアと同じ状態ならば、俺らが死んだ場合実質、詰みの状態になる。一刻も早く対策をたてる必要がある。

「大丈夫です、この状態でもネコ化すれば、ルミィさんのにおいはたどれると思います、戦闘には全く役に立てないと思いますけどにゃ」

 では早速ルミィを助けに行くとしよう。

 

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