第20話「オギルビーで一杯」

 海辺沿いのいい街だなと思って一人オギルビーを歩いていたが、浮浪者と言えばいいのだろうか、背の低い老人たちが多数徘徊しているのが目についた。ファウラーではそういう人たちはいない。うちの親方など金持ってる人たちが積極的に、貧しい人たちを支えるシステムができてるからだ。

 そういえば、ロアンヌも盗みで生計を立ててるわけだし、見た目の華やかさとは別に、あまり人にやさしい街とは言えないのかもしれないな。


 ルミィの家から歩いて10分ほどで大通りらしき場所についた。ファウラーと違って人通りも店も多い。荷車が多いのも目に付く、さすがに国唯一の港町だけあって、大きな荷物を抱えた人や馬車が多数往来している。

 

 こう店が多いと、子供の失踪事件を調べるといったって、どこに行けばいいか見当がつかないな。通りにはあらゆる種類の商店が並び、武器屋だけでもすでに歩いてきただけで3店舗はあるし。


 露店で飲食を売る人たちも多い、そういえばおなかがすいた、人の入りの多そうな酒場があったからそこで食事がてら、話でも聞いてみるか。やってみたかったんだよ、昼間から酒を飲むという暴挙を。ファウラーでは、親方に怒られるのでできなかったからな。そして、オギ酒場という店に入った。



――――いい感じで酔っぱらってきた。最初は一杯のつもりだったが、つまみに頼んだ魚の刺身とか、焼き物がおいしすぎる。肉料理中心のファウラーではほとんど食べられないものばかり、いいなあこの街。


「よう兄ちゃん、昼間から一人酒とは寂しいな」

 しばらくすると隣で飲んでいたおっさんが話しかけてきた。まああんたも昼間から一人で酒を飲んでるじゃないかと思ったが、突っ込みはしない。まあでもこの街に人と話をするいい機会だ。


「俺、ファウラーの人間なんすよ。で、たまたまこっちいるんで、せっかくだから、おいしいものを食べようと思ったんす」

「おお!ファウラーかい? 俺も20年前まではファウラーにいたよ。いやあ同郷じゃねえか。ビットさんは元気にしてるかい?」

 ビットさん……?聞いたことある名前だな。

 あぁ、そうか。


「ああ花火の親方っすか。元気も何も俺はあの人のもとで働かせてもらってます」

 そうビットさんとは親方のことである。ファウラーの街では有名なのだ、次期市長候補ともいわれてるしな。

「おお、おれもあの花火工場で働いてたんだがな。まあいろいろあって今はこっちで漁師やってんのよ。せっかくの出会いだ、俺から一杯おごらせてもらうぜ」

 そういってこのおっさんは、給仕をよんで何かを頼んだ。まずいなあこれ以上飲んだらルミィたちに酒飲んでたことがばれてしまうのに、とはいえ断れないしな。


「ファウラーとオギルビーに乾杯!」

 運ばれてきたビールで改めて乾杯をした。おっさんと俺は、おもに親方の今の話と昔話で盛り上がった。まさか親方とおかみさんの間の恋愛がそんなに熱いものだとは思わなかったなあ。

 いかんいかん、本題を忘れるところであった。


「ところで、最近この辺で子供の失踪が相次いでるって本当ですか」

 おっさんはすでにかなり顔を赤くしてるがまともに答えてくれるだろうか。

「ああ、よく聞くぜ。子供って言っても13,14位のやつが中心だけどな。ちょっとやんちゃして夜遊びしたやつが家に帰ってこないって話だ。まあ、昔からよくある話さ、ここ1週間で急に数が増えたってだけでよ」

 付け加えて、おっさんは「二週間もすれば帰ってくんだろ」と言った。まあ俺もそれに激しく同意する、大方悪い仲間とつるんで遊んでるだけだろう。


「それにしても、この街は浮浪者が多いんすね。ファウラーにはああいうのはいないんで、少し寂しいっす、ああいうの見ちゃうと」

 大通りではさすがに見なかったが、街のいたるところで路上生活者が目についた。


「いや、まあ、なんか最近増えただけだよ。昔からいないわけじゃなかったが、これまた一週間位前から急に増え始めたな。苦情も増えてきたんで最近市も動き始めたってことなんだけどな」

 すると、つまみに魚の皮を上げたものを持ってきた給仕の女性が口をはさんできた。

「あら、こっちでもその話? なんかあの浮浪者たちは、突然家に入り込んで、居座ろうとするんですって、無理やり追い返しても、家の周辺をウロチョロするとか……。怖いわねえ」

「まじかい、そりゃあおれんちも気をつけねえとな。うちのおっかあはお人よしだから、そういうの家にいれちゃいそうだからな」

 がはは、といいながら、魚の揚げ物を口にほうばるおっさん、どうやら奥さんがいるらしい。


「子供の失踪事件についてはなんか知らないすか?」

 俺は、おしゃべりそうな給仕のお姉ちゃんが他のテーブルに向かう前に引き留めた。

「そうねえ、確かに数が多いかもね。しかもそういう子たちって大概大勢でうちの店とかにたむろしてたりするんだけど、最近そういうのは見ないわね、ひょっとして誘拐事件なのかもね」

 そういってお姉さんは他のテーブルに呼ばれ行ってしまった。出来れば誘拐事件などでない方がありがたいが、ましてや、スキルゼーレ関連じゃないことを祈るぞ。


「なんだ、兄ちゃん、失踪事件を調べてる警察か何かなのかい」

「警察ではないっすよ、友達の弟も行方不明らしくて」

「……ああそりゃあ、大変だな。俺の聞いた話じゃ、海岸ぞいに今は使われなくなった漁師のボロ屋があってよ。そこでちょっとエッチなことをしに行ったようなカップルが最近帰ってこないって話だ……。気になるなら行ってみたらどうだい?」

 

 海岸線の漁師のボロ屋だって?

 それって、もしかしてさっきロアンヌから聞いた、弟たちが仮の住処にしてる場所じゃないのか?

 なんだかとても嫌な予感がした……。

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