第18話「ロアンヌ」

 今回もまたいつもの白い空間にいた。

 しかし今回は全滅したからではない、無事に猫女を倒すことに成功したからである。


「あの、ロアは一体にゃにをしてたんでしょうにゃ?」

 俺たちに倒された猫女は名前をロアンヌと言った。目覚めた彼女は状況を全く把握できていないようだった。

 

 彼女を倒した作戦は単純てある。イヌハッカを集めて地上に置いておく。そして、それを取りに来た猫女を地中に引きずり込んで窒息させるというこの冒険のお決まりのパターンである。

 さすがに仲間になる予定の人間を、ドリルで貫くのも、燃やすのも気が引けるので今回は窒息させる作戦を選んだ。まあ、窒息させるのもどうだろうという話ではあるのだが。


 そしてまんまと、イヌハッカに引き寄せられたロアンヌは地中のルミィに引きずり込まれ、抵抗する手をもなく、あえなく地中で窒息死した。今回はルミィの息が持ったので、ルミィは死なずに済んだ。

 ルミィが地中で待つ間の息は、筒状の棒を地中から地上へ突き出すことで解決した。女の子にこんなみっともないことばかりさせて申し訳ないのだが、しかし他に作戦がないのだから仕方ない。


 ルミィが死ななかったのはいいのだが、結局ロアンヌも仲間であるので、彼女が生き返るまで、俺とルミィは丸一日白い空間で待たされることになってしまった。この時間が冒険の中で最も苦痛である。


 そしてやっと目覚めたロアンヌの前に封印の女神ことフルボンが姿を現した。


「やあ、初めましてロアンヌ、僕は封印の女神ブルボンだ。君は勝手ながら選ばれし戦士になってしまった。これからよろしく頼むね」

 めざめたロアンヌにブルボンは唐突に自己紹介を始める、ほんとうに勝手すぎてその説明で分かってもらえると思ってるのだろうか。


「あ、あのいったい、にゃんだかわからにゃいんだけど、ロアの身ににゃにがあったにょ?にゃんだかうまくしゃべれにゃいし……。」

 どうやら、「な」がぜんぶ「にゃ」になってしまっている。

 

 俺とルマンドは猫女ことロアンヌに起きたことと、いまどういう状況に置かれているのかを説明した。


「しゃべり方と、その猫耳はスキルゼーレを手に入れた後遺症だね。しゃべり方はそのうち落ち着くと思うけど、猫耳は女神の恩恵がある間、つまりは魔王を封じるまではそのままだと思ってほしい」

 女神ブルボンはスキルゼーレを、女神の恩恵のない状態で手に入れてしまうと、正常な意識を奪われ、体に変調を起こすのだと説明した。

 ロアンヌは女神の恩恵を受ける前に、つまりブルボンに出会う前に不幸にもスキルゼーレを手に入れてしまった。

 盗みを家業とする彼女は、たまたま旅人から盗んだ宝石を気にいって身につけていた。そして気が付いたら意識を失ってしまったのだという。


「それじゃあ、ロアが元に戻るためには、どうやってもブルボンさんにしたがわにゃきゃいけないんだということにゃの? あぁ、もうネコ語がじゃまにゃ!」

 まあそういうことだが、別に猫耳はかわいいからいいじゃないかとも思う。ネコ言葉は大変めんどくさそうだが……。つまり、ロアンヌはもともと猫耳をつけていたわけではなく、スキルゼーレの影響でこうなってしまったということなのだな。


「そうだね、魔王を封じるまではそのネコ化の影響は残り続ける。もっとも魔王を封じなければ人はみな滅びるからそれどころじゃにゃいけどね」

 なぜかブルボンまでつられて猫語ににゃっていた。むむ、俺まで影響が……。


「……仕方にゃいか。まあロアは食事さえちゃんともらえれば文句にゃいよ。──ただ、条件があるにゃ。あの海沿いの部屋を貸してくれにゃいかしら、弟たちをあそこに住ませたいにゃ」

 海沿いの家はルミィの家ということか、それはまあルミィ次第だが。


「ああ、私の家ですか。……そうですねどうせしばらくは、はにゃれるわけですし、大切に使っていただけるのであれば、むしろ、是非住んでほしいです。」

 なんだか順調に猫語が伝染してるが、なんて心が広いんだルミィ。


「――ほ、ほんとうかにゃ。私たち兄弟はずっと住むところもにゃく、苦しい生活をしてきたのだ。助かるにゃ、そうと分かれば私もぜひルミィさんのために一緒に戦うにゃ!」

 おお、何気に辛い人生を送ってきたんだなロアンヌは。そりゃあこの若さで盗みをするくらいだから楽じゃないのはわかり切ってるけど。弟思いのいい子じゃないか。


「あのできれば、盗みをさせないでくださいね。よければ、海の仕事を紹介するので、盗みよりもよほど生活安定すると思いますよ」


「そりゃあ、願ったりかにゃったりにゃ。弟達には今まで、ぬすみにゃんかさせてにゃいから安心してほしいにゃ。紹介してもらえるにゃら、弟たちにはぜひ海の男として育ってほしいにゃ。」

 ロアンヌは嬉しそうな表情を見せてルミィに手を差し出した。

 がっちりと握手を交わす二人。

「よろしくね、ロアンヌ」

「ロアでいいよ、よろしくルミィ」

 こうして俺たちに新しい仲間が加わった。


【ロアンヌが仲間に加わった。ネコ化のスキルゼーレを手に入れた。

 ――魔王復活まであと348日】


 名前:ロアンヌ

 年齢:17

 身長:150前後

 

 LV 1

 HP 25(通常時)  100(ネコ化)

 MP 35

 攻撃力 3(通常時)  60(ネコ化)

 守備力 10(通常時) 45(ネコ化)

 素早さ 40(通常時)100(ネコ化)

 魅力  100(通常時)測定不能(ネコ化)

 職業: 盗人、猫女

 固有スキル:ネコ化、盗む

 装備:ネコの爪

    ネコの耳

    動きやすい服


※ネコ化のスキルはロアンヌしか使うことができない。

 MP25使うことで、最初にアルフォートと出会った時のような猫女としての力を1分間だけ発揮できる。

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