第17話「ネコネコファンタジー」
いつもの白い空間の中だ。隣にルミィがいるところを見ると、やはりあの猫女に殺されてしまったのだろう。
「おい、ブルボン。てっきりあの猫娘が三人目の仲間だと思ったんだが違うのか? あいつはただの敵か?」
俺は姿は見えないものの、ここにいるはずのブルボンに尋ねた。
すっと後ろからブルボンが現れて答える。
「おお、アルフォート勘がいいじゃないか。その通り、彼女が3人目だよ。よくわかったね」
軽口でブルボンはそう答えた、あいかわらず真剣みが足りない。
勘にはちがいないが、当てずっぽうではない。この街で仲間に会えると聞いたうえで、ルミィの部屋に入ったら不審者がいたなんてそんな偶然がそうそうあってたまるか。
あった瞬間あの猫娘が三人目だと直感したぜ。
「じゃあなんで三人目が俺らを襲ってくるんだよ、っていうか猫女が俺らをを襲う前にお前が介入して、説得しろよ!」
ルミィの時はちゃんとブルボンが説明に入った。ならば今回も俺らが全滅する前にブルボンが介入して何とかできたはずだ。
「いろいろ事情があるんだけどね、なんかの手違いで彼女はスキルゼーレを手に入れてしまったようだ。普通の人間がスキルゼーレを手に入れてしまうと、正常な意識を奪われるんだよ。だからいま彼女は仲間であって、仲間ではない。彼女を仲間にするにはいったん殺して、この女神の間に連れてくる必要があるんだ」
そんな話し、初めて聞いたぞ。
スキルゼーレが正常な意識を奪うだって!?じゃあ、猫女はスキルゼーレのせいで俺らを攻撃してるのか、しかも仲間にするためには……。
「……いいのかよ殺してしまって、俺らの三人目の仲間なんだろう?」
こういう場合なんていうか、奪われた正常な意識を取り戻す必要があるんじゃないのか。
さすがに仲間になるはずの相手を殺すのは気分が悪すぎる。
「大丈夫だって、一度殺しちゃえば女神の恩恵が届くから、何度でも復活できる。君たちと同じ存在になるよ。だから今は一度彼女を殺してスキルゼーレの呪いを解かなければならない」
そう、確かに俺らの仲間ならば死んでもよみがえるのだろう。それは分かるが、そういう問題ではない、倫理の問題だ。
しかし仲間にするためには、不本意だがあの猫女を一度殺すしかないようだな。
「まあ、そういうことで、あの猫女を倒して欲しい。じゃあもう時間だからまたね。ばっははい!」
そういっていつものごとく、こちらに質問を許さずに女神は消えていった。
景色が白い空間から、ルミィの家の中へと変わっていく。
「……すでに部屋にはあの猫はいないらしいな」
狭い部屋の中だ、猫が隠れるスペースはない。
「そうですね、生き返った瞬間殺されなくてよかったです」
確かにな、もし猫女が部屋の中にいたら生き返った瞬間死ぬというデスループになるところであった。
しかし、逆にいないということはあの猫を探さなきゃいけないということである。
「仲間だって聞いた以上ほおっておくわけにもいかないしなあ。何とかして見つけて、いい方は悪いが一度殺さなきゃいけないわけだ」
「そうですね……、せっかく部屋にいますし少し作戦を考えましょうか──お茶を入れてきます」
そういってルミィは立ち上がって、キッチンに向かった。
そうだな、少し落ち着こう。一気に課題が増えてしまった。まずはあの猫女を探さなきゃいけないということ、さらにどうやって倒すかということ。
顔面に剣を突き出して牽制しながらも、俺はそれをあっさり弾き飛ばされ、首もとに爪をつき突かれて死んでしまった、結局俺らは一撃食らえば死んでしまうのだ。
ましてや相手の方がスピードが速いときたもんだ、まともな手段では相手を倒すことができない。
ルミィがお茶を入れて戻ってきた。
「どうやって見つけるかですよね、まず……。」
俺のカップに紅茶を注ぎながら、単ため息交じりにつぶやくルミィ。
「……なんでルミィの部屋にいたんだろうな、あの猫女。俺は最初、てっきりあの女が仲間だと思ってたから、運命的な何か、あるいは女神が仕組んだか何かだと思ったんだが、女神が何も言わなかったことを考えると、そうではないのだろう」
女神の意思とは関係なく、あの猫女がこの家にいたのだとしたら、他に何らかの理由があるはず。
猫にとって何か寝床にしたかった理由とかそういうのがあるはず。というかないと困る、他に探す手がかりなどないのだから。
「猫女が私の家にいた理由ですか……、うーん私が海女なんで、魚のにおいとかは普通の家よりは強いと思うのですけど」
「でもそれだと該当する家はもっとたくさんあるだろう」
「うーん……」
ルミィは黙り込んでしまった。まあ、そりゃあなあ、猫の行動なんか想像つかないよな、俺もさっぱりわからん、町中を探し回るしかないかなあ。
せっかくなので、ルミィの入れてくれた紅茶に手を付ける。カップに口を付けるとルミィが入れてくれた紅茶は、今までに飲んだことのない匂いの強いもので、含んだ瞬間口からカップを離してしまった。
「ルミィ、なんだよこの紅茶」
「あれ、お口に合わなかったですか? 私のお気に入りのハーブティーなんですけど……。」
そういって、ルミィも紅茶を口にする、いや紅茶ではなかったわけだが。
「いったい何のハーブだよ、俺の地元じゃ飲んだことない」
「これはですね。イヌハッカですよ、風邪ひいたときとかにのどがスキっとしていいんですよ」
犬ばっか……?
ああ、イヌハッカか。イヌハッカって、俺の記憶がたしかならば……。
「ルミィ、それの別名知ってるか?」
「いえ……」
「キャットニップっていうんだぜ」
そうイヌハッカ、別名キャットニップはマタタビに匹敵するほど猫をひきつけるといわれてる草だった。
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