第9話「白昼夢」
あたりは先ほどの暗かった街の風景とは一変してる。
「切り替わったってことはファイヤーヘアーは倒せたのか?」
おそらくはこの空間にいるであろう女神ブルボンに向かって、俺は問いかける。
しかし、声はむなしく、白い空間に吸い込まれ、返事は何も返ってこなかった。
見渡す限り真っ白な空間が広がっているだけだ。女神はもちろんのこと、他の物体も何も見当たらない。
仕方ないので歩き回ってみた。
スタスタスタとひた歩く、ダッダッダッと走ってもみた、しかし壁とかそういうものにぶつかったりはしなかった。いつもはこの空間にほんの数分しか滞在しないので気にもしなかったが、いったいこの空間は何なのだろうか。
「おーい!」
「おーーーーい!」
不安になって、誰かに叫んでみる。
返事はない、音の反響すらもなかった。女神の空間であることは間違いないと思う、すでにこの空間に四度訪れている。その時の空間と同じはずである、ただ違うのはこの場を支配するはずの女神がいないということ……。
一体何だというのだろう。何かの手違いだろうか。
そういえば、ルミィ、ルマンドはどこだ? この空間には見当たらない、ということはまだ現実世界にいるのだろうか。それで一人ファイヤーヘアーと戦ってるのか。
だとするならば早く戻らないと……。
しかしそうは思うものの、白い空間に何らの変化も訪れず、ただただ無情に時が過ぎていった。
ふと気づいた、歩けるということは、床に地面があるということだ。ということはそこに対しては何らかのアクションをできるはずと思ったのだが……。
床を叩こうとしたら、手は床をすり抜けてしまった。さらにいえば、今の空間からは平面に対して歩いて移動するだけではなく、上下への移動も自由にできることが分かった。
歩くことも走ることもできる、しかし地面というのは存在しない。
俺はただここ白い空間を空中浮遊してるような状態だった。
何もすることがなくなった。仕方ないので今までのことを回想してみる。
――、一時間が過ぎ、二時間が過ぎ、もっともそれが正確な時間かどうかはわからない。この空間にいるせいで時間間隔がすでにくるってる。体感的にはもう半日以上ここにいる様である。
まずい……、これは病む。
このままでは気がおかしくなる。よし眠ろう、眠ることにしよう。眠ろうと思い目をつぶると、そこにはまた白い空間が広がっている。
あれおかしいな、確かに俺は目をつぶったはずなのに、いつの間にか眠ってまた夢を見てしまったんだろうか。
再び目をつむる…‥‥。
しかしやはり、白い空間が広がっていた。
恐怖……。恐怖しか感じない。なんなんだこの空間は……。俺の体はいったい今どんな状況になっているんだ。やばい、今にも気が狂いそうだ。
「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
とりあえず落ち着くために叫んでみた。どうせ周りには誰もいない。こんな時はとりあえずわざと奇行に走ったほうが安心するというものだ。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
気持ちよかったのでもう一回叫んでみた。
「もううるさいなあ、落ち着きなよアルフォート。」
とやっと、待っていた他人の声が背中から聞こえた。この声は間違いなくあの忌まわしきくそ女神ブルボンの声だ。いや今この時だけは麗しの女神さまと呼ばせていただこう。
振り返ると背の低いブルボンと、空間に横たわってるルマンドの姿があった。
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