第7話「ルミィは二度死ぬ」

「やあ、二人とも死んじゃったね。ちなみに深夜に死んでしまったから、残念ながらよみがえるのは次の日の朝になるよ」

 例の女神の間ににて、俺はまたしても女神の不快なメッセージを聞く羽目になった。今回はルミィも一緒ではあるが……。


「なあ、お前は本当に世界を救う気があるのか。楽しんでるようにしか思えねぇぞ。」

「そんなこと言ってもこれは性格だからね。危機が迫ってるからといって楽しんじゃいけないという法があるわけじゃないだろう。大丈夫だよ、まだ360日も残ってるから」

 いや、俺の中じゃたった360日なんだが、だってあと59のスキルゼーレが残ってるわけだし仲間も一人しか見つかってないし、しかも今回は仲間の勇み足で、死んだようなもんだし……。


「っていうか、さっきの敵はなんだよ。かすっただけで50ダメージって!?まともに食らったらいくつ食らうんだよ!?」

「あのぉ、私はたぶん120位受けたらしいです。完全にオーバーダメージです。痛かったです」

 ルミィはいまだに痛そうにそれを伝えた。もう痛みなどないはずだがトラウマになってしまったかもしれないな。


「だから、君たちは攻撃を受けずに彼を倒すしかないね、おそらくあの炎のモンスターを倒す推奨レベルは12くらいだと思うよ。大丈夫、きみたちならやれるさ。それじゃあ、そろそろ君たちを現実世界に戻すよ。ばっははーい!」

 そういってまたこのくそ女神は反論を許さず、俺たちを現実世界に引き戻した。見渡せばそこは花火の親方の作業場だった。


「あれ、お前らいつからそこにいたんだ。昨日の見回りから急にいなくなったから心配したぞ」

 親方が作業場で倒れてる俺らを見て心配そうに声をかけてきた。

 どうやら今回は、親方の作業場が戻りポイントらしいな。


「あの、親方放火魔はどうなりましたか?」

「分かんねぇな、結局この町の2番目に富豪であるイックさんの家が燃やされた感じだよ。犯人はわからないままだ」

 そっか、でも不幸中の幸いだな、あいつは、あの炎のモンスターは一軒ずつを燃やしてるようだ。力的には一気にすべてを燃やせるだろうに、そうしないということは何らかの狙いや目的があるということだ。


 ならば今夜もきっと、屋敷を狙いに来るはず。単純に考えるなら三番目の金持ちの家……。つまりは親方の家か。


「親方……。言いづらいですが次のターゲットは……」

 俺は親方の顔を探りながら、二の句を継ごうとした。


「……分かってるよ俺だろうな。まあしかし、はっきりわかってるならこのふざけた野郎をやっつける格好のチャンスだろうよ。協力しろよアルフォート!」

 さすが親方よくわかってらっしゃる。俺の意見を待たずに答えを出してくれた。

 力強く言いながら、親方は俺の肩に手をかけた。


「もちろんっす親方。もちろん、あの放火魔にはリベンジ決めてやります。」

「私も、やられっぱなしというわけにはいきません。」

 そう狙いがわかってるならばレベル差があってもなんとかなるかもしれない。とにかく世話になってる親方の家だけは守らなければならない。一汁一飯の義理でしかないが、ルミィも同じ気持ちらしい。


「そうか……、俺は俺で最大限の努力はするが、お前らの方で何か出来るなら心強いぜ。女神の恩恵ってやつを俺は信じてるからな。」

 そうだ、このままだまってみてるだけでいるような親方であるはずがない。親方は親方で、放火魔を撃退する方法を考えてるのは間違いなかった。

 でも、相手は比較的強力なモンスターだ、親方が戦う前になんとか俺たちでけりをつけたい。俺たちと違って親方は死んだらそれで終わりだ。


 幸い奴を倒す方法を思いついてはいた、あとはあの炎の男が、俺らの思っているところに現れてくれるかだけである。


「ということで、やってやろうぜ!俺らの街は俺ら自身で守るんだよ! いいな?

アルフォート!」

 そういって親方は作業場を飛び出していってしまった。全く、相変わらず思い立ったらすぐが信条の親方だな。


 さてと、俺の考えた作戦にはルミィの協力が不可欠だ。さっそくミーティングしようかな。

「ルミィ、俺は一応あの放火モンスターを倒す手段を思いついたんだが、君は何か作作戦あるか」

 俺の作戦はただの思い付きだ、いいアイデアがあればそちらを採用したい。もっとも、遭遇した瞬間に即死したルミィがどこまで敵を認識してたか怪しいがな。


「……正直全然思いつきません、気が付いたときは目の前に顔の大きさ位の炎がとんできたって感じでした。そして熱い痛いと思った時には、あの真っ白な空間でしたから。」

「あ、そういやルミィの方が先に死んだんだよな。俺がその部屋に行くまで、どんな感じだった?」

 なにせ俺以外に女神の間に行った初めての人間である。

 俺があの空間に行くまで一体何をしてたのだろうか、実に気になる。


「ああ、でも実質目覚めたのは一緒ですよ。ほら目覚めてすぐ、この花火の作業場だったじゃないですか。ってことは死んだあと、しばらくあの空間で眠ってたんじゃないかと思います」

 そうか、死んだ場合一日経過するってブルボンも言ってたからな。一定期間はあの空間で眠らされるってことか。


「もしどちらかだけが、生き残った場合はどうなるんだろうな。片方が死ぬまで、ずっと女神の間に続けるってことなんだろうか」

「そうかもしれないですね、そうなったら生き残ったほうは、わざと死んだ方がいいですかね。」

 わざと死ぬっていうのも嫌な話だがな……。でも一人で戦い続けても効率悪いだろうし、それも手かもしれないな。


「で、ルミィには言いづらいんだが、もしかすると今回考えた作戦だと、ルミィには死んでもらう必要があるかもしれない……」


 

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