第6話「ファウラーミッドナイト」

「それにしてもこんだけ火事が続くと、偶然じゃねえな。放火だとは言われてるんだがなあ。」

 花火の親方は俺にこういった。

 俺とルマンドはあの火事からの脱出の後、俺の務める花火職人の作業場へと戻った。


 ルマンドはたまたま買い出しでこの「ファウラー」という町に訪れていただけで、今日は日帰りで自分が住む海沿いの町に帰る予定だったらしい。


 だが、服も焼けてしまったし、疲れてるようなので、親方に頼んで空いてる部屋を貸してもらうことにした。そして今はすすで汚れた体を清めるためにシャワーを浴びに行っている。


「連続放火魔が現れてるってことですか?」

「……ああ、だからよ。今晩当たり自警団を作って見回りしようかと思ってるんだが、アルフォートお前も付き合っちゃくんねえか。」


「そりゃあ、親方の頼みじゃ断れんすよ。ぜひ喜んで」

 親方は、正義感の強い人で町の困りごととかは黙ってみてられない性分だ。そんな親方を見て育ったせいで俺にもそういう部分がある。だから、世界がピンチだとか言われたら、動かないわけにはいかないのである。あのくそ女神のことを真に受けてるのはこういう理由もあった。


 そして多分見ず知らずの女の子を助けるために火に飛び込んだルマンドもまた、後先考えずに困った人を助けようとする性分なのだろう。


「じゃあ、アルフォートは夜の一時くらいからを担当してくれ。おれはよう、さすがに12時には寝てえからな。深夜は体がついていかねえのよ」

 仕方のないことだろう、親方もいい歳だ。深夜の仕事は若手に任せてほしい。とはいえさすがに一人ではきついのだが……誰か一緒に見回ってほしいな思う。そういうつもりで、じっと親方を見る。


「あの私もお手伝いしてよろしいでしょうか。」

 すると、ちょうどシャワーを浴びて出てきたばかりのルマンドが部屋に入ってきてそう申し出た。金色の髪の毛が水にぬれて光っている。

「えっ、君にそんな義理はないだろう。」

 俺は反射的にその申し出を断ってしまう。

 それにまだ疲れてもいるだろうし、今日は安静にしたほうがいい。


「いえ、救っていただいた恩を返したいですし、それに私は選ばれし戦士のようですから」

 どうもルマンドは女神ブルボンのいうことを真に受けて、情熱に燃えてるようだ。もともと正義心が強いんだな、おれは結構仕方なくって感じだが、彼女は私がやらずに誰がやるっていう感じだ。

 

「そうか、じゃあまあ、断る理由はないし、一緒に見回ってもらうよ」

 俺はあっさり承諾した。どのみちこれからは行動を共にするのだから、その試金石としてもいい機会だろう。


「あの……、わたし一生アルフォートさんについていきますのでよろしくお願いします」

 ルマンドは深々と頭を下げた。い、いっしょうってそれは困るけど……よほど火事の時に助けたのを義理に感じてるんだなあ。

「ま、まあそんなに義理を感じなくてもいいからね。とりあえず、一時までは休もうか? 少しでも休んでおかないとMPが回復しないからな」 

「は、はい分かりました」

 そういって俺を見るルマンドの視線に、何か熱い思いのようなものがこもってる気がしたのは気のせいであろうか……?




 さて、一時になった。私たちはすでに準備をすませ、ファウラーの町を巡回している、あたりはすっかり真っ暗なので手にはランプを持っている。私たち以外にも巡回組がいるらしく、街のいたるところで光がゆらめきながら動いていた。


「3時まで見回ればいいんですね、アルフォートさん。」

「ああ、あとは先輩たちが引きついでくれる。それまでに何もないことを祈るよ。」

 二人きりで深夜の町を徘徊するので、まるでデートみたいだなと頭に浮かんだ。そういえば女性と二人きりで歩くっていうのは最近なかった出来ことだ。そう思うと、このイベントに少し心が躍った。


「だめですよ、なんとしても私たちで放火魔を倒しましょう。私たちは選ばれた戦士なんですよ。アルフォートさん。」

 なんて前向きなんだ、まだ君はあのくそ女神の性格を知らないからそんな風に思うんだよ。

「と、とりあえず、名前呼び辛いだろうから俺のことはアルフでいいからな。」

「分かりましたアルフさん。私のことはルミィって呼んでください。ルマンドも多分呼びづらいと思うので……。」


 俺とルミィはお互いの過去を話しながら、夜のファウラーの街を徘徊した。十中八九放火犯などには出会わないだろうと気楽な感じであった。

 しかし、そうはいかないのが女神に選ばれた戦士の宿命というものなのだろうか。

 一時間ほど歩いて、先日火事があった屋敷と同じくらいの大きな家の片隅で、ルミィが動く影を発見してしまった。


 影どころではない、そいつは明らかに炎を身にまとっていて、遠くからもはっきり目立っていた。おそらくこっそり放火するつもりなどはない。堂々とこの屋敷を燃やし尽くすつもりだ。


「ちょっと、あなたいったい何をする気なの?」

 ルミィはその明らかに炎を扱うモンスターのたぐいに、そうやって声をかけた。


 俺には彼女を制する間はなかった。馬鹿やろー、そんないかにも危険そうなモンスターに堂々と正面から声をかけるんじゃねーよっ!

 するとこちらに気が付いたその炎のモンスターは、何も言わずにこちらに炎を放ってきた。

 ボオオオッ、ホノオッッ!!

 「うわっ!!」

 俺は何とかかわそうとして、体を逸らし、ルミィはその炎をもろに受けた。

 ルミィは死んでしまった。


 一方、炎をかすっただけのおれであったが、かすっただけなのに推定ダメージは50! 俺のHPは35、つまり結局はよけてもよけなくても、死ぬのだった。

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