第4話「火事と喧嘩は町の華」
俺の生まれた町「ファウラー」は楽しい街だ。毎日がお祭り騒ぎのようで、往来で人々が酒を飲みながら歌いながら過ごしている。みんな適当で時間も守らない、仕事はできるだけしたくない。
俺ら花火職人は周囲の雰囲気に合わせて特に利益を求めずに、花火を宙に打ち上げることがある。今日はぶっ放してぇなってときに親方が花火を打ち上げる。しかもそういう時は、お金をもらってでもやらないような、でかくて派手な花火を打ち上げる。それがファウラー男の粋ってなもんよ。
そんなファウラーに俺はすぐ戻ってきてしまった。親方には、世界を救ってきますといって出ていったきりで少し気まずいのだが、その辺は女神が話をつけたらしい。三日で職場に帰ってきた俺を、親方はすんなり迎えてくれた。
「えらいはやいお帰りだな。もう魔王は倒したんか?」
昼間から酒をかっ食らってる親方は上機嫌で俺に尋ねてきた。
「まさかそんなわけ──この町に仲間がいるっていうんで戻ってきたんすよ」
「な、仲間だあ?これ以上、うちの組の人間はいくら女神さんの頼みでも貸せねえぞって言っといてくれよ。」
「はは、大丈夫すよ。たぶん関係ない人でしょう」
すると外から『火事だあ、火事だあ』という声が聞こえてきた。
俺も親方も反射的に立ち上がって外へ駆け出す。
「火事だって!」
「こうしちゃいられねえ」
俺たちファウラーの民は火事って聞くと、いてもたってもいられなくなりすぐに現場に駆け付けたくなるのだ。
俺は持ち前のダッシュで、親方を置き去りに火事の現場へと駆けていく。
「おいアルフォート、待ちやがれー」
現場は町で一番の大きな屋敷だった。すでに東側が激しく炎上しており、玄関からも火の手が上がってるのが見える。とても入ったりすることはできそうにない。まだ消防隊も間に合ってないようである。
「おお、アルフォート大変だぜ。まだ中に女の子が取り残されてるらしくてよ。それを助けにさっき、若いお嬢さんが屋敷の中に飛び込んでいったんだけど、ご覧の通り玄関が炎でふさがれちまってよ。みんな右往左往しちまってるんだよ。」
たまたま隣にいた同じ花火職人の仲間が、俺にそう伝えた。
なんてこったい、しかもこの屋敷はやたらと窓が少ないことで有名だ。デザイン性を意識してるらしく、二階の一部以外は、採光用の小さいガラスがあるだけだ。
「女の子はどっちにいるんだ。」
俺は大声を上げて、やじうまに向かって誰ともなく聞いた。
『西だ、西の二階の方に向かったよー』
誰かがそう答えた、よかった西ならまだ間に合う。西にはまだ火の手が上がってない。俺はダッシュで屋敷の西側の外壁に向かって走って行く。
――外壁を見渡すと案の定、外から侵入できそうな場所は存在しない。
「ならば手は一つだけだな……。」
まさかさっき手に入れたばかりのスキルを、もう使うことになるとは思わなかったぜ。
『ドリル!!』
スキル名を叫ぶと、俺の右手が半径が拳ほどもある太いドリルに変化して、勝手に回りだした。
おお、なんか変な感じだ、振動だけが激しく体中に伝わってくる。俺は
ドリドリドリドリドリッッッッッ!!
多少の抵抗を感じながらも、ドリルはもりもり壁を削っていく。削った壁の破片が遠慮なく俺の体にぶつかってくる。
──よし貫通した。
俺出来た穴に向かって、声を叫ぶ。
「誰かいるか―!?」
すると、穴をあけた先の部屋から声が聞こえてきた。
『はいここに二人います。もうここにしか逃げ場がなくて困ってたんです。助けてください』
「わかった、すぐ助ける。危ないから壁からは離れてくれ」
俺はさらに、空いた穴の隣にもドリドリッと穴をあけ始めた。とにかく素早く!
一回穴をあけるのに10秒、そしてMPを5消費するようだ。俺のMPは30、穴を6個も開けることができれば、十分人が通れる大きさになるはずだ。
───よし二か所めも貫通!
そうは言いながらも、だんだんこの部屋にも熱気がせまってくることがわかる。
3か所、4カ所貫通成功!
「通れないか、そっちの人。」
『は、はい。私は無理です、でも女の子だけなら通せそうです。――ほら私はいいから行きなさい』
すると、女の子がその小さな穴をとおって、こちらにはい出てきた。
「だ、大丈夫か?」
女の子は、顔がややすす焼けていた。中が黒煙で満たされている様子がうかがえる。
「だあぁ、は、はやくおねえちゃぁんを助けてあげてぇ。」
女の子は涙ながらにそう訴えた。言われなくても急ぐさ。しかし女の子を先に救出したのは時間のロスだった、彼女がはい出てくるのに30秒はロスしてる。6か所穴をあけてから、二人を救出すべきであった……。
とにかく急ごう──俺は5カ所目の穴を開けるべく、ドリルを壁に突き刺した。
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