第3話「対決ドリルタイガー」
俺はあれを確認したあと、森の奥へと進み、再びドリルタイガーの目の前へと姿を現した。切り株に座っていたドリルタイガーは俺を見て、はっとして立ち上がった。
「──懲りずにまた現れやがったな人間、というかなんで生き返ってきてんだお前は?」
ドリルタイガーは三度現れた俺を見てそう言った。
どうやら俺の体は死ぬと、その場から忽然と姿を消すらしかった。ドリルタイガーからしたら、俺は倒したと思ったら消えて再び現れる存在だ
嫌だろうな、敵が何度倒してもよみがえってくるのだ。ほとんどストーカーだといえる。
しかも彼は自ら人間に危害を加えてるわけではなく、身に降りかかる火の粉を振り払ってるだけ。
だが、文句があるならぜひくそ女神に言ってほしい。俺はあいつの命令でスキルゼーレを取りに来てるだけなのだ。心中はお察しするけどな。
気持を察しながらも俺はドリルタイガーの声には耳を傾けずに、ドリルタイガーがこちらに向かって足を踏み出した瞬間に、ありったけのスモークを放って周囲を煙で満たした。
森一面が霧に囲まれたかのように、まるで火事でもあったんじゃないかというくらいに煙だらけになる。
「煙を使ってもお前がどこにいるかくらい、匂いで丸わかりなんだよ」
ドリルタイガーがそういうと同時に、俺は一面の煙景色の中をさっきのあれがある場所へ向かって、全速力で走り出した。
ドリルタイガーの言う通り俺の位置は匂いで丸わかりだろう。
だがそれでいいんだ、俺のにおいにつられて俺を追っかけてくるがいい。先ほどと違って俺はお前に攻撃をしかけたりはしない。
俺は煙まみれの森の中をとにかく走る。やつに追いつかれたら終わりだ。
走りながらも俺は、後方にさらにスモークを放ち続ける。ぼやーっと俺の影は見えるかもしれないが、特に足元の視界はかなり悪いだろう。あいつの立場からは、俺の影だけを頼りに追いかけるしかない。
そして、もくろみ通り奴は虎のくせに二足歩行だから、本来のトラのようなスピードは出ないようだ。
俺の方が走るのはわずかだが早い。
それにしてもあいつの虎の要素は縞々の柄だけだな、基本攻撃は牙でも爪でもなく、両手につけたドリルである。それゆえに二足歩行になってしまってる。
あいつのどこにトラとしての存在意義があるんだろうとおもわざるを得なかったが、今回はそれに救われている。
──かなり走った、そろそろのはずだ。
その時俺は右足をつけた地面にぬめり気があるのを感じた。このぬめりけこそが、目印である。
「ここだ。」と反射的に左足で、若干の湿り気があるその地面を強く蹴飛ばして、前方へと思い切りジャンプした、走り幅跳びの要領だ。
この足場であっても俺は軽く7mを超えるジャンプをすることができる。
7mも飛べれば十分だ。
俺はそこを思い切り飛び越えた。
そして再び前方へ向かって走り出した。敵に違和感を感じさせてはいけない、あいつにはまっすぐ、俺を追いかけてきてもらわなければならなかった。
煙で地面への視界を奪いながら、においと影を頼りに俺を追いかけたあいつは特に違和感を感じずに走り続けてるはずだ。そして、自分の足元に気づかず走り続けるとあの場所に落ちることになる。
そう俺が飛び越えた場所とは沼だ、いわゆる底なし沼。
沼地に非常に崩れやすいやわらかい泥が埋もれており、いわゆる流砂が起こるとしてこの地域では有名だった。実際何人かが帰らぬものとなったという話を聞いている。
もし沼にはまっても冷静に対処すれば生き残ることもできるが、奴はきっと自らのドリルをあてにするに違いない。ドリルで沼を掘って脱出しようとするだろう。
しかし、流砂は振動を与えれば与えるほど、対象を奥へ奥へと引きずり込んでいくのだ。生き残ろうともがけばもがくほど、ドリルタイガーは死に近づく。
計算通りならあの視界をまっすぐ走ったドリルタイガーが、俺が飛び越えた底なし沼を避けるすべはないはずである。
なので計算通りならそろそろ、沼にはまったころだ。追いかけてくる足音が失われたことから考えても、おそらくあの底なし沼にはまったにちがいない。
もっとも万が一を考えて、その場所に戻って敵の安否を確認するなどということはしない。もし奴が生きていたら返り討ちにあってしまう。
そのまま煙がなくなった森の中をしばらく走り続けると、急にあたりの様子が一面何もない真っ白な景色へと切り替わった。
――ここには見覚えがある、例の死ぬたびに訪れることになる女神の間である。
「……やあ、アルフォートおめでとう。無事にスキルゼーレ【ドリル】を手に入れることができたよ。」
背後から、くそ女神ことの封印の女神ブルボンは急に現れて俺にそう告げた。
「死んだときしか現れないんじゃなかったのか?」
「そんなこと言ってないだろ、スキルゼーレが手に入った時もあらわれるさ」
というかお前はその辺の説明は何もしなかった。ただ、俺が頑張らなければ世界が滅ぶと脅してきただけだ、分かってないことの方が遙かに多い。
「手に入ったってことは、あの作戦でトラは倒せたということか?」
おれはまだトラの死をこの目で確認していない。もっとも確認しようにも上手くいってた場合、沼に沈んでいるはずなのでやはり確認できないのだが。
「……そうそう、倒したんだよ!──いやあ残酷だったね。底なし沼で最期を迎えるなんてこんな残虐なことがあるだろうか。しかも彼は何もひどいことなどしてないのにね。ああ可哀そうだなあ」
このちび女神は平気で人を逆なでしたようなことを言う。
「て、てめえがやれって言ったんじゃねーか」
たまらず俺は大声を上げてくそ女神に抗議した。
どこが女神なんだこいつの?
「怒んない、怒んない。とにかく、おめでとうアンドありがとう! ところで僕の女神サーチが、君の出身地ファウラーに二人目の選ばれし戦士が現れたって告げてるよ。急いでいった方がいいんじゃないかな? じゃあ僕はこれでいなくなるから。また死んだときに会おうね、ばっははい!」
そういってあわただしくブルボンはいなくなり、再び、周囲の景色は森の中へと切り替わった。
とりあえず、ドリルタイガーを倒すことができた。よくもまあ、あんな
死んでもいいという条件のおかげで思い切った作戦を取れるというか、今後もそこに活路を見出していくしかないな。
それにしても仲間か――。
ふぅ、
【世界の終りまであと362日、アルフォートはドリルのスキルを手に入れた。】
「はて、そういやこの能力どう使うんだ?」
あの女神はなんの説明もしていかなかった……。
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