第2話「スキルゼーレ」

 そもそも、俺アルフォートがなぜ不気味の森なんぞに入って、ドリルタイガーを倒さなければならないのか。それは奴を倒すと俺というか、正確には女神に技の魂スキルゼーレが戻るからである。


 女神にスキルゼーレが戻れば、俺ら女神に選ばれしもの達は、その能力を使うことができる。レベル上げができない俺ができる唯一のモンスターへの抵抗手段が、このスキルゼーレなのだ。


 世界には60程のスキルゼーレが散らばってるらしく、それらはすべて魔物が握っているか、あるいはどこかの神殿などに祭られているらしい。

 まずはそれを手に入れ、モンスターに立ち向かっていかなければならない。


 とはいっても、レベル自体は上がらないので、基本的な攻撃力やHP、防御力は装備品で補わなければならない、スキルを手に入れたところで一度食らえば死ぬことに変わりはないのである。


 おそらく、今回のドリルタイガーを倒したところで得られる能力はドリルであろう。魔王を封印するのに何の役に立つのだろうか?えらく疑問ではあるが、それでも女神ブルボンがこれを推奨したのは、こいつが一番倒しやすいという理由からだった。


「倒しやすいというものの、今のおれに全く対抗する手段は見つからないんだが……。」

 ぼそぼそ言いながら俺は、不気味の森の中を突き進む。名前とは裏腹に不気味の森は太陽が差し込み、風通りのいい気持ちのいい森である。街道も通っており、涼しいまま移動できるので、皆好んでここを通る。


 ただ街道を外れて奥まで行くと危険な虎が住んでいると有名ではあったが、その虎に出会った人の話を聞いたことがなかった。


 その虎に殺されたのはひょっとして俺が初めてかもしれない。多分、みんな「虎穴いらずんば虎児を得ず」の精神がないんだろう、俺だって虎児などいらない、欲しいのはスキルゼーレだ。


 さて、花火職人としてのおれが使えるのは、スモークという煙を発生させて身を隠すためのスキルと、大きな音をたてて相手を威嚇する爆音というスキルである。これは、スキルというか実際にそういう花火を俺が、作業場から持ち込んだだけである。

 

 ただ不思議なことにこれらは何度使ってもなくならなかった、これもの一つだとあのくそ女神は言っていた。

 それと俺はかけ足が速い、100mを11秒で走ることができる快速男子である。それゆえに今のところ、森でモンスターに出あったらスモークを使いダッシュで逃げるという作戦で、奥へと進んでいった。

 

 どうせ雑魚と戦ったところで、レベルなど上がらないのだ。戦うだけ無駄である。しかも倒したところで、お金が入るわけでもない。


 もちろん、ドリルタイガー相手にもスモークを張って、視覚外から攻撃をしようとしたのだが、見事に返り討ちにあった。あいつの嗅覚は俺より断然優れてるので、視界を奪っても無駄だったのである。


 そう現在のところ、まったくもって打つ手がなかった。


 どうせドリルの能力などいらないし、戦わず街に帰ってもよさそうな気がしてたのだが、この森にあるものがあったことをふと思い出した。

 

 もしかするとそれを使えば、そして俺の能力があれば、まったくダメージを受けずにやつを倒すことができるかもしれない。


 そう思った俺はたまに遭遇するモンスターから逃げまくり、森の奥のある地点でそれを確認することができた。

 よしよし、良い大きさと、程よい距離だ。

「一つ初勝利を挙げて見せるか。」


おれは森の奥に住むドリルタイガーへ、3度目の挑戦をしに向かうのだった。

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