Cp.2-4 Dear My Sylph,Smile Again.(4)

「喰らええええェッ!」

 心臓を貫かんと突き出された魔女の刺突を、拓矢は刃の腹に流して受け流した。擦れる凶器の纏う光気から、魔女と拓矢、二人の心が混ざり合うように触れ合う。

「…………!」

 浄めの光と穢れの闇、相反する心の色を映した二人は、同時に心を揺らされた。命を削り合う戦いの中、その動揺を押し殺し、目の前の相手を視界と意識に捉え直す。

 互いの心に触れて生じた疑念を抱えながら、拓矢と魔女は凄絶な交錯と激突を繰り返す。互いを瞳に映しながら絶え間なく振るわれる剣と槍が激しくぶつかる度に白青と邪黒の火花を散らし、思惑の融け合う空気に清冷と怨熱の軌跡を残す。

 命を晒しながら心を擦り合わせて戦う中、拓矢の中には疑問がいくつも生まれていった。目の前の魔女の心に触れるたびに、その違和感はどんどん増していく。それは拓矢に、何かの間違いを覚えさせるほどのものだった。

(この感覚……もしかして)

 この魔女のことを、自分は何も知らない。戦い討ち果たす前に、彼女の真実を知らなければ、この戦いは誤ったまま進むことになる。

 そう感じた拓矢は、眼前に迫っていた魔女の凶槍を真正面から刀身で受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。なおも力で押し込んでくる魔女の禍々しい凶器と自らの刀身を重ねることで、拓矢は流れ込んでくる魔女の心の色を感じる。

 凄絶な力押しを続けながら、魔女は狂熱に血走った瞳の赤い視線を拓矢に注いだ。

「ほら、どうしたの? もっと抵抗しなさいよ! 大人しいまま喰われるつもり⁉ つまらないのよ、そんなの! もっと……もっと、苦しんでみせなさいよ!」

 魔女の、どこか非難のような色を帯びた、狂熱に浮かされた絶叫。

 そこにあった心の色を感じ取った拓矢は、荊の槍を受け止めながら、言った。

「やっぱり、違う」

「……何ですって?」

 問い返す魔女の競り合う槍を押し返しながら、冷静な声で拓矢は告げた。

「君は、間違ってる。君は、本当に望んでこんなことをしてるわけじゃない」

「…………」

 小さく息を呑む魔女に、拓矢は畳みかけるように続けた。

「君の攻撃からは、絶望と嫉妬が伝わってくる。君は、違うんだ、ってずっと言っていたのが、君の心から伝わって来た。君は間違っていることを知っていながら、こんなことを続けないと自分の中の暗闇に食い殺されるって恐れてる。だから、君はこんなことをしている――こうすることでしか、自分を支えられないって思ってるんだね」

「…………!」

 魔女の瞳に映る赤紫色の光が、沸騰するようにその色を深く濃く熱くしていく。危険な感情が高まっていると知りつつも、拓矢は一気に言葉を続けた。

「君のその絶望と嫉妬が何によるものなのか、僕にはまだわからない。けど、今ならわかる。それが間違ったことだって思う気持ちがあるのなら、君は――――」

「黙りなさい‼」

 絶叫と共に、魔女が槍を爆発的な力を込めて大きく薙ぎ払った。力の緩んでいた拓矢は容赦なく吹き飛ばされて地を滑る。倒れた拓矢を一瞥し、魔女は言った。

「誰のせいだと思っているの……白崎拓矢! あなたが……あなたさえいなければ……‼」

「え……?」

 拓矢は、耳を疑った。――「あなたさえいなければ」?

 その言葉が示すものが、しかし拓矢にはわからなかった。魔女もそれをわかっていたようで、失言だったとばかりに目を逸らし、無慈悲な宣告に色を変える。

「何も知らないくせにわかったようなことをべらべらと……もう我慢できないわ。その耳障りな口、どうしても塞ぐしかないようね!」

 怨嗟の燃える声と共に、魔女は荊の槍を勢いよく真っ直ぐに地面に突き立てた。魔女の力を直接通すその槍を媒介の柱に、魔女の邪悪なる神経の力が地面に沿って拓矢の張った結界の水壁に這い上がり、その純色を侵食していく。

 今、結界を張る力を使役しているのは、傷を負った瑠水の負担と力を肩代わりしている拓矢である。故に、結界を侵食する魔女の憎悪の熱念は一斉に拓矢の心に襲いかかった。

「う、っぐ……あ、があぁあぁぁっ……‼」

 無数の針金に胸の奥を抉られるような痛みが、拓矢の心を染めて蝕み引き裂こうとする。地獄のような激しい責め苦に胸を乱されながら、拓矢はこれが魔女の感じている痛みであることを、かき乱される理性で確かに見抜いていた。

 これが魔女の心の闇なら、これは、彼女を理解するための鍵になるはず――そう考えた拓矢は、自らを苛む荊の思念を逆に辿り、魔女の心の奥に根を下ろすその闇の真実を見極めようと試みた。だが、魔女はそれを待つことはなく、拓矢の息の根を止める力を編み上げていく。

「《安らぎは既に過ぎ去りし(zi lug faum emberinio)。棘持ちし獰猛なる蛇よ(Algoand levie zenel)、柔き骨身を喰らい尽せ(jaw geuzen jid ol renge)!》」

 魔女の唱えた詞の力が、地面に突き立てられた凶禍の槍を通じて結界内に張り巡らされた血管のような黒き荊に流れ込み、結界の中の空気を憎悪と怨嗟の色に染める。胸が詰まるような息苦しさを感じながら、拓矢は魔女が満ちる瘴気と狂気の力を全身に満たしているのを見た。

 魔女が、禍々しい怨気を立ち昇らせる凶禍の槍を構え直す。それを目に、拓矢は直感した。

 このままでは、次の一撃は、防ぐことも躱すこともできない。そして――喰らえば死ぬ。

 死の迫る焦燥に胸を苛まれながら、拓矢はどうにか体勢を立て直そうと気を確かに持った。

 瑠水を、翠莉を、真事を、灼蘭とティムを守るためにも、ここで倒れるわけにはいかない。

 それに、この魔女の誤りを見極めないまま、倒されるわけにはいかない。

 何より、奈美も、幸紀も由果那も乙姫も、自分の生を待っている人がいる限り――、

(僕は……死ぬわけには、いかない!)

 拓矢が心を奮い立たせ、纏わりつく瘴気をねじ伏せて、立ち上がろうとしたその時。

「死になさい……白崎拓矢‼」

 叫びと共に、激情を満たした黒き魔女が、魔神の槍のように一直線に殺到した。力の入らない体で、到底受けることも躱すこともできる威力ではないのは明らかだった。

 それでも……死ぬわけには、いかない。

 絶望的な状況の中、それでも活路を見出そうとしていた拓矢は、目の前に青く光る影を見た。

 それは、儚い霞のようでありながら、眼にした心を強く震わせる、眩い姿。

「瑠水……?」

 小さく零した拓矢に、影となって現れた瑠水は頷きを返し、

『私に、任せてください、拓矢。あなたもイェルも、誰も死なせはしません』

 光速を超える想いの速度で、幻想の力を行使する幻律を詠唱した。

「《約束の時は返らじ(Mel sheo sphire)。水鏡よ(le mirres)、彼の者の底に眠りし想いを映せ(die kel krez mio amnende)》」

 思念の詞が紡がれると共に、瑠水の体が目を焼くほどの眩い閃光を放った。

 瞬間、

「あああぁああぁあぁアァアァアァァ――――――――――――ッ‼」

 魔女の魂を引き裂かれるような絶叫が走ると共に、結界を侵食していた荊が全て砕け散った。魔女はそのまま頭を抱えてその場に蹲り、苦痛に苛まれるかのように呻きながら身悶える。

 拓矢は、その瞬間に体験したことの全てに、思わず言葉を失っていた。

 瑠水が何らかの力を使って、魔女を妨害したことは間違いない。そしておそらくそれは、物理的干渉というよりは精神的な干渉だろう。その証拠に、瑠水と心を重ねている拓矢には、彼女が力を使役した瞬間、彼女が映し、魔女が心に映されたものを垣間見ることができていた。

 それは――赤い夕闇の中、鉄橋から落ちていく、自分の姿。そして、それに手を伸ばす――、

「……どういう、こと?」

 なぜ、彼女を止めるための幻術に、あの日の自分の記憶が持ち出されているのか。

 訳が分からず零すしかできない拓矢に、瑠水は振り向き、小さく、申し訳なさそうに言った。

「いずれ、機会があればお話しします。けれど今は、この場を収めるしかありません」

 瑠水の表情にも、真実を話すことへの迷いのような色が濃く映っていた。拓矢の中の疑念がいよいよもって渦巻き始める中、唐突に結界内、拓矢の意識の中にティムの声が響いた。

『拓矢、時間稼ぎはここまででいい。結界の壁を可視化しろ。光栄なるものを見せてやる』

「可視化……?」

 緊張が解けかけた上に疲労が回って茫然となりかける拓矢に代わり、瑠水が結界の構成権を拓矢から譲り受け、結界の水壁を透明にし、外が見えるようにした。

 そして――そこから見えたそれの威容に、拓矢は圧倒された。

 結界の外の中空に浮かんでいたのは、ビルの10階分はあろうかという大きさの生命力を漲らせる真紅の隆々とした女性の巨躯、そして燃え盛る流麗な炎髪を振り乱す頭から二本の湾曲した角を生やし、燃え上がる炎のような三対の翼を背に持った、神話にでも登場しそうな悪魔の女王を彷彿とさせる姿だった。隆々とした巨躯はしかし女性のしなやかさと逞しさを調和と共に宿しており、全身からは周囲の空気を紅い灼熱に染める、豪麗な炎気を放っている。

《紅華灼麗(アータル・ミカエル)》・《王冠の形相(エイドス=ケテル)》の顕現――『紅炎の巨女魔神(アスタロット・シュラ)』。

 その正体を知りつつも畏怖を感じずにはいられないほど、その存在感はやはり圧倒的だった。

『っふふ……相変わらずこの力はヤバいわね。胸の奥から熱い血がどんどん溢れ出てくるみたいだわ。あんまり長く使ってると、ホントに後々もたないかもね』

 言い置き、紅炎の魔神は赤く炯炯と光る瞳を、上空に待つ翠緑の霊鳥に向けた。

『さて、そんなに長い時間は見せてあげられないから、しっかりその目に焼き付けなさい。あたしの本気は、スゴイわよ?』

 言い放ち、魔神と成った灼蘭は、背に抱いた三対の炎翼を一つ大きく羽ばたかせ、背後に生じた推進力を以て、噴火の勢いのごとく一気に上空へと飛び上がった。爆熱を背に空を飛翔し、空中に浮遊していた翠莉に一気に肉薄する。

 迫り来る気配に反応した翠莉の魔鳥が、警戒するように六枚の翼を広げて展開した。その一つ一つに周囲から思念を帯びた空気が集まり、翡翠色の光を帯びた風の刃を形成する。

 翠莉はためらうことなく、翼に纏った風を灼蘭に向かって振り抜き放つと、さらにその刃のようなフォルムの全身に鋭利な風を纏い、灼蘭に向かって上空を滑空した。

『そんなのじゃ、あたしに傷はつけられないわよ、スィリ!』

 対するエルシアも迷うことなく直進を続け、両腕に纏った炎気を腕の一振りと共に解き放つ。放たれた炎気は炎の波となって宙を埋め尽くし、翠莉の放った風の刃を木の葉のように燃やし尽くして消滅させた。

 本体である翠莉は、纏う風気を障壁に襲い来る炎の波をやり過ごし、一条の飛刃のごとく灼蘭の巨躯に迫る。それを視界に捉えた灼蘭も赤く光る瞳を翠莉に据え、両腕を掴みかかるように広げて、流れるように迫る翠莉を待ち構えた。灼蘭の周囲には今もなお赤い炎気が、彼女の領域を色別するように広がっている。

『 ―― ! ―― 』

 翠莉はそのまま、灼蘭の炎気の満ちる領域に突っ込み、灼蘭はそれを真っ向から受け止めた。翠莉の纏った風の刃に身を幾筋か切り傷つけられながら、その隆々たる両腕で翠莉の六枚の翼をがしりと掴む。灼蘭の炎光の壁と翠莉の風光の切っ先がぶつかり合い、衝突の衝撃波と共に眩く熱い火花の破片のような弾ける赤と緑の光を空に砕き散らした。

 空に浮かび激突する二つの巨神、神話の中の神々の戦いさながらの光景を繰り広げる中、翠莉の刃の羽を掴んだ灼蘭が、燃える瞳で翠莉の光る瞳を注ぎ込むように見据える。

『痛ったいわね……けど、捕まえたわ。目を、覚ましなさい――スィリ!』

 一声、灼蘭が全身に溜めていた力を両腕から一気に注ぎ込み、膨張、そして爆裂させる。

 直後、翼を掴んだ両手を爆心に、空間を抉るような球状の爆発が翠風の霊鳥を包み込んだ。

『キェアァァァァァ―――――――――――――――ッ!』

 激しい熱量の重力に、霊鳥の断末魔の悲鳴が空を震わせる。拓矢が固唾を呑んで見守るしかできない中、ふいに灼蘭の声が拓矢にも聞こえた。

『マコト、今よ!』

 灼蘭の言葉に、地上に残った灼蘭の卵殻から真事が緑色の光を帯びて飛び出し、上空に向けて駆け上がるように飛び上がった。彼は、灼蘭の卵殻の中に隠れていたのだ。

 灼蘭の腕の中にあった翠莉の霊鳥は爆裂の熱でガラスのようにその体を溶解させており、その中心には翠莉が十字架に磔にされるように体を浮かべていた。どうやら全身の神経を霊鳥とリンクさせて操作していたために、霊鳥と同じ体勢を取っていたらしい。その表情は今にも神経衰弱で死にそうなほどにぐったりとしていた。

(翠莉……!)

 ただ一つの目指すべきものを視界の中心に据え、真事は残された力で決死の飛翔を開始する。

 それを、魔女が見逃すはずがなかった。苦痛をねじ伏せた魔女は、怨嗟の瞳で目に映る者全てを呪い殺すように睨む。その視線は、眼前に立つ拓矢と瑠水に向き、次いで上空に座す灼蘭に向き、そして翠莉の元へとまっしぐらに飛翔する真事へと向いた。

「どいつも、こいつも…………目障りなのよぉッ‼」

 刃向かうように叫び、魔女がその体に宿る憎悪の熱念を、地面に突き立てた槍を介して一気に解放した。螺旋を成していた荊が解けて彼女を中心に広がり、見る間に周囲の地面と空間をおぞましい憎しみの色に染め上げていく。それは当然、瑠水の水壁の結界にも及んだ。

「ッ……!」

 瑠水が、中を侵される感覚に総身の髄を震わせるのを、拓矢は己の震えとして感じた。本能的にそれを拒否し、それが瑠水の心と重なってしまったことで、瑠水の結界を維持する思いが拓矢の思いの影響を受けて霧消してしまう。

 水壁の結界が、霧のように霞んで消えた。それを好機と見た魔女は歪んだ笑みを浮かべて、上空に向かう真事に狙いを定める。その周囲にはずでに、無数の荊が猛蛇のごとくに残忍な鋭さを研ぎ澄ませ、今か今かと襲いかかるのを待っていた。

「皆、殺してやる……愛なんて……愛なんて‼」

 血走った瞳で涙を流しながら魔女は絶叫し、毒蛇の鎖を解き放つ。無数の凶尖が虚空を走り、拓矢を、真事を、瑠水を、翠莉をめった刺しにせんと迫る。

 これが、最後の危機にして、勝機だった。

「瑠水……いくよ」

『はい、拓矢』

 心の奥で想いを交わし、拓矢は瑠水と心を重ねて、想いの速さの詞を詠う。

「『《嘆きよ(le melze)、清らかなる涙に変われ(la shel she i meligo)。痛みよ(li alzem)、時の中に流れゆけ(lu i di e mel e franshe)。行く川の流れは絶えずして(la mals o lon kanon)、しかも元の水にあらず(ye a may en le sheklis)。》《彼の心身を蝕む悪しき傷に(yie liyz a mel e syanon)、癒瘡の手を触れさせたまえ(e zelio fei la mas alweilr)。》《我ら、一つの魂の元に(Lu a emi)、その想いを(i melio)、青き剣の軌跡に乗せて(al falnes li'o meldes swande)》」

 重なる想いが互いを高め合い、その生命の力は渦を巻く蒼水の彩光となって、拓矢と瑠水、二人の体から溢れ出し、その手に握られた流体の剣に纏われた。

 流れるような想いに乗って、拓矢は瑠水と共に、青い水光を帯びる剣を構えた。

「『蒼聖碧流(フル・エリミエル)・光輝の形相(エイドス・ホド)――《浄波・瑠璃水奈月(エオルネス・メリュエネイア)》‼』」

 一声、拓矢は剣を振り抜くように一回転し、剣に乗せた思念を周囲に解き放つ。澄んだ水の色の波紋が描かれた軌跡から周囲一帯に広がり、浄化の想いが波動となって黒の魔女の澱んだ力を清浄の色に染め上げ、塗り替えていった。その存在の齟齬に耐えきれず、魔女の荊の蛇が青い罅に割れ、ことごとく砕け散っていく。後には、何も残らなかった。

「おのれっ……おのれえぇぇぇぇッ‼」

 逆上した魔女は最後の手段を取り、自らが翠莉に宿した「邪悪の種」に力をリンクさせ、その力を一気に増幅させた。

「ひ、ぎッ……あ、ああぁぁあぁあああぁあぁあ――――――――ッ‼」

 上空で翡翠の殻に包まれてうなだれていた翠莉が、心臓を握りつぶされるような絶叫を上げる。比喩でもなく、彼女はその心臓を、魔女に握りつぶされようとしていた。

「死んでしまえ! 皆、みんな! 誰も私を許さない!」

 理性を失ったような声で魔女は絶叫し、その手の中にある邪悪の種を握りつぶそうとしている。翠莉の心臓に植え付けたそれを砕くことは、彼女の心臓を握りつぶすに等しかった。

 拓矢はしかし、力を出し切った反動で、それを止めるために体を動かすことができなかった。拓矢は一縷の望みに全てを託すような眼で、上空に浮かぶ翠莉の元に浮かぶ真事を見上げる。

 魔女の妨害は全て阻んだ。自分と同じく、同質の力を大量に消費した分、魔女の力の容量が無尽蔵でもない限り、これ以上先程までのような妨害を企てることはできないだろう。

 だが、魔女の最後の手段は翠莉を殺しかねない危険なものだ。彼女の生死を決めるのは、あとは真事の成否にかかっている。

 危険な状況にありながら、しかし拓矢の心の中には希望があった。

 大切なことに気付いた真事なら――翠莉の心に、届かないはずがないと。

「大丈夫……君なら、できる。だから……頼むよ、真事君」

 かすれそうな声で、拓矢は祈るように呟いた。

 瑠水が、心の中で一心に祈りを捧げているのが、拓矢にもわかった。

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