第14話 おふくろの味

「よっしゃー! ダフネちゃんが普通の人間に戻ったぞ!! いててッ」

 フレッドはダフネから受けた左肩の切り傷を押さえた。あと数秒……、アップルのチートが遅ければ、フレッドの命があやうかったのも事実だ。


「!? フレッド君のケガが……すごい早さで治っている……?」

 灰賀は回復中のフレッドを注視し、その目の前の現象に面食らう。


「〈寄宿者〉の自然治癒力は常人の数万倍に及ぶほどじゃからな。もはやフレッドやダフネは『再生者』。人間よりもアンデッドに近い生き物なのかも知れぬな」

 なぜかアップルは説明をしながら、腰をさすりダフネの横で狼狽ろうばいする。


「うぅ……やはり無理に他者をドーピングするチートは……、ワシにかなりの負担がかかるようじゃ」

「手を……貸そうか、アップル君……?」

 産まれたばかりの小鹿の様な動きをするアップルをいたわる灰賀。


「ハッ…………皆さんおそろいで……ハブ ア ナイスデイ!」

 キョトンとした顔で目開けたダフネはゆっくりと起つ。


「ダフネちゃ~ん……! ぅおっとー!?」

 すぐさまフレッドは彼女に駆け寄ろうとするが、地べたをはいずり回っているアップルに足を引っかけてしまう。


「キャアーッ!! 何をなさいますのッ!?」

 そして羨ましいことに、ダフネのふくよかな巨乳に彼は顔をうずめたのだ。

「このぉドスケベがぁああああ!!」

 悲憤ひふんのアップルによる右ストレートがフレッドの左頬を捉える。

「ぶぺらッ!!」


 蜂の巣をつついたような騒ぎになり、ひとまずフレッド達はセーフティエリア内で落ち着く。


「ちょっと気分悪そうだけど、大丈夫ダフネちゃん?」

「いえ……少し頭がクラクラするだけですわ」

「このゲームは……破れていた服も直るの……か?」

 ダフネの肩付近の布地が復元していることに疑問を持つ灰賀。


「ふむ、ゲーム公式装備であるアバターなら自動で修復するし、なにかしら付与効果も得られるのじゃ。ダフネのそのウサ耳カチューシャも『エネルギー+35、スタン軽減』の優れものじゃぞ!」

 何気無くアップルが、しゃがんでいるダフネのウサ耳を優しく撫でる。


「フレッド君の服は指定されたのじゃないから……ボロボロというわけか……」

「……ていうか服以前に俺の身体がボロボロなんですけどね」

 フレッドはいつにも増して連戦を重ねて精根を使い果たす――――。しかれども、レベルが18に上昇した事で、達成感をバネに再びヤル気が満ち溢れている。


「アップル! ……あれ? あいつどこ消えたんだ?」

「アップル君なら……ひと足先に瞬間移動で家に帰ると言って……」

 今更だが、アップルのチート能力の一つである〈テレポーテーション〉はアップル単独でしか発動できない。


「お嬢様ッ、ご無事でございましたか!?」

 そこに執事とおぼしき風体のご老人がダフネの方へ歩み寄る。

「バトラー、安全運転で帰宅いたしますわよ」

「へっ? ダフネちゃん、この人もしかしてNPCなの……?」


 フレッドの問いかけに、にっこりとダフネは謎の微笑を唇の漂わす。 

「それではまたお遭いする日まで……」

 彼女は赤い高級車に搭乗し、颯爽さっそうと町の中に消えて行ってしまった。


「……俺たちも帰りますか?」

「そうしよう……」


 自転車での帰り道、ハルベルトを持つ灰賀は民間人から非難の目で見られる。



 彼らがバーンズ家に帰った頃には、ちょうど正午を過ぎていた。

「うー……腹が減ったのじゃ、何か食わせるのじゃ!」

 一足先に帰っていたアップルが空腹でのたうち回る。


「食い物くらいお前のチートでチョチョイっと出せねーの?」

「ワシはドラ〇もんではないぞッ……、出来ることより出来ないことの方が圧倒的に多いのじゃ!」

 台所の床でひっくり返って駄々をこね、手が付けられない……。


「自分の行き付けの料理店が……あるのだが、一緒に行くかい……?」

「おぉ!! さすが灰賀じゃな、ワシ好みの店を頼むぞい!」

 フレッドはやれやれといった感じで、3人一緒に食べに行くことになった。


 家から徒歩8分の場所に、明らかに周りと浮いている飯屋の看板が立っている。

「ラーメン……?」 「ら~めん……?」

 フレッドとアップルが首をかしげ、その立札を読む。すると、灰賀は店の扉を開けふたりを中に通す。


 店の内装は日本でよく見る和食店に近い感じだが、インテリアなどが凝っており、オシャレな雰囲気をかもし出している。――他に客は誰もいないようだ。


「いらっしゃい灰賀さん! 今日はお友達とご一緒ですか?」

「あぁ周防すおうさん……とりあえずラーメン3つね……」

 店主と思われる白髪交じりのおじさんは元気よくオーダーに応えた。


「日本人は麺類が好きじゃと聞いておったが、こんなアメリカの田舎でら~めん店を出すとはのぉ……しかもゲームの中で」

「この町では……日本人は自分たち二人だけしかいないみたいでね……」

 灰賀はしんみりとして手拭いで顔を拭く。


 アメリカでは数年前からラーメンブームが到来しており、ロサンゼルス等では寿司よりも安く食べれるというのもあって大人気らしい。サイドメニューも枝豆や唐揚げなどがあり、日本人でもカフェ感覚で気軽に足を運べるようだ。


「俺も昔食った覚えあるぜラーメン。けど『とんこつ』がこってりしすぎて、なんか油臭かったんだよなぁ……」

「この店のラーメンは……口に合うといいのだが……」

「こやつの味覚はまったくアテにならんのじゃ」

 アップルがフレッドを小バカにしながらメニューを眺める。


「へいっお待ち!」

――――10分後、待望である昼食のラーメンがカウンター席に並べられた。

 見た目はごく普通でチャーシューに卵、刻みネギ、メンマが入っている。


 さっそくレンゲを手に取り、それぞれがスープを口の中にすすり込む。

「なッなんだこの透き通ったスープは……、しょうゆ味!?」

「ここのラーメンは……鶏ガラしょうゆスープだね……」

 フレッドは右手を箸に切り替え、麺を一気にズズズーッと豪快に食べた。

「俺が以前食ったことのある麺と比べると硬い……それに茹で加減が絶妙でコシがちゃんとある……!」


 高確率でアメリカ支店のラーメンの場合、アメリカ人の好みに合わせて麺が柔らかいことが多い。また、ココナッツミルクやガーリックなどのトッピングで味が極端に濃くなりがちである。


「むっふぉっふぉっ、ら~めん旨いのじゃ! 店主! ご飯とギョーザ、あとビールも追加するのじゃ!!」

「えっ……その見た目で酒を飲むのはさすがにマズいのでは……?」

 灰賀はBPOも考慮してアップルの飲酒を何とか止めさせる。


(どこか懐かしい味がすると思ったら、カーチャンの作った飯と似てるのか……)

 思いがけずフレッドは、かつての母親の手料理とそれを重ねていた。


 食事を終え、満足した様子でアップル御一行が帰宅の準備をする。

「じゃあ周防さん……おいしかったよ……」

「また来ておくれよッ! そこの嬢ちゃんと兄ちゃんもね!」

「新メニュー楽しみにしておるゾッ、オヤジ!」

 アップルは外見相応のやんちゃな一面をみせ、店主とお別れをした。


「無賃飲食で何か悪い気がしますね……」

 後ろめたそうなフレッドは灰賀に談話する。

「彼自身が進んでやり始めたことだから……自分は見守ろうと思う……」


「飲食店は基本NPCが担当をする事になっておるからのぉ、このゲームはあくまでアクションRPG……生産系のプレイヤーには配慮されておらぬ」

 そのアップルの言葉は彼女自身の立ち位置を再確認するものでもあった。


(アップルも結局はデータ生命体だから、与えられた役割をただ実行しているだけに過ぎないのかもな……)

 錯綜さくそうするフレッドは考えるのをやめ、さっきのラーメンの味を思い出す――。


「カーチャンはこっちの世界に来てないのかな……?」

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