第45話 ソフィーの思い

 ソフィーに作って貰ったお弁当も食べて、エンドレス石器時代の見学を終了とした。

 色々と考えさせられる見学会だった、気分転換という意味ではそれなりに良かったのかもしれない。


 帰って来て早々ではあるが先ぱいと別れ、俺たちは部屋に居る。

 俺とソフィーは再び向き合い、例の話し合いを始める格好だ。

「これから二人で話し合いをしたいと思います」

「はい」

 元気よく笑顔で返されるのだが、どこまで続くのか不安だ。


「率直に訊くぞ、お前は子供が欲しいのか?」

 遠回しにすると違う話に発展してしまいそうだしね。

「ほしいです」

 まあ、そうだろうな。


「子供が出来たと仮定しよう。その子は恐らくただの人間だぞ、俺もお前もその子の死を見ることになるがいいのか?」

 とても残酷な話だ。

 俺達がいいと結論付けても、生れた子がどう判断するのかは全く別の話だ、子供だって苦しむと思うぞ。

 彼女は少し考えるような素振りをした。

「私は構いません」

 頑なだな。


「俺とお前の気持ちの整理はついているとしても、子供の気持ちはどうなるんだ? 自身に置き換えて考えてみろ」

 この言い方もまた酷だ、彼女を両親は幼い頃に亡くしている。

「苦しむでしょうね。ですが、それはその子が判断することです。それに子供が出来れば、あなたの…あなたの肉体に何かあったとしても…」


「ああ、そうか、そんなことを考えていたのかお前は」

 額に手をやり考える、俺は俺の視点でしか見てなかったが、彼女はそうでは無かったのか。なんて愚かなんだ俺は。

「お前がそこまで考えてくれていると察せなかった、すまない」

「謝らないでください」

 申し訳なくて言葉もない、酷い質問もしてしまった。

 沈黙がこの場を支配するように、静かに時が流れる。




「私はこんな体ですが、子供は出来ると思っています」

 沈黙を破るように突然ソフィーが言葉を発した。

 二十三から二十八の周期の間なら、出来てもおかしくはないのか? 欠損は修復されるが、妊娠は異常とは捉えられないと?

 俺は難しく考えすぎているのかもしれない。

「私は女です、女としてあなたの子を産みたいのです」

 なんと強い意志だろうか? 羨ましくなるほど強い人間だ。

 俺がプロポーズされている気分だ、いい加減腹を決めるべきだな。



「かなりデリカシーに欠ける質問をするがいいか?」

「ええと、はい、大丈夫です」

 本当に大丈夫か? 自分で言うのも何だが本当にヒドイ質問だぞ。

「日本もそうだったと思うが、あの時代貴族以外は産めよ増やせよと、かなり性に緩かったと思うのだが…」

 この先はマジで言い辛い、察してくれ頼む。


「祖母にそういったことを勧められたことがありますが、拒絶しましたから大丈夫です」

 流石ソフィーだ、察してくれたようだ。だが、この度はそれが枷になるだろう。

 俺は顎に手を当てて、何と言えば角が立たないかと考える。だが、一向に良い考えは浮かばない。


「ふー、えーっとだな、その大丈夫な部分がだな…、お前は呪いで再生するんだよな?」

 彼女は固まった。

 彼女は再生する、再生の魔女という名の通りに何もかもが再生するのだろう。

 俺が最も懸念していた部分だ、こればかりはどうしようもない。どれだけ時間を掛けてほぐしても、端から再生されたらどうにもならん。

 彼女にとっては初めてのことで色々と知識が足らなかったのだろう、未だに再起動する兆しは見えない。



 結局ソフィーが再起動するのには、結構な時間が掛かった。その間俺は静かに見守り続けた。

「試してみなければわかりません!それにあなたは時間を操れるではありませんか!」

 そういう考え方があるのか? 笑いが漏れた。

「言いたいことは分かるが、俺にそんな細かい芸当は無理だぞ」

「やってもらわないと困ります!私たち夫婦の最初のとても大事な儀式なのですよ!」

 やばい笑いが止まらない。

「力み過ぎだ、もっと普段の澄ましたお前みたいにしろよ。ソフィー」

「ですが!」

「別に金輪際会えなくなる訳ではあるまい?」

「それは、そうですが」


「お前が必死になるほど俺のことを考えてくれているのはとても嬉しいが、もっと力を抜け」

 取り乱したのも嫌いではないけどな。

 プーっと膨れっ面をしているが、可愛いものだ。

「わかった、わかたから、なら今から試してみようじゃないか」

 彼女の手を取り抱き寄せる、大人の女性を運べるほどの筋力は今の俺には無いのだが、そこは神の力で補いベッドへと運んだ。

 




 ソフィーは借りてきた猫のように、終始大人しくしていた。顔は真っ赤なままなのだがね。

「大丈夫だったではないですか!」

「本当に大丈夫か?優しくしたつもりだが…」

「お互いに気を使いすぎて、空回りしていたのだと思います。私たちは夫婦なのですから、遠慮なく話し合っていきましょう」

 ソフィーには敵わないな。

 結局のところ、彼女の純潔の証とでもいうものは二十三歳を迎える前に自然に失われていたようだった。

 確かに考えすぎていたのだろう、気を使うということ自体は悪いことだとは思わないが、色々と空回りしていた事実は否めない。


「今日は暫くこのままでいようか?俺は少し疲れたよ、歳だな。肉体がだけどな」

「それではこのまま暫く、横になっておきましょう。食事の時間になれば、誰か呼びに来るでしょうし」

 彼女は纏わり付いてくるが可愛いものだ。心地よい疲れ具合が眠気を誘う、抗うのも大変だ。

「お休みになられるのですね、私が見守っていますのでごゆっくりしてください」

 なんでもお見通しのようだ。

「すまんな、少し眠らせてもらうとしよう」

 それから夕食へとお豊が呼びに来るまで、俺はぐっすりと眠っていたそうだ。

 その間ソフィーが何をしていたのか、俺は知らない。

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