第43話 紹介を頼む

 昼食後である、皆まったりとお茶を嗜んでいる中で相談を始めることにした。


「リタちゃんにお豊の教育係をお願いしたいのだが、受けてもらえるだろうか?」

 別に厄介払いしようという訳ではない。お豊は江戸純正の商人でしかないので、現状に於ける家事一般を仕込んでもらいたい。ここの生活様式も変わってはいるのだがね。

「私の期限が来る前に、きちんと仕込んで差し上げましょう」

「アンバーに交代するまでは、ここに引き続き居候させてもらうとするか」

「任せておきな、しっかりと役に立ってやるさね」

 本人がやる気なら問題あるまい。


「それとな、ソフィーが俺と同部屋になるので、お豊を一人にさせてしまうことになるのだが、少し心配でな。

 そこでウサオをお豊に預ける形にしたいのだが、どうだろうか? ソフィーもどうだ?」

 ウサオはソフィーと繋がりがあるから、もしお豊に何かあった場合対処しやすい。

「ウサオちゃんの了解も取れましたので、お願いしてしまいましょう」

 ウサオとはおにぎり程の大きさからの付き合いだ、普段素っ気ないが物分かりが良くて助かる。


「駄目よ、ウサオくんを連れて行くのは許可できないわ」

 そこでゴネないでくれよ、先ぱい。

「四六時中、食堂に放し飼いなんだし平気だろ?夜だけお豊と一緒なだけだ」

 この後お願いしたいことがあるので、余り機嫌を損ねたくはないのだが。

「わかったわよ、それで手を打ちましょう」

 そもそもウサオの飼い主は俺なんだけどな。

「これでお豊の件は一安心だな、協力に感謝するよ」


「えっとそれでお兄ちゃんとソフィーリア様が同室ということは、そういうことですよね?」

 リタちゃんの目が何かキラキラしている、興味津々なお年頃なのか? ロリババアじゃなかったのか。

 はっきりと言えば、この質問は勘弁してほしい。

 俺とソフィーが普通の人間であるのならば、シモネタの一つや二つ平気なのだが現状は極めて微妙なのだ。

 そして何より先ぱいの表情が怖い、静かに状況を見守っているとソフィーが口を開いた。

「あの、そ、その話は、また後日ということにしましょう」

「そうですか、残念ですが今日は控えておきましょう」

 うまい具合にお茶お濁したソフィーに、空気を読んだリタちゃん。お豊は話題に入り損ねたようだ、正直助かる。

 相変わらず睨みつけてくる先ぱいの目が怖い、心配しなくてもそんなことにはならないんだよ。

「今夜はまあいいでしょう。以降は居候であることを自覚してほしいわね」

 フンと鼻を鳴らした先ぱいだが、優しいじゃないか。


「これで生活に纏わる話は終わりだな、自由にしてくれていいよ」

 相談を締めくくると同時に先ぱいに念話を飛ばす。


『ちょっと頼みがあるんだが構わないか?』

『どうしたのよ、秘密の話?』

『まあそうなるな、以前話してたろ? 俺以外に同じようなのがもう一体いるって、紹介してもらえないかな』

『まあいいけど、アレは神には興味をしめさないわよ? あなたの場合はどうかしらね』

『変わり者っぽいな』

『元が無機物だから、自我を得た状態でも興味の対象が人間に限られるのよ』

『そりゃ好都合かもしれんな』

『何をするつもりなの?』

『ちょっとな調べたいことがある』

『いいわ、貸しよ。近い内に返してもらうからね』

 何をさせるつもりかは知らんが、伝手が得られただけでも十分な収穫だ。



「どうしたんですか?ぼーっとして」

「ああいや、考え事を少しな」

 内緒話をしていたとは言えんよ。

「何を考えていたんです?」

「今夜お前をどう料理してやろうかと思ってな」

 ソフィーは真っ赤になって俯いてしまった、腕が何やら動いているが意図は掴めない。

 恥ずかしい冗談で彼女の気を逸らせた間に考える、呪いを解く方法が見つかるかどうか。

 あの森の奥に居るという神が関わっていてもおかしくはない、古い人間が創り出したのかも不明だ、『原点回帰の術式』とやらの本質を探らねばならないだろう。


「もう恥ずかしいことをさらっと仰らないでください」

 もう再起動したのか免疫がついてきたか、思考を止めて話に付き合うとしよう。

「可愛いから弄りたくなるんだよ」

 頬を膨らませそっぽを向くソフィー、本当に可愛いから困る。

「そうだ! 新婚旅行にでもいくか? 時間旅行は勘弁してほしいが」

「必要ありません、傍に居てくれるだけでいいんです」

 千年拗らせただけあって、少し重いんだよね。

「そうなのか、俺は下の石器時代に少し興味があるんだけどな」


「あら?そうなの、なら今度案内してあげるわよ」

 俺が色々誤魔化しているのを察したのか、先ぱいが話に加わった。

「そりゃ助かるな、一緒に行ってみようソフィー」

「はい、お供します」

「仲睦まじいのはいいけど、程々にして頂けると助かるわね」

 先ぱいにしたら、四六時中残滓がそんなことを囁いているのだ、そりゃ嫌にもなるだろう。俺もいずれはそんな風に感じるようになってしまうのだろうか? 少し寂しい気がした。


『本当に何をするつもりなの? あまり考え込むと悟られるわよ』

 先ぱいから念話が飛んできた、気が利くことで。

『まだ何も出来ないさ、だから調べたいんだ。助言感謝する』

 確かにそうだな、考え込んだところで答えは出ないものな。


「それでどうするの、明日にでも行ってみる?」

「そうだなそうするか、ソフィーいいな」

 ソフィーが頷くのを確認する、気分転換にはちょうど良いだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る