第42話 爆発しなかった

「ソフィー、堅苦しい話はこのくらいにするとしてだ。婆さんは穏やかに逝けたのか?」

「はい、最期まで私があなたのことに執心していることを心苦しく思っていたようですが、それはもう」

「なら良い、それで森の管理とやらは放置してて平気なのか?」

「どうでしょうね? 保管されていた術式や書物の管理はしていますが、森がどうなったのかは不明です」

「それ大丈夫なのか、あの森、神が居るんだろう?」

「私はその神に会ったことはありませんし、祖母も幼い時に一度だけ遠目に確認しただけだと言っていました。ですから、大丈夫だと思います」

 それ本当に、大丈夫なのか?


「もう一つ疑問があるのだが、お前なんで髪の色が変わっているんだ?」

「私の一族は元々魔女の家系なのですが、祖母の教えに従って修行している内に髪の色が銀色に変化しました。詳細はわかりません」

 いまいちピンと来ない話だな、要するに本人もわからないのか。

 これで大方の疑問は解消されたと思いたい、まだあった。


「お前いつから俺を監視してた?」

「そうですね~、あなたが十五歳くらいの頃からですね」

 不思議だ、どうやって俺だと見当をつけた?

「どうやって見つけた?」

「愛の力です」

 恥ずかしい台詞を吐いて、真っ赤な顔をしている。俺まで恥ずかしいわ。

「まあいい、わかった。今まで見守ってくれてありがとうな」

 全部見ていたのだろう、俺自身が思い出したくもない過去を全て。


「いいえ、私はただ見ていただけです。…それとウサオちゃんなんですが、私と使い魔契約を結んでいます」

「はぁ? いつの間に」

「あなたがウサオちゃんのケージを外で洗っている時にちょっと」

 一歩間違えたら、至上最悪のストーカーになってたな。

「だから、アイツあんなに長生きなのか?」

「それもあると思いますが、元々長命なのでしょう。雑種ですからね」

 純血よりは頑丈なのかも知れないが、それでも長く生きていると思うぞ。

 ウサオはソフィーのことをずっと前から知っていたのか、妬けるな。



「ぱっと思いつく疑問はとりあえず解けたな。何かあるか?」

「あ、あの、今日から一緒に、一緒に寝てもいいですよね」

 俺眠らないんだけど、それは夫婦の営み的な話で言っているのだろうか? そういう感情はかなり薄まっているのだが。

 それに肉体に戻ると有無を言わさず、爆睡してしまうのだ。これは困った、どうしよう?

「それはかなり難しい問題を孕んでいるが努力してみよう」

 茹蛸みたいなってモジモジしているとこ悪いんだが、爆睡して夜が明ける未来しか見えない。


 これは子供を望むということだろうか? この件に関しては何が正解なのか、判断に迷うんだよな。

 もし子供が出来たとしても、その子は恐らくただの人間だろう。ということは、間違いなく俺やソフィーはその死を目の当たりにすることになる。

 その時俺はギリギリだが何とかなるかもしれないが、彼女はどうするつもりなのだろうか?

 彼女は今までも多くの死を見てきたはずだが、自分の血を分けた子供となるとまた話は変わってくるだろう。

 これはとてもデリケートな問題だ、しっかりと納得したうえで行動するべきだと俺は考える。

 今日は恐らく何も起きないだろう、彼女の呪いの問題や俺の肉体との問題が障害となるはずだ。どう切り出すべきかな?

 千年間も拗らせテンションの高まっている彼女を、地獄の底へ突き落とすような真似は出来ない、日を改めて話すこととしよう。

 失敗することが分かっていて、何も言わない俺はかなり酷い奴だと思うがね。


「ソフィーが俺と一緒ということは、お豊をどうするかだな」

 あのババアは先程試しに創った器に入っている、不備が無いとは言い切れないし思えない。

「食堂に戻って相談してみましょう、報告しなければいけませんもの」

 そろそろ戻るか、荒れそうで怖いが向かうとしよう。




 ソフィーが扉を開ける前にするりと壁を抜け食堂に入る。

「話は済んだ、先ぱいありがとう」

「もう先に行ってしまっては駄目ですよ」

 ソフィーは笑顔でプンスカしてる、器用なことを。


「真面目な話をしに行ったと思うのだけど、その笑顔は何かしらね」

 俺は先ぱいに向けて渋い顔をした、それはフリにしかならん。ソフィーが何回も頷いている。

「ふふ聞きたい?」

 ああ、これはマズいが止められない。

「なによ? 答えなさいよ」

 ソフィーは左の手の甲を先ぱいに見えるように突き出した、不思議そうに見つめる先ぱい。

「私たち結婚しました!」


「ちょっ」

「おめでとうございます、ソフィーリア様」

「なんだい、おめでたいじゃないか」

 尚も押し黙る先ぱいを尻目に、リタちゃんとお豊は祝福してくれているようだ。

「それでは細やかではありますが、夕食を豪華にいたしましょう」

「居候の身だ、いつも通りで構わんよ」

「そうはいきません、私はソフィーリア様を祝福したいのです」

 お前ら仲良いからな。

「そういうことなら、あたしも手伝うよ」

「ありがとう、二人とも」

 ソフィーは二人に礼を述べる、若干一名が固まったままだがどうするか。


「ど、ど、どういうことよ? あなた神なのに結婚ておかしいでしょ?」

 おっ再起動した。

「神なら何に縛られることもないんだ、結婚したって別に良いだろ」

「ぐ、ウサオくんあなたの飼い主が私をイジメるのよ!」

 先ぱいはウサオの元に逃げて行った、ウサオはそっぽを向ている。「爆発しろ!」はなかったな、期待していたのに。


 

 騒がしい食堂で皆は昼ご飯を食べている、俺はいつも通りフヨフヨ浮いているだけだ。先ぱいも回復したらしい食事をしている。

 ソフィーは絶えず笑顔を振りまいていた、幸せそうで何よりだ。

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