第35話 ひたすらフヨフヨする

 アントン神父と別れてから、どのような方法で日本に行くかを考えた。

 なんでもいいのでランドマークを指標にして遠距離転移をしようかとも考えた。しかし失敗が怖い、記憶にあるランドマークだと現代の物だ、下手すると時間も一緒に跳んでいくだろう。

 四百年という微妙なラインが怖い、成功しても現代すら飛び越える恐れが無いと言い切れない。


 結論として、目視指標に依る転移とフヨフヨ移動で進むことにした。

 では、どのルートで行くか?陸路か海路かだ。当初シルクロードを利用しようと考えていたが、そこまで行くのが面倒なのだ。

 そこで新たな案では、オウルから真東へ進みロシア北方から海岸線沿いに日本に入るルートをとる。



 実際このルートを選択した、そして今も進んでいる。

 とても寂しい旅路だ、見渡す限り断崖絶壁と海、そして氷しかない。たまに海鳥が飛んでいる。

 俺には気温など無関係だ、寒くないし、腹も減らない。ひたすらに進むのだ!気合いだ!



 そんな風に思っていた時期が俺にもありました…。

 同じ風景ばかりで飽きてきた、もう何日経ったのかすら忘れた…。

 極たまに小さな漁村があったりするが、ふ~んと横目に観て通り過ぎる。今どこあたりだろうか?

 本当に今更だが、失敗したかなぁなんて思っている。

 前方の景色と後方の景色はほぼ同じ、左右が崖と海で異なる為方向を見失うことはないのだが、とても寂しい旅だ。



 先ぱいを弄って遊びたい! ソフィーの顔も見たいな。

 ソフィーと言えば、あの森の少女を思い出す。なんでだろう?

 あの約束だ…、守れなかった約束。あの娘最初に会った時なんて口走った?強引に思い出す。


「お久しぶりです。約束通り、『また』会いに来ました」

 そうだ、そう言ったはずだ。

『お兄ちゃん、約束だよ! また会おうね』

 少女はこう言ったのはまだちゃんと覚えている。

 この符合が何を意味するのか、帰ったら訊いてみるか? もしかすると、子孫かもしれない。

 子々孫々に渡って、俺に会いに来るとはとても信じられない話だがな。



 進めフヨフヨ進め、無心で進め!…非常につらい。


 無理、無心など無理だ。考えよう、考えながら進もう。

 さて、考えないといけないことといえば、四百年をどうするかだ! 半端すぎる。

 日本に着いたら何時代だ? 江戸時代初期かな。

 時事ネタで跳ぶのは危なそうだな、やはり何かの成長か風化を指標にしたいところだ。

 「桃栗三年柿八年ゆずの大馬鹿十八年」と三年と八年と十八年じゃ短すぎるんだよな、もっとズバーン!と一気にいきたい。イケネ思考が先ぱいに毒されている。

 最初に二百年や三百年は越えたいところだな、あとは本当に小刻みか若しくは一気か何とかなるだろう。


 百年で朽ちるもの何かないかな~?

 …あった、人間だ。でもなあ、赤子を起点に遺体を終点にするってのも、気が滅入るな。却下だ。

 他に何かないか……馬か、いや動物はやめよう。無理だ、俺が耐えられん。

 少なくともあと百年なんとか出来ないかな?何かないかな~。



 お! なんか凄い進んだ気がするけど、気のせいかな。

 ちょっと昇ってみよう、上空にあがる。俺、高所恐怖症のはずだったのにどうしたことやら?

 高けぇという次元じゃない、成層圏くらい昇ってる? 半球状だが地球儀だ、地球儀! 地球は青かった。

 もうちょいだな、ここまま移動しよう。なんで今更気付いたんだ、見ながら進めるじゃないか、呼吸すら必要ないのだから。


 ん? ちょっと待て、ここから日本目指して落下したら良いんじゃないか?…それだ! そうしよう弾道飛行ってやつだ。

 最初に気付けよ…俺。




 やったー着いたぞ!花のお江戸だ!

 はぁー、遠かった。それはもう気が狂いそうなくらい、何もなかったからね。オウルから何日掛かったのか? 一月くらいかも。

 宙に漂ったまま正面を見据える、あれが江戸城か…綺麗だな。生で観れるってのは幸せだね。


 徐々に壊れてきてる俺だが、関係ないとはいえ目の前の人間の死を未だ許容できないだろうな。指標をどうするかな。

 日本史より世界史の方が好きだったので、江戸時代はよくわからん。ややこしいのだ、参考になりそうにない。

 まぁいいや、ウロウロフヨフヨしながら考えよう。

 町を進む途中に聞こえてくるのは日本語だ、少し現代とは違うけど日本語だよ! 言葉が分かるって素敵なことだったんだね、俺は実感したよ。泣きそう。

 

 えっと、降下してる時に見えたんだけどあれか! 歓楽街、遊郭っぽい見学に行こう。男の子としてはこういうの気になるよね? そういった欲望はほぼ無いんだけど、気になるじゃないか。

 

 なんだこれ、凄いな。煌びやかと表現すればいいのかな、妖しい感じが堪らない。ネオン街とはまた違う妖しさがある。


 かなり高そうな場所を見付けた、お座敷でも見学してみよう。

 重そうな着物を着た太夫や芸妓さんがいるわ、いるわ、こんな感じなんだね。

 偉そうな侍が酒を飲んでいる、いいなー俺も酒飲みたいな。こっそり一杯貰いたいが、飲めないのだ体が無いからな。

 駄目だな、ここに留まると酒飲みたくなる、行こう。右手を高く掲げ「さらば、遊郭」と呟いた。

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