第29話 森のおっさん

 村? 村までいかないような小さな集落を発見した。でも期待出来そうにないな、人口少なそうだもの。そして案の定、誰も気づいてはくれなかった。


 集落の出入り口付近には、余程注意していないと見落とすであろう獣道のように細い道があった。藁にも縋るつもりで、この道をを進んでいくことにする。てか、他に行く場所が思いつかない。


 再び森だ、余り深くない森だといいな。

 集落付近の浅いところには、樵が入っているのか切り株が散在していた。切り株の数が減ってくると鬱蒼とした森が広がっている。気分も鬱蒼としてくるよね、マジで。

 独り冗談を口ずさみながら進む、寂しいんだよ。最近ずっとハーレムみたいなところで暮らしていたからな、何もしてないけど…。


 昔、知り合いのヒモがハーレムは地獄だから、妄想だけにしとけ!って酒の席で愚痴ってたっけ。

 喋ってないと何か出そうで怖い、こんな存在の癖して何言ってんだとか言われそうだけど。


 右側、視界の端に何かを捉えた!黒くて小さい何かが走り去って行った。獣か?まあ何でもいい、少し離れて追いかけよう。



 あばら家を見付けた。一応覗いてみるが半分以上が朽ちて、誰も住んでいるようには見えない。樵小屋?樵が居そうな感じではないのだがな。

 あ!しまった、さっきの何かを見失った……。


「おーい、どこいったー」周囲を探す、しかし薄暗くてよく見通せない。

 …何かある! 結構大きめの木の枝にロープが二本垂れさがっていて、木の板に結ばれているブランコだ。ブランコだよな?

 一応確認の為に近寄ってみることにした。しかしよく出来てるなこのブランコと感心していると、声っぽい何かが聞こえた。


「・・・・・・・・・・・・・・?」

 目を凝らしてじっと周囲を探っていると、さっき見失った黒い何かが居る何か喋っているようだ。

 少し近寄ってよく観察してみると、人間の子供だった。真っ黒なローブを頭からすっぽりと被っている、遠目で観たら黒い何かにしか見えんな。

 子供はこちらの方を指さして少し首を傾げている。俺は辺りをぐるり見回したが、何もなかった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 今度は俺の近くに寄ってきて顔を上げ、俺を指さして話しかけてきた。綺麗な金髪の少女だった。

「俺か」と親指で自分を指し示してみた。子供は大きく頷いた。

 いけね、言葉が通じないんだった、すっかり忘れてたぜ。


『俺のことが見えるのか?』念話を飛ばす。

 子供は、突然頭の中に声が響いたから吃驚しているようだ。

『すまないが、この地方の言葉がわからなくてな、こうして頭の中で話をさせてくれ。

 君も俺に話したいことは、伝えたいと念じれば伝わるから』

 この念話の欠点は、相手が俺を認識していないと一方通行で返信が来ないということ。相手が驚いて何か口にしても、何言ってんのかさっぱりわからないままだ。

 要約すると、言語体系が異なると何の役にも立たないのだ。


『……お兄ちゃんはどこから来たの?』珍しくノイズがない、距離が近いからかな。

 ちょっと待て、俺はおっさんでおじちゃん呼ばわりされるはずだ。スケスケ東洋人は若く見えるのか?

『どうしたの、お兄ちゃん』

 ……あ!思い出した『お兄ちゃん事件』の対応策で若返ってたんだった。


『ごめんごめん、ちょっと考え事をしていてね。どこから来たのか、か

 正直に話すと、神様の世界からやって来たんだ。ちょっと失敗しちゃって、ここら辺に来ちゃったんだ』

 正直に話した、子供に嘘はつきたくない。

『お兄ちゃん、神様なの?』

『一応、新米の神ではあるけど様は付けなくていいよ』

 神様呼ばわりは、勘弁してほしい。こんなだけど気分は人間なのだ。

『帰っちゃうの?』

 再び、首を傾げて訊いてきた。

『帰りたいんだけど、……帰れないんだよ。だから、少しこの辺のお話を聞かせてほしいな』


『ちょっと待ってて』

 子供は近くにあった小屋のような小さな家へ走って行くと中に入っていった。そして、草臥れた老婆を連れてきた。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

 婆さんは何か言って頭を深く下げた。この婆さんも俺を認識できるのか?どうなってる、あれだけ探しても見つからなかったのに。


『あなたも俺のことが、分かるみたいだね』

 婆さんは子供がそうであったように、吃驚している。子供が何か婆さんに話し掛けている。

『はい、あなた様のような方に久しくお会いしたものでして』

 ほほう、他にも神がウロついてるのかこの辺りは。


『なら話は早い。ちょっと失敗してしまって、ここらに飛ばされてしまったのだ。そうだな、大きな国の噂とか聞いたことはないか?』

 大きな国の名でも聞けば、何かわかるやもしれん。


『私たちの住むこの辺りは深淵の森と呼ばれています。生憎と私たちはここから離れることがなく詳しいお話は難しいですが、遥か南に行き海を越えると、神聖ローマとやらがあると聞いたことがあります』 

 神聖ローマ?…神聖ローマ帝国か?

 それに深淵の森ねぇ~、また仰々しい名がついた森だな。

『ありがとう、少しだが状況はわかった』

 俺は深く頭を下げて礼をした。しかしまた随分と昔にやってきたもんだ、これそう簡単には帰れないぞ。

 事故で偶発的に飛ばされてきたとしても、飛びすぎだろ!

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